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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠・36[虚無宇宙域 ダル・2]

2019-10-20 06:50:01 | 小説6
宇宙戦艦三笠・36
[虚無宇宙域 ダル・2] 



 20パーセクワープしたつもりが、わずかに0・7パーセクあまりで停まってしまった。

 つまり、直径1・5パーセクある虚無宇宙域のど真ん中で立ち往生してしまったわけである。
「……!?」
 さすが艦長の修一も言葉もない。
「非常電源で、艦内機能を維持するのが背一杯です。もう三笠は一ミリも動きません」
 機関長のトシが絶望的な声で固まる。他のクルーたちも息をのんだが、修一を責めるような空気は無かった。
「もう20パーセクワープするエネルギーを溜めこむのに、どれくらいかかる?」
「楽観的に見て20年です……」
 トシが力なく答えた。

 三笠は、虚無宇宙域のど真ん中で孤立してしまった……。

「アクアリンドのクリスタルは使えないの?」
 航海長の樟葉が聞いた。
「エネルギーコアがあるにはあるんですが、エネルギーに変換されるのは80年後です。それに、三笠の光子機関との接続方法もわかりません」
「どうでもいいけど、トシって、ダメな結果を言う時の方が答えがはっきりしてるわね」
 美奈穂が毒を吐くが、トシを含め、だれも反論する元気は無かった。

 窮した修一は、船霊のみかさんに聞きにいった。

「アメノミナカヌシは、虚無から世界をお創りになったわ」
 ニコニコと、古事記の創世記を聞かせてくれただけだった。
「みんなで決心してやったことだもの、誰も責められないわ。自然の流れに乗っていくしかないでしょう」
 そこまで言うと、神棚に隠れてしまった。

 二日がたった。

「なによ、この非常食は!?」
 食卓に、非常用の乾パンが載っているのを見て、美奈穂が悲鳴をあげた。
「生命維持に必要なエネルギーを優先的に残すためです……」
 クレアが、事務的な声で言った。
「仕方がない。とにかく考えよう」
 修一は乾パンを齧った。

 四日がたった。

「重大な提案があります」
 トシが憔悴しきった顔で言った。食卓には乾パンさえ出ていなかった。
「クレアさんと相談したんです。救命カプセルに入って冬眠状態になろうと思います」
「わたしと、ウレシコワさんは残ります。二人は人間じゃないから、入る必要がありません」
「でも、クレアの義体の表面は生体組織だ。それにメンテナンスもしなきゃ、持たないよ」
「生存の可能性は、みなさんの何倍もあります。ウレシコワさんは船霊だから、このままで残れると思います」

――賭けてみましょう――

 みかさんの声だけがした。薄情なのかと思ったら、実体化するだけで船のエネエルギーを使ってしまうかららしかった。
 こうして、修一、トシ、樟葉、美奈穂の三人は救命カプセルで冬眠することになった。

 そして、20年の歳月がたった……。
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