大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・3・クララのいたずらリテラシー

2024-10-06 18:06:31 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




3 クララのいたずらリテラシー

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)




 シャルロッテが口を押えながらやってきて、部屋に入った堰を切ったように途端笑いだす。


シャルロッテ:アハハハハ、ああ、おっかしい! アハハハハ……お嬢様、今の最高でしたよ!

クララ:シャルロッテ、あなた見てたの?

シャルロッテ:ええ、おっかしくって。ここまで来るのに、笑いこらえるの必死でした!

クララ:でも二度目じゃね、インパクトないわよ。

シャルロッテ:いいえ、ロッテンマイヤーさん、三十秒はオロオロなさってましたわ。

クララ:え、すぐに気づいたんじゃないの?

シャルロッテ:いいえ、受話器たたいたり、電話線ひっぱったり。わたしはなんのことやら……でも受話器のポッチのとこにセロテープ貼っとくなんて、よく考えつきましたわね。あれじゃ、いくら受話器とっても鳴りやみませんものね。

クララ:ハハ、そうなんだ。シャルロッテ、今度はもっとすごいこと考えてんのよ。

シャルロッテ:どんなことなんですか?

クララ:新案特許よ。トイレの便座の一番下のとこにね、ラップを張っておくの。わかる? トイレで用を足そうとして一番上のフタを上げるでしょ、そして座って、なにをね、しようとしたら……。

シャルロッテ:まあ、それって……。

クララ:シャルが最初にひっかかったら、かわいそうだから言っとくね。あ、まだ実行するってとこまでは思い切ってないから(モニターに)アナタも、そう思う「やりすぎ」だって……う~ん……わたしの心の中にも、そう、心理的にね「いたずらリテラシー」ってのがあってね。今、審理中なのよね、ただ単なるドッキリの追求でもだめだしぃ、そこには審美的な要素もね、だからね、わたしの中で悪魔と天使が審理中……。

シャルロッテ:ウフフ……。

クララ:え、なにかおかしい?

シャルロッテ:だって、心理と審理と審美をかけたシャレでございましょう?

クララ:アハハ、あのね……。

シャルロッテ:あ、もう行かなくっちゃ。ロッテンマイヤーさんに叱られます!(いったん袖に駆け込む。派手に階段を転げ落ちる音と悲鳴。少し間を置き、腰をさすりながら登場)おトイレ入るときには気をつけますね(去る)

クララ:ああいう子なの。フィーリングはいいんだけど、わたしのことソンケーしすぎ。偶然にゴロが合っても、わたしのウィットだと思ってくれちゃうの。
 あ、こないだのアナタのホメゴロシ、ちょっとムズイよ……え、相手には通じた?そりゃ、相手は専門のローリング族だもん「さすがはセダン。ゆっくり走ってもサマになる」通じて大爆笑でしょうけど、車のこと知らないと、ちょっとね……なによ、ちょっと顔がたそがれてるわよ……え、「なんでもない」?
 フフ……こんなことばっかやってる自分が、ちょっと虚しくなってきたんでしょ。
 だめだよ。引きこもっててもハートはちゃんとチューンしとかなきゃ。いつかは、外へ出なくっちゃいけないんだからね。
 ……そうね、今日はわたしがお話する番だったわね(パソコンを操作する。ホリゾントに映像が出るといい)これがアルムのオンジのお家。後ろにあるのがモミの木。
 そう、有名な『アルムのモミの木』よ。ここでわたし歩けるようになった……すてきなわたしの思い出……ううん、ジャンプ台……わたし、自分が歩けるようになるなんて思いもしなかった、ほんとよ。
 自分の足で立てることさえ夢だと思っていた……そう、みんなハイジのおかげよ。そこまではアナタも普通の人でも知ってるでしょ。
 ……え、アハハハ、そんな学校の読書感想文みたいなこと言わないでよ。「ハイジを育てたのはスイスアルプスの豊かな自然だった。その自然とそこに育つ心こそがクララを立たせ、歩かせた!」
 そりゃそのとおりだけどね。あなたの国の憲法の前文みたいなものよそれって。「平和を愛する諸国民の公正と真義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した……で、国際社会に名誉ある地位を占めたい」アナタも覚えてんだここ……え、ハハハ……停学になったとき課題で十回も書かされた?
 なんで停学になったの……え、先生に「こんにちは」って挨拶しただけ……なんで……側にいた友だちがタバコ喫ってた……それで、ソバテイ? おソバの定食? おソバと五目ご飯がいっしょになってるような……え、同席規定……タバコ喫ってる友だちの側にいただけで停学に。
 そうなんだ……「喫うな、喫わすな、喫ったら離れろ」……なんだか火の用心の標語みたいね。
 あ、あのね、アルプスの自然は豊かじゃないの。言うたかないけど……わかる? あ、笑った! おやじギャグなんかじゃないのよ、韻を踏んだのよ韻を……あのね、同じ音を重ねることによって、言葉や、文章にリズムが出てくるって、格調高い表現なのよ。
 さっきの偶然のゴロ合わせのほうがおもしろい? ええと、なんだっけ……そうそう、アルプスの自然は言うたかないけど、豊かじゃないの。つまり食えない国だったのよ。
 ……その「くえない」じゃないわよ。スイスって、したたかでくえない国だけど、それは食えない国だったから……つまりね、昔は貧しくって食べていけない国だったの。
 そう、文字通りよ。だから昔から男が体を売って……って、へんな想像しないでよね。
 ……そう、一種の出稼ぎ。傭兵よ、傭兵。外国に雇われて、兵隊になること。アナタの国にもいるでしょ、外国から来た人が介護士やら、看護師やってんの。あれの兵隊版。
 そう、かっこよく言えば外人部隊。時にはスイス人同士が敵味方に分かれて戦うこともあったのよ。
 フランス革命でバスティーユ牢獄が襲撃されたとき、バスティーユを守っていたのもスイス人の傭兵たち……え、世界史の授業みたい? 
 我慢して聞きなさい。この傭兵制度は1874年の憲法改正で、禁止されたんだけどね。
 あ、バチカンだけは例外。ローマ法王がいらっしゃる世界最小の国。サンピエトロ大聖堂ってのがあって、今でもここの兵隊さんだけ、例外的にスイス人のオニイサンがやってるんだけどね。
 まあ、それだけスイス人傭兵って信用があったのね。で、ハイジんとこのオンジがね若い頃やってたらしいの。オンジって分かるわよね。ハイジのおじいさん。へんくつ者で通ってたけど、オンジには、そういう背景があるのよ。
 でも、その心の奥には責任感と、人と自然への豊かな愛情があるの。ハイジにはそのオンジの血が流れてる……その心に支えられて、このクララは立って歩けるようになった。ちょっとお茶を淹れるわね。

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やくもあやかし物語2・075『魔王女トバリ』

2024-10-06 11:27:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
075『魔王女トバリ』 




「あたしが魔王女、トバリ姫よ。見知りおきなさい」

 グ

 思わず息をのんだ。

 そいつ、トバリ姫はフレアの効いたロン毛で、はっきりした目鼻立ちといい、スタイルの良さといい、等身大……よりもちょっと小さいドールのように見えた。しゃくだけど、ちょっと可愛い。

「……わたしのこと小さいと思ったでしょ?」

「あ、それは……(;'∀')」

「まあいいわ。可愛いとも思ってくれたみたいだし」

「そのトバリが何の用だ!」

 メイソンが男らしく前に立ってくれる。御息所はいつものようにポケットに隠れてしまっている。

「フフフ、辛いわね。没落貴族とはいえノブレスオブリージュ。こういう時には前に出なくちゃならないんですものね」

「用件を言え!」

「用件は知れたこと、あなたたちを抹殺することよ。キーストーンを取り返そうだなんて生意気すぎるもの」

「そうはさせん、お前も魔王子も打ち倒して先に進むだけだ」

「おお、勇ましい。それでこそ英国騎士、相手になってあげるわ!」

 ピシ!

 鋭い音がしたかと思うと、トバリの髪が静電気を帯びたみたいに四方に広がり、先っぽの方がピリピリとスパークを放ったよ!

『気を付けなさい、あいつ、ここいらの悪霊を呼び集めてるわよ』

 御息所がふつうの言葉で注意する。こういう時の御息所はあてにならない。

「やくも、囲まれている!」

 メイソンが庇いながら注意してくれる。見渡すと四方八方にモノクロで半透明なあやかしめいたのがウジャウジャとわいている。

「やくもも戦う!」

 いっしゅん迷って近衛の剣を手にして、手近のあやかしに切りかかる。

 ブン! ブブン! ブン!

 剣はむなしく空を切るばかりで、ぜんぜんヒットしない。メイソンは討ち漏らしたあやかしをどんどん切っていく。

 申し訳ない、わたしのリカバーばっかし(-_-;)。

 気を取り直して思い槍に持ち換える。

 ブン! ドシ! ブブン! ザク! ズサ!

 空振りも多いけど、リーチが長い分、そこそこにヒットする。メイソンも少しだけわたしのそばを離れて敵をぶちのめしていく。

 すこしは冒険者らしく戦えているかも(^_^;)。

 あ!?

 ちょっと油断した。斧を持ったあやかしが打ちかかってきて、さばききれずに尻もちをついてしまったよ!

『慮外者め!』

 お局言葉がしたかと思うと御息所があやかしの脳天をミチビキ鉛筆で刺し貫いてやっつけてしまう!

「ありがと、御息所!」

『貸じゃからな!』

 さっさとポケットに戻ってしまう。

「え、一回だけぇ?」

『あとはがんばりなさい』

 チ

『舌打ちすんな!』

 それだけ言うとまた引っ込む。

「メイソン、がんばって!」

 それから、メイソンと二人で暴れまわって半分ほどやっつけられて、残りの半分は分が悪いと思ったのか消えてしまった。


「少しは歯応えがありそうね」


 トバリが現れる。憎たらしいけど余裕の表情だよ。

「じゃあ、そろそろ本気でやらせてもらおうかしらぁ」

 そう言うとトバリは両手でスカートの裾をつまんで、お姫さまらしく挨拶したよ。

「いや、あれは挨拶なんかじゃない!」

 メイソンが押しのけるように前に出てかばってくれる。

「そうよ、わたしのスカートは結界なのよ。さっきは広げ過ぎて破られてしまったけど、こんどはほど良く広げて、あなたたちのシュラフにしてあげる」

「シュラフ?」

「死体袋のことだよ。気を付けて!」

「うん!」

 シュボン!

 広がるような窄まるような音がしたかと思うと、あっという間にドーム球場ほどの結界が展開され、見上げると結界のてっぺんから小さな足が吸い込まれるようにして格納されたよ。

『トバル、あなたの出番よ!』

 てっぺんから声が降ってきたと思うと、やくもたちの前にトバリによく似た王子さまみたいなのが現れたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!22『知井子の悩み・12』

2024-10-06 08:14:52 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
22『知井子の悩み・12』 




「ちょっと待った」


 一番後ろの冴えないジジイが孫の手みてえな手を挙げやがった。受験生はキョロキョロ、なんせジジイは小さくて、挙げた手の先しか見えてねえ。

 マユには分かっていたぜ。朝、会場前の掃除をやっていたジジイだけど、こいつが一番エライやつだってことをな。後ろのバンドや審査員どもが立ち上がったり、机を動かしたりしてジジイの通路を確保してやる。

「か、会長……」

 ダミーの審査委員長は、困ったような顔になりやがった。

「ここにいる全員を合格にする。いいな、黒羽くんも」

 ガチ袋を下げて隣りにいた黒羽をうながした。黒羽のおっさんには一目置いてる感じがするぜ。

「はい、自分もそう考えていました」

 すると、ジジイは、ステージの前まで来て、マイクも使わずにしゃべり出した。意外にいい声だ。

「まず、名乗っておこう。わたしがHIKARIプロの総責任者の光ミツル。本名は田中米造っちゅう、見かけ通りの冴えないジジイだ」

 ああ……( ゚Д゚)!

 受験生のほとんどが声をあげやがる。地獄の一丁目で天使を見つけたのに似てる。

 地獄と天国には相互監視システムってのがあってよ、お互いに天使と悪魔を派遣してんだ。まあ、大昔に決めたのが形骸化して残ってるだけで屁の突っ張りにもならねえんだけどな。形骸化した天使は立派そうだけどよ、さて、こいつはどうだ?

 マユは、頭の中にある悪魔辞書を検索……するまでもなかった。声をあげた受験生の思念が飛び込んできたぞ。

 光ミツル――1960年代の後半にデビューしたポップス界異色の新人。フォークソングのシンガーソングライターとして名を馳せるが、フォークソングが政治的、思想的傾向を持つことに反感『新宿フォークゲリラの主席』と言われ、田中のヨネさんで通っていたが、ある日忽然と姿を消した。数か月後、鳴り物入りで歌謡界にデビュー。芸名も光ミツルと、あえて通俗的にしてポップス界の寵児になりやがった。80年代に入ると、人気の絶頂で現役を引退。以後HIKARIプロを立ち上げて、多くのアイドルを生んだ。そして、黒羽みてえな名プロディユーサーを育ててきやがって。十年前に経営の第一線からは身を引いて、今は、その姿を知る者は、芸能界でも少なくなってきた。

 ほお……

 要は、影のフィクサーってわけだ……こういうやつは、そういう経歴で祭り上げられてるだけか。とんでもねえ性癖とかあって、死んだ後に正体がバレるかだがな。

 その影のフィクサーが、思い切ったことを言いやがった。

「ここにいる48人全員を合格とする」


 ええ……("◎▽◎")!?


 審査員席の奴らが、受験生たちよりも目を丸くしやがった。

「相対評価では、確かに発表された16人が優れている。しかし、残りの32人の子たちも絶対評価では水準を超えている。このまま、帰すのは惜しい」

「しかし、会長……」

 社長とおぼしきおっさんが発言しかけた。

「まあ、年寄りの道楽と思ってくれ。あと、黒羽君たのむよ」

 ジジイは、光の速さで引っ込んじまった。

「じゃ、あとは、わたしが」

 黒羽がガチ袋を外してステージの前に出てきた。

「我々は、新しいポップスのユニットの形を模索して、ほぼ一年かけて構想を練ってきました。我々もプロです。その構想には自信があります」

「そ、そうだ!」

 社長が声をあげやがったが、どこか空元気でお追従めいている。こいつは会長どころか黒羽のおっさんにも頭が上がらねえみてえだ。

「しかし、そのプロ意識と旧来の自信に縛られてはいないだろうか……これが会長とわたしが引っかかった点です。ここにいる48人は、みんなステキな人たちです。全員をチームとしてしごいてステキに磨きをかけます。で、定期的に選抜メンバーを選考します。取りあえずは、先ほど発表した16人の人たちに選抜メンバーになってもらいます」

 えええ(((((((((((((((( ゚Д゚))))))))))))))))!!

 16人分の歓声があがったぜ。

「チームリーダーは浅野拓美さん。サブを大石クララさんとします」

 カチン(〇_〇)

 拓美は固まっちまいやがった!

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

 一瞬の間があって、みんなの拍手。

 そして拓美の目から涙が雫になって落ちてきやがったぜ。


 その涙をみんなは嬉し涙と思ったけどな、そのワケを知っているのはマユ一人だけだったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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