goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・63「思い出のサンフランシスコ・1」

2020-03-08 06:24:17 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)63

『思い出のサンフランシスコ・1』   



 クチュン!

 千歳がかわいいクシャミをしたのは、空港からのシャトルバスを下りてジェファソンホテルに向かう途中やった。

「ごめんね千歳」

 ミリーがアメリカ人を代表するように謝る。
「ううん、初めて来たんだから仕方ないわよ」
 そう言って千歳は首に巻いたカットソーを締め直した。
「えと、この坂を上るんだよ……」
 須磨先輩がスマホのナビを見ながら当たりを付ける。
「オーマイゴッド!」
 ミリーが英語で驚く、ミリーの英語は新鮮や。

 俺らは無言やったけど驚いてないわけやない。驚きすぎて声が出えへん。

 ハワイの次にサンフランシスコに来てる。
 特に決めていたわけやないけど、四人でそれぞれスマホに入力したら決まってしもた。

 認識不足が二つあった。

 夏やと言うのにサンフランシスコは暑くない。というか寒い。
 四人とも予備のTシャツやらカットソーを取り出して重ね着したり、千歳みたいに首に巻いたり。
 ネイティブアメリカンのミリーは責任感じて小さくなってる。
 ネイティブいうてもミリーはシカゴ。千キロ以上離れた行ったこともないサンフランシスコのことに詳しなくても仕方ない。
 
 もう一つ困ったのが坂道。

 千歳はいつもの電動車いすとは違って、スペアの人力車いす。
 重量が嵩むのとバッテリーの心配から人力にしてる。
 それが、この坂道では介助で押すにしても大変そうや。
「交代で押して行こう、ワンブロックずつ交代したらいけると思う」
「すびばせ~ん、クチュン!」
「謝るなって、みんなで選んだコースなんだから」
 
 2ブロック行ったところでバテてしもた。

 空堀のあたりにも緩い坂道はあるけど、こことは比べ物になれへん。
 一筋横の通りには電車が走ってるけど、検索したらケーブルカーとあった。
 並の電車ではこの坂道は登られへんねやろなあ。

 途方に暮れてると後ろから声が掛かった。

 振り返ると……バスケットの選手かいうくらいごっつい黒人のニイチャンが二人いた。
「どこまで行くのかって……よかったら手助けするよって言ってる」
 ありがたい申し出やねんけど、通訳してるミリーの表情は硬い……むっちゃ硬い。

 ニイチャン二人の笑顔が、ものごっつい不気味に思われてきた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

坂の上のアリスー13ー『天使の聖度』

2020-03-08 06:19:03 | 不思議の国のアリス

坂の上のー13ー
『天使の聖度』   



 

「あ」と「そ」では全然違う。

 あやうく「あなた」と言うところを「そなた」で踏みとどまった。
 わたしは聖天使ガブリエル。たとえ、わたしの危機を救ったとはいえ天界の者でない男を「あなた」とは呼べない。
 現世(うつしよ)の仮寝の肉体であるすみれの身長は159センチでしかない。170センチの亮介に誓約の口づけをするのには、思いっきりの背伸びをしなければならなかった。

 肉体と心とは結びついている。

 だから、背伸びの口づけは、なんともメルヘンチックな乙女の所業で、仮寝の肉体を時めかせてしまう、愛おしくさせてしまう。
 でも、わたしは聖天使ガブリエル。あるべき天上の世界に戻るためには亮介を眷属にしなければならない。

 そこで工夫した。

 聖天使の衣こそはまとったが、聖天使の徴(しるし)であるホーリーウィングはドンキの紛い物ですませた。
 口づけを終えて、投票場である小学校の校門を出る時も、わざとらしく門扉のレールで躓いておいた。
 そりゃ「ウギャ!」て声も出したし「ウグググググ……」とも唸ったけど、それは人の目を欺くためよ!
 そんなことも分からないなんて、フン、読者のあなたって修行が足りないわよ。
 え、こけた拍子にパンツが見えた!?
 そ、それは、あなたがゲスだからよ! ゲスな心には、ゲスな幻が見えるもなのよ! 錯覚だけどね! 錯覚よ! 錯覚!

 我こそは聖天使ガブリエルなのだからな! 

 綾香が消しゴムのカスを器用にまとめている。
 新垣綾香は美少女だ。美少女のわたしが言うんだから間違いはない。

 ただ、面と向かって本人に言ったことは無い。言えば「わたしの方が上よという優越感のこもった賛辞はよしてちょうだい」と反応するに決まっているから。わたしが、そんな言い方をするわけはないんだけど、綾香という子は、そこまで心がね……でも、いずれは霊的にも、我が眷属に相応しい高みに至るはず。それを楽しみにして言わずにいる。
 見た目が美少女なだけではなく、綾香は気立てもお行儀もいい。テストの時間中に出た消しゴムのカスも、きちんとまとめてゴミ箱に捨てる。
 その綾香が、ゴミ箱から席に戻って来たのを見計らって声を掛ける。
「綾香、また付いてきてくれないかな」
「お、聖地巡礼ね」
 呑み込みも早い。
 
 聖天使ガブリエルの聖度を維持するために、わたしは聖アイテムが必要。不定期に買いに行く。

 転校するまでは東京に住んでいたので自分一人で行っていた。
 でも、いまの家からは遠いため、現世の両親が許してくれない。だから綾香に付き添いを頼んだのよ。綾香にもいい修業になるだろうしね。



 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺・34《覚悟はできていますか!?》

2020-03-08 05:52:45 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・34(さくら編)
《覚悟はできていますか!?》   



 

 次は映画の撮影だ。

 東京郊外の原っぱまで、事務所の車は走った。

「『蒼空のゼロ』って映画。主人公がゼロ戦に載って特攻に行くシーンだ。さくらはヒロインのクラスメートの女学生。飛行場で、飛び立つ主人公を見送るモブシーン。さくらはヒロインの横で涙しながら見送るだけ。一応台本もらったから、シーンのとこ読んどけ」

 ヒロイン役の、等々力あやめ(とどろき あやめ)の横だ。あたしは緊張して台本を読んだ。自分は台詞が無いので、人の台詞とト書きをきっちり読んだ。きっちり過ぎるほどに。

 ロケ現場は、R大学が手放した建設予定地。更地の半分に航空隊と滑走路のセット。ダミーのゼロ戦が三機停まっていた。ロケバスの前が、エキストラのメイクと衣装のコーナーになっている。
「ああ、君だねオノダプロのサクラさん。バスの中で衣装に着替えて。出てきたらメイク、簡単にね。言っとくけど、おもタンのプロモのナニで急遽出てもらうことになっただけだから。あんな感じで気持ち作って、見送るだけでいいから。あくまであやめちゃんの引き立て役。そこんとこよろしく」

「あなたがさくらさん? 実際お会いすると普通の女子高生なのにね。あのプロモはすごかったわ。よろしく」
 あやめさんが自分からあいさつにきて声まで掛けてくれた。

 大感激! がんばらなくちゃ!

 ロケバスの中でセーラー服のもんぺ姿になり、バスの前のテーブルを前にして座ると、ヘアーメイクのオネエサンが信じられない早さで三つ編みのお下げにし、メイクさんが三分ほどでファンデを塗って、眉を書き足していった。鏡の中には佐倉さくらではなく、ヒロインの級友Aが居た。あたしは池島潤子という名前を勝手に付けた。衣装の胸の縫い込みに、その名前が書いてあったから。

 最初は、出撃するゼロ戦を見送るシーンから。ダミーのゼロ戦はワイヤーでトラックに曳かれていく。あとでCG処理で、トラックとワイヤーは消すらしい。
 女学生のエキストラは三十人ほど。ちょっとショボイけど、これも合成で倍くらいの人数にするんだろう。
 ゼロ戦のパイロットは、安全を考えてスタントマンが載っている。
 ダミーのエンジンが動き、唸りを上げてプロペラが回り出した。

 だんだん見送りの気分になってきた。

 あたしは、惣一兄ちゃんが初めて護衛艦の乗り組みになり、見送りに行ったときのことを思い出した。『しらくも』って、チャッチイ護衛艦。南西諸島方面に行くので心配だった。中国と緊張状態になり始めたころだったから。中学生になったばかりのあたしは、惣一兄ちゃんが、このまま生きて帰らないんじゃないかと、胸に迫るものがあった。
「惣一兄ちゃ~ん!」
 涙流しながら、大声で叫んだのを思い出した。兄ちゃんは登舷礼で固い顔をしていたが、一瞬あたしの顔を見た。兄ちゃんも緊張し覚悟をしていた。その姿が頭に浮かんだ。むろん兄貴は無事にかえってきて、互いに、あの緊張感は笑い話になった。でも、あんなに兄妹の絆を感じたことは無かった。

「ヨーイ……スタート!」

 監督の声でゼロ戦が走り出す。あたしたちは千切れんばかりに手を振り、助監督の合図で、走るゼロ戦を追いかける。兄ちゃんの初出航と重なって涙がこぼれる。拭おうともせずに追いかける。主役のあやめさんも涙の笑顔で、あたしと抜きつ抜かれつになった。

 このシーンは、一発でOKになった。みんなあやめさんの演技に拍手した。あたしも拍手した。

 問題は、次のシーンで起こった。

 順序が逆なんだけど、パイロットたちがゼロ戦に乗り組む前に見送りの女学生の前を通るシーン。

 主役の猪田史郎が、他のパイロットたちと、あたしたちの前に迫ってきた。
――違う―― と、思った。
 これでは、せいぜいサッカーの練習試合が始まる程度だ。目の緊張、笑顔が偽物だった。

「……覚悟はできていますか?」

 思わず言ってしまった。一瞬芝居が停まってしまった。
 すると、猪田史郎の顔が強ばり、赤くなったかと思うと、こう言った。
「もちろん……潤ちゃん」
「坂井さん……!」
 あやめさんがアドリブをかます。猪田さんは、そのままの顔で、あやめさんの肩に手を置く。そして猪田さん演ずる坂井少尉は搭乗機へと駆け出した。

「カット!」

 監督の周りにスタッフが集まり、真剣な話し合いが始まった。
「すみません、へんなこと言っちゃって……」
 あたしはへこんだ。
「………」
 あやめさんは、返事もしないで監督たちの話し合いを見ていた。

 十分ほどして、監督が吾妻プロディユーサーを連れてやってきた。
「覚悟してくれ、君の出番を増やす」
「え……」

 あたしは、なんのことだか分からなかった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする