大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・4・体験学習感想文最優秀賞!

2024-10-08 16:39:07 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




4 体験学習感想文最優秀賞!

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)



 好きな曲をかけて紅茶を入れるクララ。

クララ:スイスの紅茶って、正直いってまずいわ……ウェー(まずそうに舌を出す)……でもね、アルムの紅茶は別よ。
 なぜだか解る? ミルクティーだからよ。アルムのヤギさんのミルクが入るとね……ガゼン別物になっちゃう。あまりの美味しさにうなっ茶う……ウウウ(幸せそうに、うなる)……分かる、今の?……うなる前よ。
「なっちゃう」と「うなっちゃう」……そう、今のが韻を踏むってこと。あ、また笑ったぁ。

 アナタって、いつから引きこもってるの……ちがうよ、外に出なくなるのは結果にすぎないの。

 実際の引きこもりは、もっと前から始まってるのよ。人の話が心に響かなくなったとか……うん、そう。人の声がなんだかテレビから流れてくる声みたいによそよそしく聞こえちゃったりするの。

 アナタは……そう、よくわかんないか……いいわよ、思い出したら教えて。わたしはね学校から行った職業体験学習……うん、介護付き老人ホームに行ったの。

 お掃除したり、食事のトレーを運んだり……ううん、直接介護に関わることはやらせてもらえない、見学だけ。お話はさせてもらえたわ。でもね、通じないのよね……「おじいちゃん、おいしい?」とか「若い頃はなにやってたんですか?」とか精いっぱいの笑顔で聞いてもね、無視する人とか……むろん認知症の人もいるから仕方ないんだけど、「おいしいよ」って笑顔で応えてくれたおばあちゃんの目の中にわたしが映ってないの。

 ペーターのお祖母さんの時みたいには心が通じないの……おばあちゃんは毎年のことだから、マニュアルどおり「おいしいわよ」……え、そうよ三日間。うん、三日間でどれだけのことが分かるってもんじゃないんだけどね……ハイジならもっと……ううん、なんでもない。

 わたし、そこで見ちゃったの。そのおばあちゃん、トイレの帰りにこけちゃって、骨折。

 大騒ぎだった……しっかりしてそうなおばあちゃんだったから、ヘルパーさんたちにも油断があったんでしょうね。娘さんがとんで来てね「要介護三の母なんです。一見しっかりしてるように見えてるけども。統合的な行動はできないんです。トイレに行って、パンツを下ろす、座る、用を足したらウォシュレットのボタン押す。パンツを上げる、手すりにつかまって立ち上がる。いちいち言わなきゃわかんないんです。入所のときにそう申し上げたはずです」穏やかにはおっしゃってたけど、目は怒ってた。
 ケアマネさんやヘルパーさんはむつかしい専門用語使って説明してたけど、言い訳してんのはわたしにも解った……娘さんは、おばあちゃんを後ろから抱きしめて「お母さん、ごめんね……」って、そして一言「安心してください。訴えたりはしませんから」……施設の人たちは、その一言でほっとした。わたしにも分かった。
 気がついたらわたし、娘さんを追いかけて「ごめんなさい、ごめんなさい……」って謝ってた。わたしって関係ないんだけどね、謝らなきゃって、居ても立ってもいられなくなったの。そしたら所長のオッサンに……おじさまに「余計なことは言うな!」って腕をひっぱられて……で、そのことを感想文にそのまんま書いたら担任の先生に書き直ししなさいって……これ見て! 

 ジャ~ン「体験学習感想文最優秀賞!」 うん、うそ八百のお涙頂戴の完全フィクション。

 笑っちゃうよね。そこからなんだか、大人と話すのがイヤになっちゃって、友だちにも谷崎潤一郎でどん引きされちゃうし……でも、不思議ね、こうやって話してみるとやっぱ違う。スルっと手からこぼれ落ちちゃうのよね……窓開けるわね、空気入れ替えなくっちゃ……え……いいわよ、アナタのお話聞いてからでも……え、首を吊ったこと!? ないない、ないよそんなこと……アナタ……やったの?……でしょうね、成功してたら、わたし、幽霊とチャットやってることになるものね……え、最初は肩が痛くなるの? 首じゃなくって……上からひっぱられてちぎられるみたいに……で……目の前が一瞬で真っ暗に……そこで怖くなって……そうなんだ。

 うん、いいわよ。聞く聞く……え、あなたって演劇部だったの。ステキじゃない!……そっか、居場所が無かったのね、学校とかで、友だちとかも……それで演劇部でやっと……え、予選で最優秀。

 やったー! 

 で、本選は……そっか、残念だったわね……それでクラブがバラバラに……それはもういい……そうよね、また来年がんばればいいんだもんね。
 演劇部の後、ほかのクラブに……それは、まだナイショ? 
 いいわよ……え、自殺防止の授業。そんなのがあるんだ、アナタの国の学校でも! 
 で、お決まりは「命の大切さ」ハハハ、ハモちゃったね。それって「平和の大切さ」と同じくらい無責任でナンセンスよね。だって、目の前に首くくろうとしたアナタがいるのにね。アハハハ……それに気づかずに「命の大切さ」笑っちゃうわよね……空気入れ替えるね。

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馬鹿に付ける薬 020・ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』

2024-10-08 15:48:14 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
019:ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』 




 ちょっと  待って  くれぇ


 バラバラで元気のない声がした。

 なにやつ!?

 得物を構えた三人が振り返る……と、肩で息をして、今にもへばってしまいそうなケルベロスがよろよろと進み出てくる。

アルテミス:「なんだあ、またやろうってのか(`▢´)!?」

 アルテミスが吠えると、ケルベロスはペタンと腰を落とした。かろうじて突っ張った前脚はガクガクと痙攣するように震え、とても戦える状態ではない。三つの首は、どれもフルマラソンを終えたポンコツ選手のようにゼーゼー喘いで、なんとも情けなく、戦意が無いことは明らかだった。

ベロナ:「なんだか様子がへん」

プルート:「なにか言いたいことがあるのか?」

 ケルベロスの三つの頭は「……ぁ……」「……ぇ……」「そ…の…」と声は発するが息も気力も続かず、一瞬黙ったかと思うと、お座りの姿勢のまま小便を漏らしてしまう。

「おまえぇ(-▭-;)!」「てめえぇ(;'△')」「きさまらぁ(-_-;)」

 言い合いになりそうだが、言葉も気力が続かず、やっと真ん中のが頭を上げてやっと語り始める。

ケルベロス真ん中:「みっともねえとこを見せちまったな、笑ってくれてもいいんだぜ」

ベロナ:「笑うだなんて、そんな……ちょっと待ってね」

 ベロナがロッドをかまえる。

アルテミス:「あ、回復魔法とかダメだぞ!」

 それには答えずに短く詠唱すると漏らした水溜まりが消えて、ケルベロスのお尻は紙おむつにくるまれた。

「「「あああ……(=△=;)」」」

 それまででいちばん情けない溜息を漏らすケルベロス。

アルテミス:「やっちまったな」

プルート:「完全に心を折っちまったな」

ベロナ:「え、あ、まずかった(;'∀')」

ケルベロス真ん中:「いや、これで、もう一つ吹っ切れた気がしたかもな……」

 左右の頭は完全にうな垂れて覇気も根気も失せ果てている。

 仕方なく、真ん中が声を落としたまま語り始めた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
 

 



 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!24『クララに呼び止められる』

2024-10-08 08:50:56 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
24『クララに呼び止められる』 




「それでは、これからの企画と予定を発表します」

 シアターに集められた受験者に黒羽Dが向き合った。

 結果は分かってんだけどよ、読まねえようにしてる。これって、鏡の前に立って自分の顔を見ねえようにするみてえで、ちょっとイラつく。

「ユニットの名前は『AKR47』とします。意味は『明るい未来』のAKARUIからとりました」

 マユの消去魔法が効いて、48が47に変わってやがる。もうみんなの頭から拓美の記憶は完全に消えていたぜ。

「ユニットのキャッチコピーは『週末アイドル』。ここにいる大半の人は中高生です。高校を卒業するまでは、学校との両立をはかってもらいます。別の言い方をすれば、その両立の条件の中で、本当に生き残り、力をつけたメンバーでより進化したユニットに成長させる。いわば『成長するユニット』が、コンセプトです」

 キリ!

 47人の顔が引き締まったぜ。

 その後、ここしばらくのレッスンやらマスコミへの発表などについて説明があって、正式にHIKARIプロとの契約の書類が配られたぜ。

 ちょっと困った。

「早まっちまったかぁ……」

 選考会場からの帰り道、知井子のお父さんとお母さんが車で迎えにきていた。

 すっかり明るく自信を取り戻した知井子に、お父さんも、お母さんも大満足。ユニットの選抜メンバーに選ばれたことよりも、娘が明るく前向きになったことを喜んでる。知井子の問題は一段落した。そんで、食事を勧められたけど、マユは丁重に断ったぜ。

「ねえ、マユ……」

 大石クララに呼び止められた。

 二人は、公園のベンチに並んで腰をかけた。

「わたし、何かしっくりこないのよ」

 揃えた足の先を見るようにしてクララが言う。

 こいつ、なんか気づいてやがんのか?

「何が、しっくりこねえの?」

「…………」

「あ、ごめんな。マユ、敬語とか苦手でよ、ちょっと言葉が乱暴なんだ(^_^;)」

「ああ、いいよ仲間なんだから」

「そうか、じゃぁ、このままでいくぜ」

「バカなこと言うみたいだけど、わたし、もう一人いたような気がするんだ」

「もう一人って……」

「だれだか、分からないけど、わたしより輝いていた子が……」

「さ、錯覚じゃねえかぁ。あれだけがんばったオーディションが終わってよ、ホッとしてよ。がんばってた自分が別人みたく思えて、そう感じるんじゃねえかぁ。うん、受験生みんながんばったんだからよ!」

 足許にたむろしていた、鳩たちが、何かに驚いたみてえに飛び去った。

「……その目、その目よ」

「え、マユの目が……どうかしたのか?」

「その目は、マユの……マユの目って……」

「な、なんだよ(;'▭')」

 こいつ、なんか気づいてやがんのかぁ(;'∀')。

「虹がかかったみたい……ああ、なんだろ。同じ目をしてた子がもう一人居たような気がした」

「そ、そーなのかぁ(^▢^;)」

 うろたえて目線を避けると、気の早いコウモリが木の間がくれに飛んでやがる。

 たぶん、魔界の監視コウモリ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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