goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 153『西安近郊兵馬俑の行軍』

2023-11-26 14:48:08 | ノベル2

ら 信長転生記

153『西安近郊兵馬俑の行軍』信長 

 

 

 戦国武将は勘が働く。

 

 勘は二種類だ。

 一つは、いつ、誰の味方に付くか、いつ裏切るか、あるいは捨てるか。

 信玄が存命中の俺は子犬のように信玄に媚びていた。「信玄公、ご上洛の折には、この織田上総之介信長めが御馬の轡をとらせていただき、都をご案内する所存にございます」とか手紙を書いて、季節ごとの贈り物も欠かさなかった。他の戦国大名共の五割り増しには金を使っていたぞ。中身がすごいのは言うまでもなく、入れ物のパッケージも、他の大名は業者まかせの段ボールとかだったが、俺は輪島塗の漆器だ。それも、スプレーで二三度噴いておしまいというようなものではない。漆器職人に前の年から注文しておいたもので、数十回塗り重ねたものだ。ある年、俺からのプレゼントが届いた時、信玄は小柄でパッケージの箱を削ってみたら、漆の塗りが丹念どころの騒ぎでは無かったので「信長の奴、ほんとうに儂を好きなのかもしれぬ……」と言っていたって、武田滅亡後に家康の家来になった穴山梅雪が言っていたぞ。足利義昭が奈良の寺を脱出して将軍になりたいと言って、みんな知らんふりをする中、真っ先に保護したのも俺だったし、真っ先に捨てたのも俺だ。

 もう一つの勘は戦だ。

 嗅覚と言ってもいい。まだ敵が準備にもかかっていないのに――攻めてくる!――と感じる勘だ。金ケ崎で市の使いが持ってきた小豆袋を見て、俺は後ろから迫って来る浅井軍の馬蹄の轟きが聞こえたぞ。信玄亡き後、勝頼が武田の家督を継いだと聞いた時、勝頼との決勝戦は長篠、それも鉄砲で打ち破るイメージが浮かんだ。

 

 敦煌を出発したばかりの俺は、その勘が働かなかった。

 

 山の向こうに雲のような砂塵が舞い上がり、それが幾万の軍勢であると知れても幻にしか見えなかった。

 敦煌から東に進んで、さらに西安を過ぎ、三国志の中原(ちゅうげん)に出るまで、妖怪はともかく大軍勢に攻められるなど考えられないからだ。

 距離的に近いのは諸葛茶孔明が軍師を務める蜀の軍勢だが、曹操の魏が活発化しつつある今日、成都をがら空きにしてまで西に軍を進めることはあり得ない。

 呉は、蜀と魏に挟まれているし、いかな曹操も蜀と呉を倒さなければ西域に進軍するなどあり得ることではない。

 

「兵馬俑だ!」

 

 茶姫が沙悟浄に変身しているのも忘れて叫んだ。

「へいばようブヒ?」

 市が八戒のまま問い返す。

「ああ、秦の始皇帝の墓に隣り合って埋められた原寸大のフィギュアどもだ!」

「すごい数だぞウキ」

「発掘されたもので2000余り、未発掘のものを入れれば万に近いと言われている。少し面倒だ……」

「隠れるかウキ?」

「いや、向こうも気づいている。三蔵法師を下ろして、全員で土下座……いや、手を合わせてやり過ごそう」

「じゃ、茶姫もブヒ」

「あ、素に戻っていたッパ(;'∀')」

 沙悟浄に化け直した茶姫共々、三蔵法師を下ろし跪いて合掌する。

 

 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ

 

 騎兵を先頭に、ざっと数えて5000以上の軍勢が通っていく。

 近くで垣間見ると、プライズ品のフィギュア程度に彩色されたものもあるし素焼きのままのものもある。中には首や腕を欠いているものや、ひびの入ったものもある。

 しかし、その走りっぷりは戦場に赴く軍勢そのものだ。足並みにもザクザク揺れる槍の群れにも長篠の戦場に赴いた織田軍団のような緊張感がある。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ

 けたたましい音を立てて通過していくのは十頭立ての馬車。

 馬車は小屋ほどの大きさがあって、御者の他に警備の兵が前後左右に乗っている。

 普通に考えれば、これに乗っているのが始皇帝だろうが……馬車の後ろ、50騎あまりの騎兵が付いている、その真ん中にいる者こそが始皇帝だろう。オーラが他の騎兵とはまるで違う。

 いかん、ガン見しては気づかれてしまう。

 

 十分以上かかって、ようやく全軍が通過していった。

 

「あれは、いったいなんなのだウキ?」

「世が乱れると、始皇帝は兵馬俑を動かして天下を見回るという噂があった……ッパ」

「天下を見回るブヒ?」

「ああ、始皇帝は、いまだに天下は自分のものだと思っているんだッパ。よく言えば責任感、有体に言えば欲、執着心だッパ」

「でも、あんなものが走り回ったら、大騒ぎにならないブヒ?」

「常人には見えないと言われているッパ」

「俺たちに見えるのは…………きっと西遊記に化けているからだなウキ」

 他の想いがうかんだが、そういうことにした。二人も異議は無さそうで、三蔵法師は、まだ瞑目して念仏を唱えている。

 

「あ、まだなにか来るブヒ!」

 

 猪八戒の指の先、さっきの軍勢に比べれば線香のような砂煙をあげ、ヨタヨタ走って来る騎馬があったぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版):第2話《ダスゲマイネ》

2023-11-26 06:40:13 | 小説7

ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第2話《ダスゲマイネ》  

 

 

 国語の試験、準備万端の読みを「じゅんびまんたん」と書いてしまった(;'∀')。

 

 それくらい、昨日の学校では落ち着きが無かった。

 理由は言うまでもない……水道工事のガードマンのニイチャン。

 悪気がないのは「あ!」って声でも分かっている。

 でも後ろを歩いていたサラリーマンのオッサンに「お!」と感動されてしまった。

 誘導灯がスカートにひっかかって派手にスカートが翻り、オッサンに見られてしまったのだ。
 
 あたしは「う!」と唸って走るしか無かった。

 

 ボロボロのテストで、まくさの「マック寄ろうよ!」も断って真っ直ぐ家に帰った。

 

 水道工事が続いているといけないので、いつもの通学路を避け豪徳寺の駅から真っ直ぐみそな銀行の前を通りベスト豪徳寺の前の道に回った。

 みそなの前を通るときチラ見したら、工事は昼休み。お爺ちゃんのガードマンが一人で立っていた。だったら、普通に通ればいいんだけど、回り道するって決めたので、曲がることができない。

 こういう見栄っ張りで、融通の利かないというか、反射神経の鈍さは自己嫌悪。

 ダスゲマイネ

 口を突いて出てくるのは夏休みに嵌った太宰治。ドイツ語のDas Gemeine(俗っぽさ)と、津軽弁の「んだすけまいね」(そんなだからだめなんだ)という音をかけているらしい。

 気持ちがクシャっとしたときに出てしまうようになった。恵里奈みたく「じぇじぇじぇ!」なんて言える子はいいなと思う。

 

 家に帰ると悲惨が二つ。

 

 一つは、お母さんが風邪でひっくり返っていたこと。朝から咳き込んでいたのが本格的な風邪になったみたい。

「ごめん、さつき(姉)も遅いから、晩ご飯お願い……」

「大丈夫?」

「うん、犬飼さんのお見舞いに行って病院で風邪もらってきたみたい。救急箱の風邪薬とお水くれない」

「うん。で、おじさん、どうなの?」

「あたしがお見舞いに行ったときは、少しお元気だったんだけどね……」

 あたしは、お母さんの「けどね……」にひっかかった。

「ひょっとして……」

 二つ目の悲惨。

「うん、今朝方ね……明日お通夜で、明後日お葬式。それまでに治さなくっちゃ」

「そうなんだ……」

「さくら……これ便秘薬だわよ」

 

 ダスゲマイネ(;'∀')

 

 犬飼さんちは、お向かい。

 

 子どもの頃は娘さんたちが手を離れていたこともあって、よく遊んでもらった。

 自転車に乗れたのもおじさんのおかげ。お母さんの知らないうちにお風呂に入れてもらって『さくらが行方不明!』と大騒ぎになったこともある。

 子供心にも職人あがりのおじさんの引き締まった体をよく覚えている。今なら、近所でも幼女をいっしょにお風呂に入れるなんて問題なんだろうけど、うちの桜ヶ丘あたりは、珍しく昔の気風が残っていた。ご町内を大騒ぎと大笑いにさせた懐かしい思い出。

 駅前に行くまではホカ弁に決めていた。

 とてもお料理する気分じゃない。

 ところが、水道工事を一本避けた道を通っていると、風に乗ってオデンの匂いがしてきた。

 あ、そうだった……

 突然の風がページをめくったように記憶をよみがえらせた。

 お風呂に入れてもらったあと、オデンをご馳走になったんだ。出汁の取り方がうちと違って、とても美味しく感じた。竹輪麩と玉子が特に美味しかった。

 で、ホカ弁屋からスーパー・ベスト豪徳寺に切り替えた。


「これ、さくらが作ったのか!?」

「「ホント!?」」

 お父さんも、お姉ちゃんも目を剥いた。

「犬飼さんちのオデン思いだしちゃって……」


 あくる日のお通夜には、お姉ちゃんと二人で行った。

 お母さんは風邪の具合がもうひとつ。お父さんは仕事でお通夜には間に合わないからね。

 

「おじさん言ってた。さつきちゃん、自転車乗れると世界が広がるぞって」

「え……あたしも言われたよ!」

「じゃ、姉妹そろって恩人だ……」

「おでんと自転車見るたびに、思い出しそうだね」

「じ、自転車にしなくてよかったね、今日もおでん……食べたとこだし……」

 お通夜の会場に着いたころは、お姉ちゃんは涙でボロボロだった。

 あたしも十分悲しいんだけど涙が出ない。オデン作りながら十分泣いたからかもしれない。

 内緒だけど、お出汁の味見をしようと思ったら、ポツリと涙がお鍋に落ちてしまった。

 でも、こんな状況と場所で泣けないなんて女の子らしくない。

 

 ダスゲマイネ……

「ん?」

 

 またまた呟いて、お姉ちゃんに変な目で見られた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする