大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい22〔お祖母ちゃんの骨折〕

2021-12-26 06:45:27 | 小説6

22〔お祖母ちゃんの骨折〕  


       


 お祖母ちゃんのお見舞いに行った。

 お風呂場でこけて右肩を骨折。いつもは元気なお祖母ちゃんがしょんぼりしている。

「もう一人暮らしは無理ねえ……今日子、どこか施設探してくれないかい」

 ベッドに腰掛けて、腕吊って、情けなさそうに言うお祖母ちゃんは、かわいそうと言うよりは可笑しい。

 まあ、今年で八十五歳。で、人生初めての骨折。弱気になるのは分かるけど、今回の落ち込みは重傷。

「あんな落ち込んだら、一気に……弱ってしまうなあ」

 インフルエンザが流行ってるので、十分しか面会できなかった。

 で、帰りにお祖母ちゃんの家に寄る途中で、お父さんがポツンと言った。

「そうだ、冷蔵庫整理してやらなきゃ」

 お母さんは現実的。

 入院は二か月と宣告された。やっぱり冷蔵庫の整理からだろうね。

 昼からは、伯母ちゃん夫婦も来た。もう病院の面会はできなかったみたい。

「ババンツ、いっぱい野菜買って……」

 伯母ちゃんとお母さんは、お祖母ちゃんのことババンツと言う。

 乱暴とかわいそうの真ん中の呼び方。

「あたしも、大きくなったら、お母さんのことババンツて呼ぶの?」

 小さい頃、そう言ったらお母さんは怖い顔した。

「そうだ、パーっとすき焼きしよう!」

 伯母ちゃんの一言で、にわかにすき焼きパーティーになった!


 なるほど、肉と糸コンニャク買ってきたら、すき焼きができるぐらいの材料だった。

 お祖母ちゃん苦しんでるのに大丈夫って言うくらい盛り上がった。

「しんどいことは、楽しくやらなきゃね」

 お母さんと伯母ちゃんの言うこともわかるけど、あたしは、若干罪悪感。それが分かったのか、こう返してくる。

「明日香は、ババンツのいいとこしか見てないからなあ。そんなカイラシイ心配の仕方できんのよ」

 そうかなあ……そう思ったけど、すき焼き食べてるうちに、あたしもお祖母ちゃんのこと忘れてしまって、二階でマリオのゲームをみんなでやってるうちに、お祖母ちゃんのこと、それほどには思わなくなった。

 明日香は情が薄いと思う自分も居たけど、伯母ちゃんとお母さんの影響か、コレデイイノダと思うようになった。

 帰りは、掃除して、ファブリーズして、おじさんの自動車に乗せてもらって家まで帰った。

 

 途中、信号待ちでクラスのS君を見た。


 ほら、十日戎のとき、あたしがお祖母ちゃんのために買った破魔矢をあげて、それから学校に来るようになったS君。

 歩道をボンヤリ歩いていた。一目見て目的のある歩き方じゃないのが分かった。

 そう言えば、先週は学校で見かけなかった。

 あたしってば気にも留めてなてなかった。

 破魔矢あげたのも親切からじゃない。間がもたないから、おためごかしに、あげただけ。S君は、それでも嬉しかったんだ。その明くる日からは、しばらく来てた。それから、あたしはS君のことほったらかし。


 ヤサグレに見えるけど、S君は、あたしなんかよりもピュア。

 おじさんの車は、あっという間にS君を置き去りにして走り出した。

 当たり前だ。あたし以外はS君のこと知らないもん。

「ちょっと、車停めて!」

 その一言が言われなかった。

 あたしは偽善者だなあ……なんだか、S君の視線が追いかけてくるような気がした……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ライトノベルベスト【大西教... | トップ | やくもあやかし物語・116... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説6」カテゴリの最新記事