魔法少女マヂカ・241
霧子とノンコが眠りにつくのを待って、ブリンダと大和ホテルを出た。
明日に迫った試合の為に、なかなか眠ってくれないのではと心配したが、この三日あちこちを見て回ったことが良かったのか、日付が変わらないうちに寝息を立て始めた。
今夜は激戦が予想される。
なんせ、アジア号一編成分の妖どもがやってくるのだ。
焼き芋屋の話では、実体のないソウル(霊魂)らしい。物理的攻撃力は無いに等しいだろうが、視認しにくい。
すでに大連市内に食材として入り込んでいる実体と合体しないうちに片づけなければならない。
合体させてしまえば、物理的な攻撃力を持ってしまい、ブリンダと二人では太刀打ちできなくなってしまうかもしれない。
「実は、昼間のうちに間接結界を張っておいた」
「え?」
「いや、効かないと恥ずかしいから、黙っていた。ダメもとだが、一応言っとくぞ」
「いや、わたしも張っておいたわよ間接結界、足止めくらいになるかと……」
「そうか、日米二人の魔法少女でやったら、より効果的かもな」
アハハハ…………
間接結界とは、ほら、爾霊山で張った結界の間接拡大版。
予備魔法の一種で、台風が来る前に板を打ち付けたり、つっかえ棒をするのに似ている。やり方は、地図に呪を掛けて封をする。普通は一人で行う。複数でやると、地図の上の間接魔法でもあり、部分的には強力になることもあるが、逆に脆いところも出てきて、かえって役に立たないと言われている。
地図と現場が離れすぎていると効果が無いが、ヤマトホテルと大連駅は距離的に近い。
それに、ブリンダとは特務師団のバディーでもあるから、なんらかの効果は……。
「あまり期待しないでおこう」
思いは同じようだ。
ん?
ちょっと立ち止まってしまった。
そこを曲がったら駅舎が見えるというととろで、視界が落ちてきたのだ。
二つ先の街灯まで見えているが、その先は闇に滲むばかりで判然としない。
「霧子は置いてきたのに霧か?」
「プ」
「すまん、クサイ洒落を言ってしまった」
この時は、まだ余裕だった。
「港町だから霧が立ち込めても不思議はない……けど、まだ八月だよ、霧が出る?」
「怪しいか……」
ポーーーーー
「汽笛だ、駅はすぐそこだろう」
「いや……」
「なんだ、なにか大和撫子のハートに引っかかったか?」
「この汽笛、アジア号じゃないんじゃない?」
ポーーーーー
「そうか……でも、なんだか聞き覚えがあるぞ」
「これは、北斗の汽笛?」
「うちの高機動車か?」
「まさかね……」
かつて、時空を超えて北斗が救助に来てくれたことはあるが、令和から百年の時を遡っては難しいだろう。
同型の蒸気機関車だとしても、北斗は母体がC58だ。あれは昭和十三年にならなければ現れない。
そもそもが、満鉄の軌道は広軌だ、狭軌のC58が走っているわけもない。
大正のこの時代に来て長くなる、我ながら里心がついたかな。
ポォーーーーーー!
「あ、やっぱりアジア号の汽笛だ」
野太い汽笛に、ブリンダと苦笑いになる。
そして、汽笛が消し飛ばしたのか、霧が薄れて、大連駅の姿が明らかになってきた。
「初めて見るが……」
「噂の通り、上野駅にそっくりだね」
自分で言って違和感……大正時代の大連駅は……まだ改築前だったはず……。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査
- 孫悟空嬢 中国一の魔法少女