大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)143・織田センパイとの出会い

2024-09-06 09:40:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
143・織田センパイとの出会い 千歳 




 話は少しさかのぼるけど、文化祭が終わって数日のころ、こんなことがあった。

 
 ガチャン!


 エレベーターを降りてすぐ、車いすの男子と衝突してしまった。

 で、なんの拍子か、ハンドルだかブレーキだかが絡んで身動きが取れなくなってしまった。

「あ、ごめん!」「ごめんなさい!」

 お互いのお詫びも重なった。

「え……」「あ……」

 どういう絡み方をしたのか、ギシギシ動かしても離れなかった。

 ギシギシやりながら、相手が二年生の車いすの人だと分かった。

 学校には車いすの人が三人いる。学年に一人ずつ。

 あ、ミリー先輩が足のケガで乗っていたころは四人だったけどね。

 学年も違うし、共通項は車いすということだけで知り合うことも無かった。

「これは、人に来てもらわないと無理っぽいね(^_^;)」

 見ると、ちょっとイケメンのその人が言う。

「ですね」

 まあ、放課後とはいえ学校だ、すぐに誰か通りかかる……と思ったら、周囲には誰も居ない、通りかからない。

「先生に来てもらおう……」

 そう言ってイケメンさんはスマホを出して電話する。

「……はい……はい、そういうわけなんで、よろしくお願いします。すぐに来てくれるって」

「は、はい」

 アクシデントなんで仕方ないんだけど、ほんの40センチほどの距離に男の人の顔があるというのは落ち着かない。

「きみ、一年の沢村さんだろ」

「あ、はい」

「文化祭見たよ。面白かったね」

「え、あ、見てくれてたんですか!?」

「うん、新聞にも出てたしね、ネットでも動画が出てた。あ、むろん、本番も体育館で観たんだけどね」

「あ、ありがとうございます(;'∀')」

「舞台用の車いすがあるなんて初めて知ったよ、木製なんだね」

「あ、あれは室内用に作られた試作品みたいなもんで、姉が借りてきてくれて……」

「あ、そうなんだ」

 ふと見ると、その人の車いすには平手正秀と名前のシールが貼ってある。

「平手さんておっしゃるんですか?」

「え、ああ……これは車いすの名前」

「え、車いすの?」

「俺は、織田信中っていうんだ」

「織田信長!?」

「織田信中、ほれ」

 生徒手帳を出して見せてくれると『織田信中』とある。

「信長にあやかってね、でも、信長じゃ名前負けするだろうって、ちょっと短くして『信中』っていうわけ」

「フフ(* ´艸`)、あ、ごめんなさい」

「で、この平手正秀というのは信長の守り役の名前でね」

「あ、聞いたことあります。信長が無茶ばっかりするんで、切腹して諌めたってお爺さんですね」

「へえ、知ってるんだ!」

「お姉ちゃんが『信長の野望』とかやってたんで」

「ああ、そうなんだ」

 いい人なんだ。

 助けの先生がやってくるまで、気まずくならないように和ませてくれてるんだ。

『平手でござる。守り役でありながら、とんだ不調法をいたしました。申し訳もござらん、千歳殿』

 え?

「ジイは黙っておれ」

 あ、腹話術。

『いや、これはジイの不調法でござる。ここは、このシワ腹かっさばいてお詫びを』

「バカモン、車いすに腹を切られては、この信中、身動きがとれないではないか!」

『あ、いや、それもごもっとも』

「アハハハ」

「ハハハ、面白かった?」

「あ、はい。織田さんも(^○^)」

「それはよかった」


 すまん、遅くなったぁ!


 見覚えのある二年の先生がやってきて、車いすを引き離してくれる。

『では、さらばでござる』

 先生がキョトンとして、織田さんは「アハハハ」と笑って行ってしまった。

 
 それから、廊下や学食で出会ったら「やあ」とか「どうも」とか、演劇部以外で、あ、生徒会の瀬戸内さんは別にして挨拶する初めての上級生になった。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘


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