REオフステージ (惣堀高校演劇部)
144・セーヤンといっしょの朝 啓介 

週に二回ぐらいセーヤンといっしょになる。
お互い朝の地下鉄は、たいてい同じ電車に乗ってる、俺は上りでセーヤンは下り。谷六での到着時間がいっしょなんで「おう」「おっす」てな感じで声をかけて、学校までのらりくらりと歩いていく。日本の鉄道は時間が正確なんでSNSとかで外人さんがビックリしてる。せやけど、30秒以内の狂いというのはあるもんで、ドンピシャいっしょになって「おう」「おっす」になるのは週に二回ぐらいというわけなんや。
「このごろ、じぶんとこの千歳ちゃん、織田と時々喋っとおるなあ」
「え、織田と?」
「ああ、なんかエレベーター出たとこで車いす同士が引っかかって、担任の田中先生に来てもろて引き離してもらう間に仲良ぉなったいう話や」
「へえ」
「田中先生、会議の途中やったとかで忘れてしもて、三十分も引っ付いたままやったらしいでぇ。それで、織田のやつ、いろいろ話して、気まずならんようにしとったんやて」
「ああ……」
「車いす同士絡んでしもたら、こんな距離やろ」
「顔寄せんなぁ(^△^;)」
「アハハ、すまん」
千歳は、元々は学校を辞めるために演劇部に入りよった。部活までやってがんばったけど、やっぱり惣堀は合わへんいうことにして一学期いっぱいで辞めるつもりやった。
でも、どういうわけか演劇部が気に入って、文化祭にも出たし、今でも機嫌よう部活に来とおる。めでたいこっちゃ。
織田は、中一の時に事故に遭うて車いすになりよったらしい。もともとルックスのええ陽気な男で、バリアフリーやら共生を売り物にしてる惣堀では、なんちゅうか成功例のサンプルみたいなやつや。
「そうや、田中先生が到着した時には、なんか、ええ雰囲気やったらしいぞ」
「そ、そうか」
「しかしなあ、車いす同士の付き合いいうのは難しいやろなあ」
「そんなことはないやろ」
「せやかて、デートするんでも大変やろ」
「あ、ああ……」
電車でも車いすの人が乗ってるのはよう見かける。でも、それてたいがい一人、付き添いが居てることもあるけど基本一人や。
よう分からんけども、二人が乗ったら、ちょっと迷惑思て遠慮してはるんかもなあ。
「まして結婚生活とか考えたら……」
「け。結婚(゜Д゚)!?」
「夫婦二人とも足が不自由いうのは、かなりきついやろなあ……」
「セーヤン、おまえ考えすぎ」
「あはは、せーやんなあ(ああ、そうだなあ)」
「せーやせーや」
「せやけど、啓介」
「なんや(*'へ'*)?」
「千歳ちゃん、ええ子やからなあ」
「お、おう」
「ほっといたら、とられてしまうでえ」
「なに、言うとんねん、俺はぁ!」
「俺はぁ?」
「うっさい!」
ブン!
カバンをぶん回すと、親友は慣れた感じで躱しやがる。
ちょうどハイス薬局の前やったんで、掃除してるオッチャンに「アハハ、青春はええのう!」と笑われる。
そして、学校について上履きに履き替えようとロッカーを開ける。
「え?」
ロッカーの中には『小山内啓介先輩へ』と書かれた薄桃色の封筒が入っていた。
「お、ますます隅に置けませんなあ、御同輩!」
相棒に冷やかされて、裏を返すと知らない女子の名前が書かれていた。
キーンコーンカーンコーン……
ちょうど予鈴が鳴って、相棒と二人、段飛ばしで階段を走って上がった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘