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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・50〔お祖母ちゃんをカバンに入れて〕

2022-01-23 06:40:55 | 小説6

50〔お祖母ちゃんをカバンに入れて〕 

    


 お祖母ちゃんをカバンに入れて多摩の山中に出かけた……。

 と言っても、お祖母ちゃんを絞め殺して、山の中に捨てにいったワケではない(^_^;)。

 だれでもそうだけど、あたしには二人のお祖母ちゃんが居る。

 お母さんのお母さんと、お父さんのお母さん。

 お母さんのお母さんの方は、石神井で、足腰不自由しながらも健在。

 カバンの中に入ってるのは、お父さんのお母さん。つまり父方の祖母。

 このお祖母ちゃんは、去年の7月に、あと10日ほどで88になるところで亡くなった。そのお祖母ちゃんの遺骨が、あたしのカバンの中に入っている。

 うちのお墓は、多摩にあるロッカー式のお墓。3年前にお祖父ちゃんが亡くなったときに初めて行った。

 お祖父ちゃんの骨壺はレギュラーサイズだったけど、三段に分けた棚には収まらなかった。しかたないんで、一段外して、なんとか収めた。

 これで、うちの家族は学習した。

「ここは、普通の骨壺で持ってきたら、一人で満杯。アパートで言ったら単身者用の1K」

「このセコさは、ほとんど詐欺だなあ」

 お父さんは怒っていた。

「そのうちに、なんとかしよう」と、言ってるうちにお祖母ちゃんが、去年の7月に、突然亡くなった。

 で、しかたないので、分骨用の小さい骨壺に入れてもらった。容量は500CCあるかないか。
 ほんのちょっとしかお骨拾えなくって、可哀想な気になった。

 そのペットボトルほどの骨壺が、あたしのカバンの中でカチャカチャ音を立てている。

 べつに骨になったお祖母ちゃんが、骨摺り合わせて、文句言うてるわけではない。フタが微妙に合わなくて、音がするんだ。電車の中では、ちょっと恥ずかしかった。

 あたしは、このお祖母ちゃんの記憶がほとんど無い。

 小学校に入ったころには、認知症で特養に入っていたしね。要介護の5で、喋ることもできなくて、頭の線切れてるから、あたしのこともお父さんのことも分からない。

 ただね、保育所に行ってたころ、親類の家で熱出して、かかりつけのお医者さんに連れて行ってくれたことだけ覚えてる。
 正確には、お父さんが、あたしを背負って、お祖母ちゃんが先をトットと歩いた。足の悪かったお祖母ちゃんは、普段は並の半分くらいの速さでしか歩けない。それが、そのときは、お父さんより速かった。

 だから、記憶にあるお祖母ちゃんは、後ろ姿だけ。

 その後ろ姿が、骨壺に入ってカチャカチャお喋りしてる。フタの音だというのは分かってるけど、あたしにはお祖母ちゃんの囁きに思えた。

 その囁きの意味が分かるのには、まだ修行が足りない。大人になって、今のカチャカチャを思い出したら、分かるようになるかもしれないなあ。

 だけど、この正月に亡くなった佐渡君は、ハッキリ火葬場で姿が見えた。声も聞こえた。お祖母ちゃんのがカチャカチャにしか聞こえないのは……あたしの記憶が幼いときのものだから……そう思っておく。

 多摩の駅に着くと、初めて見る女の子が来ていた。

「あ、未来(みく)ちゃんじゃないか。大きくなったなあ!」

 お父さんが、昔の営業用の声で言った。それで分かった。あたしの従兄弟の娘だ。

 うちは、お父さんもお母さんも晩婚。伯母ちゃんは二十歳で結婚したので、一番歳の近い従兄弟でも20年離れてる。
 だから、従兄弟はみんなオッサン、オバハン。従兄弟の子どもの方が歳が近い。

 だけど、この子には見覚えが無い。

 あ……思い出した。このオッサン従兄は離婚して、親権がない。それが、こうして連れてこれたというのは……お父さんは、一瞬戸惑ったような顔になってから声かけてた。身内だから分かる微妙な間。なんか事情があるんだろ。

 納骨が終わると、未来ちゃんの姿がなかった。

「腹が痛いって、待合いで座ってる」

 オッサン従兄は、気まずそうに言う。

 待合いに行くと、椅子にお腹を抱えるように丸くなった未来ちゃんが居た。

「大丈夫、未来ちゃん?」

 声をかけると、ビクっとして、でも顔は上げない。

 ちょっと意地悪かもしれないけど、しゃがんで顔を覗き込んだ。

「う、うん……大丈夫」

 どこが大丈夫なんだと思った。佐渡君と同じ景色が顔に見えた。未来ちゃんは人慣れしてない。おそらく学校にもまともに行ってないんだろうね。それ以上声をかけるのははばかられたよ。佐渡君と違って、血のつながりはあるけども、心の距離は、もっと遠い。

 

「なんか、この時代の人間はひ弱だねえ」

 家に帰ると、さつきが心の中で呟いた……。

 


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