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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・241『その前日 霧に滲む大連駅』

2021-10-26 15:58:43 | 小説

魔法少女マヂカ・241

『その前日  霧に滲む大連駅語り手:マヂカ  

 

 

 霧子とノンコが眠りにつくのを待って、ブリンダと大和ホテルを出た。

 明日に迫った試合の為に、なかなか眠ってくれないのではと心配したが、この三日あちこちを見て回ったことが良かったのか、日付が変わらないうちに寝息を立て始めた。

 今夜は激戦が予想される。

 なんせ、アジア号一編成分の妖どもがやってくるのだ。

 焼き芋屋の話では、実体のないソウル(霊魂)らしい。物理的攻撃力は無いに等しいだろうが、視認しにくい。

 すでに大連市内に食材として入り込んでいる実体と合体しないうちに片づけなければならない。

 合体させてしまえば、物理的な攻撃力を持ってしまい、ブリンダと二人では太刀打ちできなくなってしまうかもしれない。

「実は、昼間のうちに間接結界を張っておいた」

「え?」

「いや、効かないと恥ずかしいから、黙っていた。ダメもとだが、一応言っとくぞ」

「いや、わたしも張っておいたわよ間接結界、足止めくらいになるかと……」

「そうか、日米二人の魔法少女でやったら、より効果的かもな」

 アハハハ…………

 間接結界とは、ほら、爾霊山で張った結界の間接拡大版。

 予備魔法の一種で、台風が来る前に板を打ち付けたり、つっかえ棒をするのに似ている。やり方は、地図に呪を掛けて封をする。普通は一人で行う。複数でやると、地図の上の間接魔法でもあり、部分的には強力になることもあるが、逆に脆いところも出てきて、かえって役に立たないと言われている。

 地図と現場が離れすぎていると効果が無いが、ヤマトホテルと大連駅は距離的に近い。

 それに、ブリンダとは特務師団のバディーでもあるから、なんらかの効果は……。

「あまり期待しないでおこう」

 思いは同じようだ。

 

 ん?

 

 ちょっと立ち止まってしまった。

 そこを曲がったら駅舎が見えるというととろで、視界が落ちてきたのだ。

 二つ先の街灯まで見えているが、その先は闇に滲むばかりで判然としない。

「霧子は置いてきたのに霧か?」

「プ」

「すまん、クサイ洒落を言ってしまった」

 この時は、まだ余裕だった。

「港町だから霧が立ち込めても不思議はない……けど、まだ八月だよ、霧が出る?」

「怪しいか……」

 ポーーーーー

「汽笛だ、駅はすぐそこだろう」

「いや……」

「なんだ、なにか大和撫子のハートに引っかかったか?」

「この汽笛、アジア号じゃないんじゃない?」

 ポーーーーー

「そうか……でも、なんだか聞き覚えがあるぞ」

「これは、北斗の汽笛?」

「うちの高機動車か?」

「まさかね……」

 かつて、時空を超えて北斗が救助に来てくれたことはあるが、令和から百年の時を遡っては難しいだろう。

 同型の蒸気機関車だとしても、北斗は母体がC58だ。あれは昭和十三年にならなければ現れない。

 そもそもが、満鉄の軌道は広軌だ、狭軌のC58が走っているわけもない。

 大正のこの時代に来て長くなる、我ながら里心がついたかな。

 ポォーーーーーー!

「あ、やっぱりアジア号の汽笛だ」

 野太い汽笛に、ブリンダと苦笑いになる。

 そして、汽笛が消し飛ばしたのか、霧が薄れて、大連駅の姿が明らかになってきた。

「初めて見るが……」

「噂の通り、上野駅にそっくりだね」

 自分で言って違和感……大正時代の大連駅は……まだ改築前だったはず……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟空嬢       中国一の魔法少女

 

 

 

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はるか・12『離婚から三ヵ月 事故』

2021-10-26 06:43:17 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・12

『離婚から三ヵ月 事故』 

 



 その連絡が入ってきたのは、明くる朝の十時ごろだった。

「はい、はるか」

 由香かな……ぐらいに思い、ディスプレーも見ず軽く出た。

『T署交通課の秋本と申します。坂東はるかさんの電話ですか?』
「は、はい、はるかですが」

 なんだろういったい?

『伍代英樹さん、ご存じですか?』
「はい……父ですが」
『じつはですね……』

 あとは上の空だった。

 気がついたら、オレンジ色の愛車に乗って、T会病院を目指して走っていた。
 踏切は閉まっていて、駅の跨道橋を愛車をかついで渡った。
 重いとも思わなかった。

――お父さんが、交通事故? なんで、なんで高安で?――

「免許証で、東京の方には連絡したんですがね。手術もやることやし、他に近所にお知り合いの方がと思て、携帯のアドレスを見せていただいたんですわ。ほんならトップにあんたさんのアドレスがあったんでかけさせてもろたんです。娘さんなんですね」

 白髪交じりのお巡りさんが、いたわるように言った。

「はい、離婚したんで苗字は違いますが、父です。で、様態はどうなんでしょうか……」
「右大腿課上骨折。あ、右脚の太ももの骨ですわ。意識がおぼろげやったんで、まあ、事故の直後はようあるもんです。CTでも異常が無いんでオペの最中です。一応所持品とか見てもろて確認いいですか?」

 群青のポロシャツが切り裂かれ、血で黒く染まっていた。胸の紙ヒコ-キだけは血に染まらず、その白いワンポイントが際だっていた。他の所持品も全て見覚えのあるお父さんの物だった。

「まちがいありません……」

 お父さんは、駅前を一筋入った小さな交差点でバイクとぶつかったようだ。事故の様子は実況見分中だそうだが、目撃した人の話では、赤信号なのに、お父さんがふらふらっと、交差点に入ってきたそうだ。
 初めての街、細い道路、信号に気づかなかったのかもしれない。わたしも越してきたころ、何度かヒヤっとしたことがある。

 この病院の窓からも、目玉親父大権現が見える。

 思わず「お願いします……」という気持ちになる。
 それを察してか、お巡りさんが言葉をかけてくれる。

「大丈夫ですよ、脚の骨折っただけやさかい。すぐ元気にならはります。ほんなら署に戻りますんで、なんかあったら、ここに」

 とメモをくれて、病院を出て行った。廊下を曲がって姿を消す直前に、瞬間振り返って笑顔。後ろに若いお巡りさんが付いていたけど、これは無表情。こんなとこにもキャリアの違いって出るんだ……少しホッとした。

 看護師のオネエサンがやってきて、入院の手続きやら、なにやらの承諾書を持ってきた。

「すみません、親が離婚してて、戸籍上の関係が……」
「分かりました、東京の方がこられてからでけっこうですから。大丈夫、意識もすぐにもどりますよ。麻酔が覚めたら、大騒ぎやと思いますから、側にいてあげてください」
「はい」

 看護師のオネエサンはバインダーを持って立ち上がって、こう言った。

「お父さん、あなたに会いに来られたんじゃないかしら……」
「え……」
「『はるか……』って、うわごとでそればっかし。で、ケータイにあなたのアドレスもあったんで……ごめんなさい、余計なこと言うてしもて」
「いいえ、ありごとうございました」

 わたしが余計なことをしたから……血染めのポロシャツが頭をよぎった。

「はるか!」

 肩を叩かれるまで気がつかなかった。

「なんでお母さん……」
「なんでって、はるかが電話してきたんじゃないのよ」

 ……わたしってば、いつの間に。

「で、あの人の様態は?」
「うん、いま手術中。麻酔が覚めたら大騒ぎだそうだから……あ、右脚の骨折だけだから、大丈夫だって」
「そう……」

 お母さんもホッとしたようだ。

「お母さん、お店は?」

 お母さんは、昨日も早引きしている。

「ああ、前のオーナーの奥さんに入ってもらってる。ランチタイムの途中で代わってもらった」
たしか棚橋さんだったっけ、旦那さんとは死別。いろいろあるよな、大人って……。
「でも、あの人なんで大阪に来たんだろ?」
「う……新幹線で」
「バカ、真剣に考えてんのよ……高安ってことは、家に来るつもりだったんだよね……はるか、ひょっとして……」

 おっかない顔でお母さんがにらんだ。それ以上追求される前に、事故のあらましを説明。

 種切れになったころ手術が終わった。

 さすがにお母さんも、お父さんの麻酔が覚めるのを無言で見守っている。

 なんだか分からない医療機器のピコピコとか。となりのナースステーションの声や、物音が異様に響く。

 何分たったろう……。

「ウ……!」

 お父さんが痛みと共に目覚めた。

「あなた」

 朝起こすときのようにレギュラーな調子でお母さん。

「お父さん……」

 意に反して、蚊の鳴くような声しかかけられなかい。

 すぐに看護師のオネエサンが来て、いろいろチェックしたり、質問をしたり。

「あとで、先生が来ますけど、たぶん明日には一般病棟に移れると思いますよ」

 看護師さんの質問にも、お父さんはしっかりと答えていた。

 もともとお父さんは痛みには強いというか鈍感。会社を潰して、離婚して、実家の仕事も変えて……そして生活も。
 そこにはわたしの想像を超えた痛みがあったんだろう。

 麻酔が切れたときだけ、顔をしかめたけど、あとは涼しげといっていいほどの穏やかさだった。

「二人とも、すまんなあ……」

 わたしたちへの最初の言葉だった。

「早く良くなって、東京へ帰りましょうね」

 と、お母さん。

「見送りぐらいには来てくれるんだろう」
「土日ならね。わたしパートだから、平日はそんなに休めない」
「わたし、平日でも行く。授業抜けてでも……」
「はるか……」

 まぶしげにわたしを見てお父さんが言った。

「はるか、もっと顔を寄せてくれないか」
「お父さん……」

 泣きそうになった。

「ああ、それでいい……そこのライトがまぶしくってな」

 ライトかよ……。

 その直後、あの人が入ってきた。

「奥様、ご無沙汰いたしております」

 完ぺきな秘書の物腰で、秀美さんはあいさつした。

「もう奥様じゃないわよ。大変だったでしょ、東京からじゃ」
「ええ、でも事が事ですから」
「……高峯くん、すまなかったね」
「いいえ、社長がお怪我なさったんですから、当然のことです。はるかちゃん、昨日と一昨日はどうも」

「え?」

 と……お母さん。

「お父さん、さっき手術が終わって、今麻酔が切れたとこなんです。えと右大腿顆上骨折(合ってたよね?)です。バイクとぶつかったんです。術後の経過はいいようです。事故の様子は、実況見分とかで、まだ詳しくは分かりませんけど。あ、手続きとかはこれから……」

「はるか、なにあせってんのよ?」

「あ、あの……その……」

 全部バレてしまった……。


『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第17章』より

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