goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ぜっさん・07『ま、幸先のいい二学期の始まり』

2020-08-12 05:56:58 | 小説3

ぜっさん・07
『ま、幸先のいい二学期の始まり』   



 一夏閉めきっていた教室は臭う。

 何の臭いだろう……ティーンの男の子と女の子の臭い、ちょっと甘ったるい、多分ジュースとかが腐りかけている臭い、ホコリとチョークの臭い、その他もろもろ。

 まだエアコンが使える時間じゃないので、窓を全開にする。臭いに染まった空気がモワっと動き出す。

 昨日で夏休みが終わって、今日から新学期。
 遅刻したらどうしようと思っていたら、いつもより30分早く目が覚めた。で、新学期モードになっていたわたしは31分早く学校に着いてしまった。1分早くなったのは、新学期の緊張か、少しでも早く冷房の効いた電車に乗りたかったからか。

 ブーーーーーーーーーン

 携帯扇風機を回す、顔とか首とか腋の下とかあててみる。湿度95%のささやかな風はかえって気持ち悪い。
 大阪は、エスカレーターの左側を空けることを除けば東京とそんなに変わりはない。でも、このジトっとした空気は違うなあ……。
 そんなこと思いながらポカリを口に含むと……生温い。

 冷蔵庫にストックが無かったので、レンジ台下のストッカーから常温のを持ってきたのだ。

 なんだか、このジトっとした空気をそのまま液体にしたみたいで、気持ち悪い。
 いっそ蝉でも鳴いていれば、暑さもすがすがしいのに……蝉っていつのまに居なくなったんだろう……気が付いたら眠りかけている。

 よし、コーヒーでも飲みに行こう!

 気合いを入れてから食堂横の自販機に向かう。階段を下りているうちに缶コーヒーのイメージはワンダーモーニングショットに固定されてしまう。
「や、おはよー!」
 食堂の角を曲がったら、自販機にコインを投入している藤吉くんの姿が見えた。
「おはよ。ぜっさん早いなあ」
 ガコンと自販機の鳴る音にシンクロして、藤吉くんが笑顔で声を掛けてくる。
「うん、早く目が覚めちゃって」
「ハハ、いっしょやなあ」
 眠そうな藤吉くんの手には、冷え冷えのワンダーモーニングショットが握られている。大阪も人気の缶コーヒーは同じなんだ。
 で、ワンダーモーニングショットのボタンを押そうとしたら赤ランプが点いている。
 チ、藤吉くんのが最後の一缶だったんだ。
 藤吉くんに罪は無いんだけど、思わず去りゆく背中を睨んでしまう。
「エーー、午後の紅茶しか残ってないってか……」

 朝から午後の紅茶というのもオチョクラレてるみたいだ。

 よく見ると、炭酸なんかも残ってるんだけど、どうにも気がのらない。冷水機の水で我慢しようとため息つくと……。

 キャ!!

 ホッペに冷たいものが触れた。
「飲みたかったんやろ、譲るわ」
 藤吉くんが、横に立って缶コーヒーを押し付けていたのだ。
「あ、ありがと……」
 お礼を言いかけると、ヒョイと右手を挙げて背中を向けていた。

 藤吉くんなんだけど……ま、幸先のいい二学期の始まりと思っておこう。 
 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かの世界この世界:38『ム... | トップ | ポナの季節・1《クリーニン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説3」カテゴリの最新記事