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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・253『ペコちゃん怒ってカラスが鳴いて』

2021-10-25 14:49:47 | ノベル

・253

『ペコちゃん怒ってカラスが鳴いて』さくら      

 

 

 あんたは卒業せえへんのんか!?

 

 ペコちゃんの堪忍袋が切れた。

 ペコちゃんいうのは、うちの担任、月島さやか先生。

 普段はおっとりした先生で、いっつもきれいな標準語で話しはる。お家が神社やねんけど、幼少期は関東地方やったみたいで、その言葉遣いがペコちゃんには似つかわしい。

 そのペコちゃんが切れたんは、田中(一年からいっしょのアホ男子)が進路希望調査票を出さへんから。

 どうも、クラスで出してへんのは、田中だけらしい。

 ペコちゃんは、いつもの標準語では生ぬるいて思て、なれへん大阪弁やさかいに、アクセントがおかしい。

 なんか、東京の芸人さんが無理に使った大阪弁みたいで、うちらでも、ちょっと笑いそうになる。

 教室のみんなは下向いてるけど、そのうちの何人かは、ぜったい笑うのんを堪えてる。

 

 危ないところだったね(^_^;)

 

 せやさかい、留美ちゃんが言うてきたときは――よく笑わなかったね!――という意味やと思た。

「二日遅れてたら、わたしもさくらも田中君といっしょに立ってるとこだったよ」

「あ、ああ、そやね、そやそや……」

 言われて思い出した。

 うちと留美ちゃんは、先週の金曜日に、やっと進路希望調査票を出したんや。

 

 うちも留美ちゃんも聖真理愛学院希望。

 

 そう、うちの詩(ことは)ちゃんが卒業して、頼子さんが在籍中の私学のお嬢様学校。

 正直なとこ、うちも留美ちゃんも遠慮があって、最後まで悩んだ。

 なんせ、学費が高い。授業料は国やったか大阪府やったかの補助的なもんがあって、変わらへんねんけど、諸費が違う。たとえば、制服やカバンとかは、ほとんど公立の倍くらい。修学旅行とかもヨーロッパで、デラックス。

 修学旅行は、コロナの影響で、うちらは中止になってしもて、どうせ行くんやったら、デラックスな修学旅行の学校に行きたかったし。

 せやけど、うちも留美ちゃんも酒井家では居候のようなもん。とても、自分からは言い出されへんかった。

 それが、おっちゃんの方から「二人とも真理愛学院にいってみいへんか?」と振ってくれた。

 ちょうどテレビのニュースで六甲山にある小学校の『ストーブ火入れ式』のニュースをやってた。

 昨日は木枯らし一番も吹いてブルブルやったけど、ニュースから伝わる何倍も暖かなった。

「きっと、うちのお父さんやら、小父さんやらが、知らないうちに相談してくれていたんだね」

「うん、せやろね。きっと詩ちゃんも、おっちゃんに相談されてたと思う」

「そだね、おかげさまなんだよね」

 留美ちゃんが、お寺の居候らしい感想を言うと、美味しそうな匂いが漂って来る。

「「焼き芋」」

 思わずハモってしまう。

 いつもとは一筋ちがう道に入ると、米田米穀店に『焼き芋始めました』のノボリ。

「買って行こうか?」

「うん、せやね」

 今日は25日で、二人ともお小遣いがいただける日。

 お互い、先月分は使い残してるのは見当がつくので、すぐに意見は一致。

「おお、如来寺のキャンディーズ!」

 如来寺の婦人部長でもある米田のお婆ちゃんが、お愛想を言うてくれて、オマケしてくれる。

「「ありがとう、お婆ちゃん」」

 焼き芋の紙袋をカイロ代わりに胸に抱いて角を曲がる。

「キャンディーズだって」

「お婆ちゃんも古い。それに、ピンクレディーと間違うてる、キャンディーズは三人やんなあ」

「あ、それ、詩さんも入ってると思うよ」

「あ、そうか……」

 やっぱり留美ちゃんの方が行き届いてると思た秋の夕暮れ……。

 カーーー

 カラスが鳴いて、ご陵さんの方へ飛んでいきました。

 

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銀河太平記・075『社長  村長  主席』

2021-10-25 11:08:44 | 小説4

・075

『社長  村長  主席』 加藤 恵    

 

 

 西ノ島には三つの集団がある。

 

 南部の氷室カンパニー。氷室社長がリーダーで、『南』とか『カンパニー』とか『会社』と呼ばれている。

 東部のナバホ村。村長と呼ばれるインディアンの末裔が酋長のようにまとめていて、『東』とか『村』と呼ばれる。

 西部のフートン(胡同)。主席と呼ばれる周温雷が指導者で、城塞を思わせる中国伝来の四合院に集住、『西』とか『フートン』と呼ばれる。

 

 カンパニーの新人であるわたし(加藤恵)は社長のお供で、村での用事を済ませ、村長も加わって、フートンの門前に着いたところだ。

 

「東の村長だ、南の社長もいっしょだ。主席はいるか!?」

 村長が戦の名乗りをするような大声を門に向かってかける。

 なんだか、アメリカインディアンが三国志の世界に殴り込みをかけてきたような迫力だ(^_^;)。

『主席は坑内の見回りに行っておられます、お急ぎなら鉱区の方へ、お時間があるなら中でお待ちください』

『来福門』の扁額に仕込まれたスピーカーからNHKのアナウンサーのような声で返事が返って来る。

「人工音声?」

「うん、日本語を喋れない者も多いからね」

「外で待ちましょう」

 社長が村長の背中に呟く。

「外で待たせてもらう!」

『ご自由に』

 社長が前に出ると、にこやかな顔で付け加える。

「フートンの周りを走って『東』と『南』で競走してもいいかな? じっと待っていては体が冷えますからね」

『あ、それは困ります(;'∀')』

 なんで困るんだろ?

「西は漢明の人が多いからね」

「革命時代からの伝統で、覗かれたり取り囲まれたりするのを嫌がるんだ」

 知ってて言ってる。社長も村長も意地が悪い。

『あと……えと……』

 

 人工音声が悩んでいると、フートンの後方からガチャガチャと音がする。

 

『アイヤー 待たせて済まないある!』

 サンパチに似たようなのが、左右にボディーを揺すりながら走って来る。

『おお、ホ-バイ!』

『わーい、イッパチぃ!』

 ガシャガシャ ギッコンギッコンと音を立ててサンパチとニッパチが寄っていく。

 名前とカタチから言って、おそらくはニッパチの兄妹マシンだろう。

『おお、ニッパチ、リアルハンド付けたあるか?』

『うん、新人のメカニックさんに付けてもらった!』

『拙者も、付けてもらうことになってござるよ』

『それはウラヤマあるなあ!』

「おまえたちは、駐車場に行って、ラインで話していなさい」

『了解ある!』『承知!』『ハーイ!』

 サンパチたちが賑やかにパーキングに向かうと、主席が鷹揚に振り返った。

 京劇の主役が務まりそうな男前、体格はそれほどではないけど、十分に逞しい。三国志の劉備玄徳に近い印象だ。

「三人揃うのは、久々。まだ日は高いが、一杯やりませんか」

「それはいい! なあ、社長!?」

「そうですね、泊まりでというわけにはいかないが、陽のあるうちなら付き合いましょうか」

「話は決まった。門を開けてくれ!」

『了解、来福門を開けます』

 ギギギギ

 西ノ島で一番重厚な門が音を立てて開き始めた……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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はるか・11『離婚から三ヵ月 アリバイ』

2021-10-25 06:59:44 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・11

『離婚から三ヵ月 アリバイ』 




「ヘッヘー、どんなもんや!」

 再生し終えたケータイから、メモリーカードを取り出して、由香はユカイそうに胸を反らせた。

 アリバイとしては十分過ぎるものであった。
 お母さんのリストにあったものは、全て撮ってあった。
 タマゲタのは、いくつかのスナップ写真にわたしと由香がツーショットで収まっていることだ。

「これって合成?」
「まあね。苦労したわ、はるかはめ込むのん」

 由香はミルク金時の最後のひとすくいを口に放り込んだ。
 由香にアリバイ工作を頼んだ甘いもの屋さんに、新大阪から直行してきたのだ。

「由香って、こんなこともできたんだ……」
「まあね……」

 中之島公園のバラ園の花言葉のときの十倍くらいタマゲタ。

 そして気づいた。

「あ……これって、もう一人いないと撮れないよね?」
「え?」
「だって、由香自身は実写でしょ……ってことは、だれかがいっしょにいて撮ったってことじゃないの」
「そ、それはやね……」
「白状しちゃえ、吉川先輩と行ったんでしょ?」

 由香は照れ隠しと、なんだかわかんない気持ちを隠し、スプーンをマイクのようにして言った。

「……そうです。そのとおりです。ほんでからに合成は吉川先輩が、パソコンで、横浜の友だちのとこにデータ送ってやってもらいました。なんか文句ある!?」
「ないない。こっちは頼んだ側なんだから」

 わたしもブル-ハワイの最後のひとすくい。

「ほんまにかめへんの……あたし、もう本気やで!」
「ぜんぜん、わたしと先輩は互いにワンノブゼムなんだから」

 正直、吉川先輩とは、人生観ってか、根本的なところで埋めがたいものを感じはじめている。ゲンチャリを借りたり、オチャラケタ話ならともかく、人や物事に取り組む話や付き合いになると、きっとお互い、どうしようもなく相手を傷つけてしまいそう。

 こないだ、いっしょしたJ書店でもミーハーなうちはよかった。
 でも、演劇書のコーナーの片隅に大橋先生の本を見つけたときの彼の態度。

「ま、ご祝儀だ」とレジに持っていき、精算がすむと「ほれよ」と、わたしに放ってよこした。

 大橋先生は、けっして売れてる劇作家なんかじゃない。でも、ぞんざいに上から目線で扱っていいことにはならない。ミーハー感覚はすっとんでしまった。

「どうしたんだよ」
「なんでも」

 けっきょく、気まずく書店の前で別れた。でも、あとでゲンチャリは借りにはいける。そういう距離感でいい。


「やばい!」

 思わず声に出るところだった。

 念のため、電車の中で再生してみて気がついた。写メの中のわたしが着ているキャミは、こないだ由香とワーナーの映画を観にいったときのだ。

 このキャミは、東京に行く前に洗濯して……干したままだ。

 お母さんがもう取り込んでいるはず。そこにこのキャミの写メを見たら……トリックがばれてしまう!


 溺れる者は藁をつかんで沈んでいく……のかもしれないが、高安の二つ手前の駅で降りて、あのキャミを買った量販店に向かう。

 もう秋物が出始める時期、もうあのキャミはないだろうけど……。

「あった!」

 それは、夏のクリアランスで、バーゲンのワゴンの中に一枚だけ残っていた。お父さんのポロシャツといい、このキャミといい、わたしはバーゲンにはついているのかも知れない。

「あ……」

 手を出そうと思った瞬間、横からさらわれてしまった。
 二十代前半くらいのオネエサン。

「それ、ゆずってください!」

 由香のような生粋の大阪の女子高生なら平気で言えるんだろうけど、大阪に来てまだ五ヶ月足らず。それも今朝までは東京の女の子にもどってしまっていた。

 とっさには声が出ない。

 オネエサンはキャミを手にはしたが、目はまだワゴンの商品の上をさまよっている。
 わたしは、オネエサンがしばし目を停めたワンピをサッととって体に合わせてみた。

「これいいなあ……」

 鏡に映しスピンしてみた。

「ううん……どうしようかな」

 オネエサンの目がこちらに向いた。
 五秒ほどじらして、ワンピをワゴンにもどし、別のを手に取る。
 オネエサンは、そのワンピを手に取った。わたしは「あ!」という顔をする。するとオネエサンは、手にした他のバーゲン品をワゴンにもどし、ワンピを手に鏡に向かった。

 チャンス! 

 さりげにキャミをゲットして、レジに向かった。

 演技が初めて役に立った(後日この話をすると、乙女先生は爆笑。大橋先生は、「舞台で、そこまでリアリティーのある芝居をやってみろ」と、意見された)

 お店の化粧室で着替えて、やっと帰宅。


 大正解。この日は、お母さん締め切りに追われて、早めに帰ってパソコンを叩いていた。
 
「あら、そのキャミ……?」
「え、なに?」

 何食わぬ顔でバッグを部屋に。

「洗濯して取り込んだつもりだったんだけど」
「あ、お気にだから二着持ってんの」
「あのね……」
「え……」

 バレたか……!?

「お気にはいいけど、タグぐらい取っときなさいよ。こんなの付けたまま、神戸の街うろついてたの?」
「え、ああ……由香のやつ、なんかニヤついてると思ったら!?」

 由香を悪者にして、シャワーを浴びに行った。

 夕食後パソコンを使ってスライドショーをやった。

 アリバイづくりのため、ガイドブックとか読み込んでいたので、スラスラと解説ができた。特にお母さんが喜びそうな、人間的なエピソードには力を入れて……。

「うん、この話いいよ。うん、使えそうだ!」

 ある異人館の元の住人のドイツ人の話をしたら、お母さんの創作意欲をかき立てた。

 このドイツ人はお医者さんで、戦時中も神戸に踏みとどまり、神戸の空襲のときも、すすんで被災者を引き受けて治療にあたった。ドイツ降伏後は、ほとんど自宅軟禁。終戦後は、二人のお嬢さんと奥さんを連れ、なんとかドイツにもどったそうだが、詳しいことは分からない。その分からないところが、イメージを喚起させたようだ。

「神戸を舞台にした小説って、どんなのがあったっけ?」

 わたしに聞くか?

「『火垂るの墓』とか『少年H』……」
「『ノルウェイの森』も、たしか神戸が絡んでたよね」

 お母さんは、動物園のある種の動物(どんな動物かは想像して下さい。はっきり書くと母子の縁を切られそうなので)のように、狭いリビングを歩き出した。

「オーシ、これでいくぞ!」

 スランプのお母さんは、図書館に出撃した。
 
 メデタシ、メデタシ……。

 これでわたしの長いタクラミは、アリバイのめでたい成立に、お母さんのスランプからの脱出(本人がその気になったので)というオマケまで付いて、タキさんからの借金だけを残し、『はるかの生傷だらけの成長』というタイトルを付けて終わり!

 というはずだった……。

 でも、これは、これから秋一杯かけての『ヘビーローテーション』の始まりでもあった。

 

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第17章』より

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