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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・063『今朝の寿川は微妙に荒れている』

2023-11-24 15:48:20 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

063『今朝の寿川は微妙に荒れている』   

 

 

 家を出て一分ほどで橋を渡る。

 

 コンクリート製で欄干の親柱に『戻り橋』と彫られている。

 ちなみに、最寄りの橋は『寿橋』で、家からは30秒。

 なんで、わざわざ遠い『戻り橋』を通るのかというと、わたしは毎日半世紀以上の時を遡って1970年の宮之森高校に通っているからだ。

 そのいきさつについては、物語の最初の方にあるから気になる人は読んでくれると嬉しいかな。

 戻り橋は、人の目には見えないんだ。

 袂のところに『M』のシルシがあって、それを足でツンツンすると橋が現れる。

 現れても他の人には見えない。

「ねえ、他の人にはどう見えるの?」

 お祖母ちゃんに聞いてみたことがある。

「見えないって言っただろ、魔法少女とか魔属性のある者にしか見えない」

「そうじゃなくって、渡っている時のわたしの姿」

「……消えたように見える」

「消えたように?」

「うん、だから近くに人が居ないことを確認してから渡るわけよ」

「な、なるほど(;'∀')」

 だから、家を出てから橋を渡るまでは前後の100mぐらいは意識する。

 100m以内に人が居たらやり過ごす。まあ、たいていスマホ見るふりしてタイミングを計る。

 

 今日も、スマホ見るフリして宅配の車をやりすごしてMをツンツン。

 

 ゴォォォォォォォォ

 橋の下を川が流れる。

 

 位置的には寿川なんだけど、渡っているのは時の流れ。

 時の流れなんだから、渡り切ったらいつの時代のいつの時間に行くか分からないだろうと思うんだけど、「そのために橋があるんじゃないか」とお祖母ちゃんの説明。

 なるほど、戻り橋は、わたしがボンヤリしていても、ピッタリ1970年に着くように調整済みなんだ。

 

 グゴォォォォォォォ

 

 あれ?

 微妙に川の流れが違う。

 微妙に荒れている……チラ見すると、流れも少し乱れて小さな渦が出来かけては消えていく。

 こういうのには、あまり気を取られない方がいい。

 本能的にそう思って、速足で渡り切った。

 

 ひょっとして、学校でなにか事件とか起こるのか……少し心配になったけど、なにごともなく授業が始まり、現国の時間もいつものように自習になって、いつものように昼休みになって、いつもの仲間と学食に向かう。

 たみ子一人が国語準備室経由。

 さすがの杉野先生も、なんにもなしでの自習は気が引けると見えて、今日は自習課題を出しいていたんだ。

 それを届けに行ったから、ちょっとだけ遅れる。

 ロコが代わりにB定食を買って四人掛けのテーブルに着く。

 

 ササササと、ちょっと急ぎ足でたみ子が戻って来る。

 

「え、なにかあったですか?」

 ロコが、さっそく顔を寄せる。

「準備室のラジオで言ってたんだけどね、三島由紀夫が切腹したって!」

「「ええ!?」」

 ロコと佳奈子が目を丸くして、ちょうど席に着こうとしていた真知子はあやうくトレーをひっくり返しそうになった。

 わたしは『切腹』の二文字にはビックリしたけど、三島由紀夫という名前にはピンとこなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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RE・トモコパラドクス・88『カッパドキアの朝日』

2023-11-24 09:51:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

88『カッパドキアの朝日』 

 

 

 いったん撤退せざるを得ない……

 

 司教を捕らえるどころか、このままでは自分たちも無事では済まなくなる。

――いったん撤収しよう――

 滝川も思念を飛ばしてきた。

――それしかないみたい――

――ポチ、ハナ、撤収!――

――ラジャー!――

 ビシャビシャビシャ!

 申し訳ないとは思いながら、アンデッドと化した住民たちを粉砕しつつ出口を目指す。

 トラップの大半は無力化されていたが、それでも僅かに生きているものや、刃や針をむき出しにしたまま固着しているものがあって、岩窟を出たときにはボロボロになってしまった。

 

 ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ

 

 肩で息をして、そして気づいた。

 

「ハナ?」

 ハナの姿が見えない。

「ポチ、ハナはどうした!?」

「え……しまった(;'皿')」

「待て、今戻ったらおまえもやられる」

「だって、ハナがぁ(;'▢')!」

「ハナぁぁぁぁ!!」

 ハナは、まだ四カ月の子犬なのだ、御子母子を助け、アンデッドたちを破壊せずに無力化させ、クリーチャー共を倒し、その上で司教を確保する……無理だった。

 ポチは滝川の腕の中で足掻き、友子は地面に両手をついた。

 

 ピッシャーーーー!!

 

 突然岩窟の中から閃光がほとばしり出て、三人は突然の雷に打たれたように目を庇った。

「ハ、ハナが!」

「待て、なにか出てくる」

 滝川に押しとどめられて、岩窟の入り口を見ると、三人の人影が出てくるのが見えた。

 一人は女性、あるいは女性型の義体あるいはロボットで、二体の男性型を引き連れている。

 余光を残していた岩窟がようやく収まって、三人の姿が明らかになってきた。

 

「し、栞!?」

 

 それは、50年後の未来、黒部峡谷近くの組織本部を壊滅させたとき以来の栞の姿であった。

「お久しぶりお母さん」

「どうして、栞が……」

「あの司教は、わたしたちの時代から越境してきた指名手配犯。トリップシステムをクラッシュさせて逃亡して来ていたの。復旧に時間がかかってしまって。ごめんなさい」

「とぎれとぎれに通信してきたのは、そういうことだったのね」

「うん、古いシステムを構築し直して、なんとかしようと思ったんだけど、あれが精いっぱいで……あ、そうだ」

 後ろの男性型を促すと、抱えていたポッドを示した。

「中でハナを保護したの。でも、怪我がひどくてAEDポッドに入れて保護してる。この時代のスキルじゃ治せないから、しばらく預かるわ」

「そうだったの、ありがとう栞」

 うん……と頷いた栞の視線が滝川に向いた。

「あ、こちら……」

「助かりました中佐」

「中佐?」

「え……言ってないんですか?」

「あ、いや……」

「この人は、特務師団の滝川中佐、除隊してからはあちこちリープしては……」

「それ以上は個人情報だ中尉」

 滝川が退役した義体兵士であることは承知していた友子だが、考えて見れば21世紀の時代に、こんな高度な義体化の技術があるはずもない。

「中佐のお働きが無ければ、この出動はありませんでした」

「滝川さん、いつから、わたしに?」

「気まぐれだから憶えてないよ」

 目線を避ける滝川だったが、友子の頭には、子どもの頃にディズニーランドで撮った写真が浮かんでいた(47『友子のマッタリ渇望症・3』)

「中尉、司教の移送が完了したようです。帰還命令を受信しました」

 後ろの男性型が無機質に告げる。この二人は、ただの部下なのかお目付け役なのか分からない友子だ。

「ハア……じゃ、そろそろ行くわ。ハナは直り次第届けるから」

「うん、頼むわ」

「それじゃ」

「それから……」

「なに、お母さん?」

「お母さんじゃなくて『トモさん』だよ」

「え、あ、ごめん、トモさん!(^_^;)」

 初めて娘らしい笑顔を向けると、部下と共に光の中に消えて行った。

 

「さあ、わたしたちも……あれ?」

 

 滝川の姿も消えて、ポチ一人が気まずそうにお座りしていた。

 

「気まぐれなオッサンでぇ……家まで送るように言いつかってるんで……行こうか、トモさん?」

 

 地球離れした岩山の向こうに、何事も無かったように朝日が昇るカッパドキアの風景が広がって消えていった。

 

 

 友子パラドクス   完

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

 

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