goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・10『ピカピカの看板』

2022-06-03 09:49:11 | 小説6

高校部     

10『ピカピカの看板』 

 

 

 あ……

 

 一瞬目をつぶってしまった。

 角を曲がって校門が見えてくると、朝日が学校の看板に反射して眩しかった。

 入学して一か月がたったけど、こんなに眩しく感じたのは初めてだ。 

 朝日と看板の微妙な角度で目を刺すんだろう。五歩も進むと眩しくなくなるが、その刺激で、思わず校門を潜るまで、看板を見つめてしまった。

 

 PIVOT  HIGH  SCHOOL(ピボット高校)

 

 英語の横文字表記の下に2ポイントほど小さな日本語の校名がレリーフになっていて、朝日が反射しなくてもピカピカ。

 入学式の時は大きな『2022年 ピボット高校入学式』の立て看板の横で写真を撮った。

 門扉の横のレンガ塀に学校の看板があるのは分かってたけど、マジマジ見るのは初めてだ。

 英語の横文字は、古めかしい亀の子文字だ。

 今どき、こんな古い書体じゃ読めないだろう……まあ、書体を含めてのデザインなんだろうけど。ひょっとしたら著作権があるのかも……と思いつつ、一時間目は体育で、早く着替えて移動しなくちゃと思ったとたんに忘れてしまった。

 

「ちょと、看板を磨いていたんだ」

 

 部室に入ると、マネキンには、いつもの制服ではなくてジャージがかけられていた。そのジャージから、クレンザーのような匂いが漂っている。

「あ、先輩が磨いたんですか?」

 今朝の看板が浮かんできた。

「おお、気が付いたか(^▽^)」

 なんだか、すごく嬉しそうな顔になる。

 素の顔でも美人なんだけど、笑顔になると、ちょっと反則なくらいの可愛さが加わる。

「あ、でも、授業は出てたんですよね?」

「ああ、むろんだ。昨日一度磨いたんだけどな、なんだか足りない気がして、六時間目に、もう一度やったんだ」

「サボリですかぁ?」

「人聞きの悪いことを言うな、自習だったんだ」

 自習でも、終礼はあったんだろうけど、深くは追及しない。

「でも、なんで先輩が看板磨くんですか?」

 いつものようにお茶を淹れながら背中で聞く。ひょっとして、なにか悪さをして、その罰にやらされてた?

「愛校精神だ」

 青信号で道を渡りました的に当たり前の答えが返ってきた。でも、愛校精神で看板を磨くというのは、青信号の上に、手を挙げて渡りましたというぐらいに珍しくて、わざとらしい。

 でも、指摘すると、きっと顔を赤くしてワタワタしそうなので追及はしない。

「お、今日はケーキですか!」

 お茶を飲むときには、なにかしらお菓子が載ってるテーブルに、今日はコンビニのそれよりは二回りも大きなショートケーキが載っている。

「ひょっとして、先輩のお手製?」

「バカ言うな、自慢じゃないが、そういう乙女チックなことは苦手だ」

 お手製と思ったのは、ちょっと大振りなことと、作りがザックリしていたからだ。

「駅前のポッペってパン屋がケーキも作ってるんだ。まあ、食え」

「いただきます…………おお!」

 ちょっとビックリした。どうにも遠慮のない甘さなのだ。

 今日は体育もあったし、お昼を食べたとはいえ、高校生が放課後にいただくには、ちょうどの量と甘さだ。

「ハハハ、男が美味そうに食べる姿はいいもんだな」

「看板見て、改めて思ったんですけど、なんで英語表記の方が日本語よりも大きいんですか?」

「英語じゃないぞ、スペルは同じだがドイツ語だ」

「ドイツ語?」

「ああ、ピボッ ハイスクールだ」

「え?」

「英語では、ピボット ハイスクール。微妙に違う。だから亀の子文字で書いてある」

 あ、そうか、あの書体はドイツって感じだ。

「この学校は、百年以上前にドイツ人が作ったんだ。ホームページに書いてあるだろうが」

「あ、えと……」

 あんまり読んでいない。二校落ちた後、ここしかないから入ったんで……笑ってごまかす。

「PIVOTというのは、日本語で要という意味だ」

「ああ、要市の要」

「昔は、要中学とか要女学校とかがあったからな、差別化の意味も込めてドイツ読みにしたんだ」

「ああ、そうだったんですか」

 納得はしたけど、それほど感心はしない。街の名前が要市(かなめし)だ。

 僕の覚めた反応に興ざめしたのか、先輩は、この可愛い口がここまでいくかというくらいの大口でケーキにかぶりつきながらパソコンを操作した。

「よし、今日の部活は、ここだ!」

 思い至った先輩は、口の端にベッチョリとクリームを付けて、いかにも「これから悪戯をやるぞ!」というわんぱく坊主の顔になっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 漆黒のブリュンヒルデQ・01... | トップ | 漆黒のブリュンヒルデQ・01... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説6」カテゴリの最新記事