大橋むつおのブログ

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くノ一その一今のうち・91『敵の心意気』

2023-12-27 10:25:34 | 小説3
くノ一その一今のうち
91『敵の心意気』そのいち 




 機甲部隊の生き残りを確認する。

 ほぼ壊滅させたと思うんだけど、実際にこの目で見ておきたい。

 敵味方にかかわらず、状況をハッキリつかんでおくことが忍びの基本だ。

 街の西部、皇居で言うと半蔵門あたり。城郭都市から張り出すような一画がある。半蔵門で例えれば警視庁、おそらくは外周警備本部。その車だまりの屋根裏に身を潜める。


『……銃撃の痕はわずかです、衝突やこすった傷ばかりですね』


 えいちゃんが先に分析。

 敵の混乱は、上空から投げつけられた風魔流癇癪玉(めちゃくちゃ煙が出る)と、ちょうどタイミングよくアデリヤ王女が逃走しながら車載機銃を撃ってくれた合わせ技によるものだ。

『僥倖だったようですね』

「ギョウコウ?」

『偶然が重なってうまくいったということです』

「あ、そか」

 えいちゃんは昭和五年ごろの女優の卵だ、ときどき言葉が難しい。

 しかし、意味は分かる。たまたま上手く行ったことでことで調子にのったら痛い目に遭うという戒めだ。


――車両の被害は大きいが、兵の損失はそれほどでもない――

 魔石がほんのりと熱を持って、敵の隊長の声が頭に飛び込んでくる。

――敵は調子づいて仕掛けてくるかもしれない。兵たちが戻って来るのは明日の昼頃になるだろう、それまでは警戒を厳にするように――

――了解しました、王子殿下に連絡します――

――いや、自分で進言する。貴様は警備司令として持ち場の警備に務めてくれ――

――イエッサー、非番の者に非常呼集をかけろ!――


 敵ながら対応が早い、いつもならこれから警戒が厳重になる敵の本拠地に飛び込んだりはしないけど、まだまだ危機が遠のいたわけではない。

 とっくに手足の指の先、下忍の分際を超えている。

 だけど、ここが高原の国と草原の国、二つ国の運命の分かれ道。そして、木下豊臣にとっても野望の胸突き八丁だろう。

 胸の魔石も熱を持ったままだ。

「行くよ!」

『承知!』

 えいちゃんも忍者風に返事をしてくれ、敵の本丸を目指すべく身を翻した。

 スタ……

 トラス(骨組み)の横桁に跳んだところで動けなくなった。

 幾重にもトラスが重なった向こうに……多田さんが蹲っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 

 

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