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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・064『三島事件とわたしたち』

2023-11-30 14:03:12 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

064『三島事件とわたしたち』   

 

 

 図書室の窓際のテーブル。

 

 そこに新聞のバインダーを四つ並べ、部活の佳奈子を除くお仲間四人で覗き込んでいる。

 どのバインダーも、11月27日の日付。

「うわぁぁぁ」「気持ち悪いぃ」「ひどいねえぇ」「狂ってるぅ」「ひえぇぇぇ」

 さっきから、同じような感想的悲鳴をあげまくり。

 昼休みの図書室は、休憩を兼ねて入ってる生徒も多いので、多少の会話は大目に見てもらえる。

 ほかの生徒や先生も、わたしたちが何を見ているのかは察しているから――さもありなん――と言う感じ。

 新聞各紙は一面のトップと三面の大半を使って三島事件を書き立てている。

 切腹! 狂気! 無残! 乱入! 割腹自殺! 美学崩壊! 

 そんな単語が特大の活字で書き立てられ、その下や横には三島と弟子の首が転がってる写真まで出てるしぃ(;'∀')。

 令和の新聞だったら、こんな写真はぜったい載せられない。犯人に掛けられた手錠だって隠すよ。

 こんなのを載せている新聞も、なにか狂気じみて見える。

 

 ロコが最初に知らせてくれたときはピンとこなかった。

 

 三島って名詞にはなじみがない。最初に浮かんだのは新幹線、たまに乗っても通過するだけの駅。

 やっと思いついてスマホで検索すると、クッキリ眉毛の下でギョロリとした目がおっかない。

 解説はめちゃくちゃ長くって、超有名な作家というか文学者なんだろうけど読む気がしない。

 ノーベル文学賞にもノミネートされて世界的にも有名人。

 作品はいろいろたくさんだけど、やっと『金閣寺』が聞いたことあるかなというレベルですよ、あたしは。

 その三島由紀夫が盾の会の隊員二人を連れて、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地を訪れた。東部方面総監という偉い人を人質に取って自衛隊の人たちに決起を促して演説した後、切腹。その首は弟子の隊員が軍刀で切り落とし、その弟子も切腹の上、もう一人の弟子に首を切らせたというショッキングな事件。

 

「これだけありましたよ!」

 

 ドデン!

 ロコがテーブルに十冊余りを載せたのは、どれも三島由紀夫の作品。

『潮騒』『憂国』『愛の渇き』『豊饒の海』『命売ります』『恋の都』『私の遍歴時代』『肉体の学校』などなど。

「あれ、金閣寺はないのね」

 真知子が不思議がる。

「ああ、文庫のが二冊あるそうなんですけど、貸し出し中だそうです」

「やっぱり、意識の高い子がいるんだ」

 たみ子が腕を組んで感心する。

「でも、うちぐらいだったら単行本があるんじゃないの?」

「はい、初版本があったらしいんですけど、十年も前に盗まれたんだそうです」

「ああ、値打ちあるもんねぇ」

「はい、金閣寺の初版本なんて万札五枚はしますからねえ」

 真知子の質問もすごいけど、ロコの調査能力もたいしたものだわ。

「まあ、こんなことするような人がノーベル賞とらなくてよかったわよ」

「うん……でも、今の世の中三無主義とかもあるからねえ、こんな人も出てくる」

「切腹なんてもってのほか、腹は切るもんじゃなくて減るものよ」

「そうそう、学食いこうよ(^_^;)」

 わたしの唯一の提案に、みんな同意して学食へ。

 

 残り物のうどんをすすって話題はクリスマス。

 

「ねえ、学校でクリスマスやっちゃだめかなあ?」

 お箸をおいて真知子が指を立てる。

「クリスマスですか!?」

 眼鏡を曇らせたままロコが顔を上げる。

 ププ( ̄m ̄〃)

「もう、笑わないでくださいよ」

「あ、ごめんごめん」

 真知子が、わたしとたみ子の分も謝ってくれて本題に入る。

「文化祭とか体育祭で後夜祭やるかと思ったら無かったでしょ」

「ああ、うんうん、昔はやったらしいけど、ちょっと待って……」

 おうどんの出汁を飲み干してたみ子が話を続ける。

「ファイアーストームやったらしいけど、あれやると、グラウンド傷むんだって。それに、煙とか灰とかも飛ぶし、消防のこともあってやらなくなったんだって」

「そうですよね、火を使うのは学校の許可難しいですよね」

「あ、そうか!」

「グッチはピンときたようね」

「うんうん、クリスマスツリーなら火は使わないよね!」

「中庭の楠でやれそう!」

 たみ子もスイッチが入った。

「さっそく、あちこち打診してみましょう!」

「うん、まずは生徒会と先生たちだね」

 三島事件はあっという間にどこかにいって、わたしたちはクリスマスのたくらみに熱中した。

 

 帰り道、商店街を通ったら『三島由紀夫の本あります!』と本屋の前に張り紙がされて、入って直ぐのところに単行本やら文庫本が平積みになっていた。

 電車に乗っても、みんな新聞を四つ折りぐらいにして三島事件の記事を読んでいる。

 昭和45年だから、スマホなんて無いので本や新聞を読んでいるのは普通なんだけど、みんなが三島事件を読んでいるのは、ちょっと異様。

 車窓からチラッと見えたガスタンクは、いつになく満タン状態。

 でも、まあ、昭和の女子高生も図書室で新聞読み比べる程度、頭は早々とクリスマスモードになっちゃったし、寿川を渡ったころには令和の16歳に戻っていたよ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第6話《拡散、その兆し》

2023-11-30 09:16:19 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第6話《拡散、その兆し》  

 

  

 ジングルベ~ル ジングルベ~ル スズガナル~♪

 

 改札を出ると歳末商戦のジングルベル、みそな銀行の前まで来ると赤鼻のトナカイに替わって罵声が混じってきた。

 #&%▽¥◇%$#皿٩(๑ò△ó๑)۶!!  〇皿&%▽¥◇%$#血٩(๑`ȏ´๑)۶!!

 水道工事の現場を通りたくなかったので、一本向こうの道を行こうとしたんだけど、もめ事には直ぐに顔と耳が向いてしまうのは江戸っ子の習い性。

 人だかりの向こうで、ガードマンのニイチャンと学生風がつかみ合いっこ。工事のオジサンたちが作業着にメット姿で間に入っている。

「てめえ、しらばっくれやがって!」

「だから、濡れ衣だって。あんたこそガードマンのくせして、交通妨害してんじゃねえよ!」

「忠八、怪我させちゃだめだぞ、すぐにお巡りが……きたきた!」

 工事のオジサンたちが道を空け、駆けつけたお巡りさんが仲裁と交通整理をやり始めた。

「いったい、どうしたんですか?」

 息は弾んでいたが、男女のお巡りさんは穏やかに聞いた。

「こいつ、盗撮犯なんですよ!」

 ガードマンのニイチャンが、学生風の襟首と腰のベルトを掴みながら言った。

「盗撮?」

「金井さん、ちょっと交代」

「あいよ」

 学生風は、オジサンに後ろ手に捻り上げられた。

「イテテ……」

「オジサンこそ怪我させないように(^_^;)」

「すまねえ」

「これなんですよ」

 ガードマンのニイチャンはスマホを出して、お巡りさんに何か見せた。

「これは、え、君のスマホに入ってるってことは……盗撮は君?」

「違いますよ。こいつがアップロードしたのを証拠にコピーしといたんですよ」

 ここまででだいたいの事情が飲み込めた。

 でも、あたしは頭に血が上って動けなくなった(#'∀'#)。

「……なるほど。こちらがこれを撮っていたのに気づいて、記憶していて、今あなたがここで発見したというわけ?」

「オ、オレが撮ったって証拠、どこにあるんだよ!」

「忠八、こっちを見せろ!」

 工事のオジサンが自分のスマホを差し出した。

「オジサンも撮ってたのぉ?」

 女性警官が、微妙な呆れ声。

「女の子の悲鳴が聞こえてよ、スマホ構えてニヤついてるやつがいるから撮っといたんだ」

「そうそう、これが動かぬ証拠だよ。おめえだろうが!」

「なるほど、スマホ見ながらニヤツイているのは、まさしく君だね」

「うん! 服装も同じです。香取巡査」

 女性警官が大きく頷いた。学生風がわめきだした。

「ぼ、ぼくは、単に街のスナップ撮ってただけなんすよ! それを、女の子のスカート跳ね上げたのは、このガードマンの方なんですから! 悪いのは、こ、こいつ!」

「そ、それは事故なんですよ、事故!」

「事故なもんか。あんたこそ、誘導灯振り回して、女の子を!」

「悪いけど、二人とも署まで来てもらえるかな。すぐそこだから」

「「そんなあ!?」」の声だけは仲良く揃った。

 

「ガードマンさんは、悪くないです!」

 

 みんなの視線がいっせいに、あたしに向けられた。

 

 で、四人揃って、近所の北町警察に行くハメになった。

 

「じゃ、佐倉さんは、ガードマンの四ノ宮君が気になって見つめていた。四ノ宮君は、そんな佐倉さんにアガっちゃって、思わず大きく誘導灯を大きく振って佐倉さんのスカート跳ね上げた。それをたまたま街の景色を撮っていた前田君の映像に映りこんだ……というわけか?」

 お巡りさんが、いったんまとめた。

「でも、香取巡査。前田君の映像は、ハナから佐倉さんをフォローしてますよ」

 任意で出させたスマホの映像を見ながら、女性警官は眉をひそめた。

「たまたま、彼女が前を歩いていただけですよ」

 前田は開き直った。

「他にも、女子高生の映像が多いなあ……」

「たまたまですって、時間帯見て下さいよ。通学時間でしょ。女子高生なんか、どこにでも歩いてますよ」

「でも、これは狙ってるなあ、あきらかに……」

「でも、そうだとしても、パンチラは、これだけですよ」

「たしかに……でも、これは制服フェチですね」

「そ、それは違う。単なるリセウォッチングですよ!」

 リセウォッチングぅ!?

「単なる街頭撮影ではないわけだ。今自分で言ったわよね?」

 なかなかの女性警官だ。

「法律には触れません」

「でも、てめえ、サイトに投稿してんじゃんよ!」

 四ノ宮さんの逆襲。

「うん、投稿の記録残ってるね」

「とっくに削除されてます」

「偉そうに言うな!」

「四ノ宮君は落ち着こう。佐倉さん」

「はい!」

 あたしはビックリして、椅子に座ったまま五センチほど飛び上がった。

「あなたは、こんなことされて嬉しかった?」

「とんでもない、恥ずかしいです! 迷惑です!」

「じゃあ……」

「その前に確認です。香取巡査」

「え……?」

「迷惑に思ったのは、投稿されたことだけ? スカートをナニされたことは?」

「恥ずかしいけど、あれは……じ、事故です(#-_-#)」

 ドン!

 香取巡査が、拳で机を叩いた。

「決まり。前田君、都の迷惑防止条例違反。一晩泊まってもらおうか」

「四ノ宮君と、佐倉さんは、ここに署名して帰っていいわよ。連絡先もお願い。で、これは肖像権の侵害で訴えられるから、家に帰って相談してみて」

 梅ヶ丘の駅まで四ノ宮さんと歩いた。

「ごめん、もともとはオレが……」

「いいの、四ノ宮さんのは事故。学校でも言われちゃった。そんな三十メートルも手前から見つめるもんじゃないって」

「オレこそ……」

「ううん、あたしこそ……」

 で、目が合っちゃって、それでおしまい。

 あたしは梅ヶ丘から豪徳寺まで電車。四ノ宮さんは駅まで迎えにきてくれた工事車両に乗ってお別れ。

 普通だったら、番号の交換ぐらいするかなと思ったけど保留。良きにつけ悪いにつけ、あたしは優柔不断。でも「ガードマンさんは悪くないです!」と叫んだ。そんな自分は新発見。

 

 そして、この問題は、これでは終わらなかった……ダスゲマイネ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査
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