大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・129『大仙公園』

2020-03-05 15:19:42 | ノベル

せやさかい・129

『大仙公園』         

 

 

 

 一昨日の三日はヤマセンブルグと堺の二元中継でひな祭りをやった。

 

 テイ兄ちゃんが本堂と部室と境内の三か所にカメラを設置してくれて『ひな祭りの如来寺』を、ヤマセンブルグは頼子さんがカメラを持って、自分の部屋を中心に宮殿の中を中継のやり合いっこ。

 うちのお寺はともかく、宮殿は写したらあかんとこや、気いつけて撮らならあかんとこがあって、中継中もジョン・スミスとソフィアが付いてアシスタント……いうよりは監視役。

 途中、女王陛下がフレームに入ると言うハプニングもあったんやけど、機転を利かした女王様が『蛍の光』の原曲である『オールド・ラング・サイン』をジョン・スミスとソフィア入もれてトリオで聞かせてくれたのはラッキー。本堂のお婆ちゃんらも「いやあ『蛍の光』といっしょや!」と感激。いえいえ、元々はスコットランドの歌で、スコットランドに縁の深いヤマセンブルグでも歌われてと説明すると驚いてた。

「あれは『はよ終われ』いうサインやで」とお祖父ちゃん言われて、そそくさと終わる。

 でも、頼子さんが日本の、いや、堺の春を楽しみにしてるのはしっかり伝わったので、留美ちゃんと二人、カメラを持って、堺の春を訪ねることにした。むろん運転手はテイ兄ちゃん。

 

 まず訪れたんが『大仙公園』です。

 

 38ヘクタールの有料公園。有料と言ってもよく見ると日本庭園だけで、一般200円、中学生は100円というお手軽さ。

 ヘクタール言うのは1万平方メートル(縦横100メートル)と同じで小学校で言うたら100校分くらい。歴史公園百選の中にも入っていてる優れもん。

「ほな、三時に迎えに来るから」

 わたしらを下ろすと、テイ兄ちゃんはさっさと行ってしまう。

 檀家さんとこの月参りがあるからやけど、あきらかに頼子さんが居てる時と態度がちがう。

 ま、ええけど。

「うわー、広いんだ!」

 案内板を見て感動の留美ちゃん。

「留美ちゃんも初めて?」

「うん、遠足があったんだけど、風邪で休んでたから」

 詩(ことは)ちゃんの話では、堺の子ぉやったら、遠足とかでたいていは来たことがあるらしい。

 あたしは、去年の三月までは大阪市の子ぉやったから知らんのは当たり前やねんけど……ま、人間秘密があるほうが面白い。

「うわあ、三時までなんてまわり切れないよ!」

 たしかに38ヘクタールはとてつもない。スマホで調べてみると大阪城公園が105ヘクタール。その半分もないねんけど、平べったいとこにあるせいか広く感じる。

「大阪城って、お堀の面積がかなりあるし、普通行くのは大手門から本丸と西の丸くらいだからね、ここの方が広いかもしれない」

「あ、レンタサイクルがある」

 どうやら急いで回るには自転車に乗らならあかんくらい。

 元気な中学生は歩く!

「あれは給水塔?」

 木の間がくれに直方体の塔が見えてくる。

「図書館からでも見えてたよ」

 え? 隣接する中央図書館には何度か来てる(なんちゅうても文芸部ですよってに)ねんけど気ぃつけへんかった。

「あれは、平和の塔って言うんだよ」

 平和の塔と言われて、ちょっと違和感。なんや、広島とか長崎に相応しそうで、それに、どうにも棒状の建造物で感想の言いようもない。

「上から見ると三角形になってるんだよ、意味わかる?」

 留美ちゃんらしからぬ意地悪な質問。

「それはやね……堺市は財政が苦しかったさかいに四角形にする余裕があれへんかった、とか?」

 市長さんが聞いたら怒りそうな答えを言う。

「堺ってね、旧分国で言うと、摂津、河内、和泉の三加国に跨るんで、その三つの国に面してるって意味なんだよ」

「え、ほんま?」

「ほんまほんま、堺って言葉の語源も、三つの国の境からきてるんだよ」

「境にある街?」

「うん、あ、疑ってる?」

「あ、いえいえ……」

 ただの不勉強です。それにしても留美ちゃんは賢い!

「こりゃ、漫然と歩いちゃいそうだね……」

「せや、テーマを絞りこも!」

「あ、いいかも!」

 相談して、春の草花。

 盛りの花と、これから咲きそうな花を撮影する。

「まずは梅だね」

 梅はところどころで満開になってた。紅梅に白梅、桜よりも寿命が長いようで、今月の下旬までは見られるらしい。

「ほんなら、これからシーズンの桜を撮りまくろ!」

 不勉強なわたしでも、桜は何種類かあるのを知ってる。ソメイヨシノとか……ソメイヨシノとか?

「いいね、ちょっと調べてみる!」

 調べまくりの留美ちゃん。その結果……。

「51種類もあるよ、どうする?」

「さいですか」

「ふふ、サクラというのは奥が深そうね」

 

 けっきょく、ソメイヨシノとオオシマザクラと八重桜を確認。

 確認は札を見ただけね。花が咲いてない桜はどれ見ても区別がつきません。

 え? 留美ちゃんが言うた『サクラというのは奥が深い』て……ひょっとして、あたしのことも入ってるわけ?

 せやけど、聞かぬが花……やろね。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・60「夏休み編 イノウエ空港」

2020-03-05 06:30:45 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)60

『夏休み編 イノウエ空港』   




 で……どうしてアメリカに行くんだっけ?

 日付変更線を超えて、それがスイッチだったみたいに目を覚ましたお姉ちゃんが聞いてきた。

「え、分かってなかったの!?」
「だって、たった三日でパスポートとったりの準備に追われてさ、うっかり聞き逃しちゃって」
「もー、しっかりしてるようで抜けてるんだから」
「アハハ、で、どうして?」
「当たったからよ、懸賞に」
「それは知ってるけど、なんの懸賞だっけ?」
「それは……」

 実は、ミリーから「アメリカ行きの懸賞に当たったから、みんなで行こう!」としか聞いていない。

 いろいろ説明は有ったと思うんだけど、みんな舞い上がってしまって、覚えていない。
 隣に座っているミリーに聞いてみる。
「言ったでしょ、部室棟のことで領事館に行ったら入館何人目かの交換留学生だったとかで、日本の友だちと一緒の……なんとかってのが当たったのよ」
「とゆーことよ」
「え、あ、うん……てか、」
 ミリーの説明も怪しい。
「はい、これに書いてある」
 ミリーが書類一式をドカッと差し出す。わたしは中継だけしてお姉ちゃんに渡す。
「……なるほど……ムルブライト奨学金のスカラ……」
 さすがは大人というか、仕事で慣れているというか、ブツブツと英語の書類を読んで納得したようだ。
「でさ、お姉ちゃんは、なんで付いて来てるの?」
「あ、ついでだったから」
「つ、ついで?」
 
 妹のことが心配で、つい照れ隠しに言ったんだろう……鼻の奥がツンとした。

「じゃね、途中で一緒になれるようなら顔出すから~」
 イノウエ空港に着いたかと思うと、入国ゲートでお姉ちゃんはサッサと行ってしまった。
 えと、イノウエ空港って分かるわよね?
 亡くなった日系上院議員のダニエル・K・イノウエさんにちなんで、何年か前に名前が変わったの。
 もとの名前はホノルル空港。

 わたしたちのアメリカ旅行の第一歩はハワイからのはじまりはじまり……。

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坂の上のアリスー10ー『純花のトマトジュース』

2020-03-05 06:22:05 | 不思議の国のアリス

坂の上のー10ー
『純花のトマトジュース』   


 


 中二病なんだ

 三叉路を過ぎたところで、綾香がポツリと言った。
 今日は期末テストの初日。昇降口でいっしょになったので、綾香とすぴかと三人で住宅街を通って帰ることにした。

 昨日と同じように使い魔の猫が現れ、すぴかは、また見はるかす一本道の信号を一瞬で赤に変え、三叉路で別れたろころだ。

「一本道の信号は、車がスピードを出し過ぎないように五分に一度一斉に赤になる。だからタイミングを合わせれば、だれでも魔法みたくできてしまう」
「なんだ、そうだったのか(^_^;)」
 俺は一年以上あの道を通っているけど、信号機のことは気づかずに素直に驚いていた。
「ハハハ、意外にお茶目なやつなんじゃないか」
「すぴかは大まじめよ、自分が魔法でやったと思ってる」
「そりゃ、ないだろ」
「あの顔つきはそうよ。ニイニだって思ったんでしょ?」
「んだけどよ……」

 信号マジックよりも大きな問題があったけど、あえて触れずに家に帰った。

「気持ち悪いなあ、二人そろって家に帰るなんて。まるで新婚さんみたいじゃん」
 角を曲がって家が見えてくると、綾香はプ-タれる。
「新婚だったら、嫁さんがエプロン姿でお出迎えなんじゃねーのか」
「プ!」
「なに吹いてんだよ!」
「それって平成通りこして昭和のパターンじゃん。ニイニってチョーオッサンなんだ」
「んなこたあねーよ!」
「ニイニに彼女出来たら、あたしから頼んであげるよ『亭主よりも早く帰って裸エプロンで出迎えてやって』って」
「なんで、裸エプロンにバージョンアップしてんだよ!」
「キモ! なに赤くなってんのさ!」

 で、ドアを開けると、綾香は全開になった。

「ちょ、なによ、この暑さア! 信じらんないですけど!」
 家のあれこれ、家事ってのがあるから、家に帰るのはいつも俺が先だ。いつもは綾香が帰ってきたころには空調が効いて快適温度になっている。
「エアコン点けろや。俺は今から昼飯作るからよ」
「じゃ、パスタね! 和風でなきゃなんでもいい、パスタソース残ってると思うから」
 エアコンと扇風機の起動音が同時にした。
「おい、裸になるんなら、自分の部屋へ行けよ!」
「汗ひいたらね。二階は陽に焼けて、なかなか涼しくなんないしい」
 キャミとパンツだけの姿になり、のけ反るように座ってマタグラに扇風機の風を当てている。
「ったく、ちったー女らしくしろ!」
 バスタオルを投げてやると「お、サンキュ」と言って、あろうことか、足の蟹ばさみでタオルを受け取りやがった。

「おい、これパスタソースじゃねーぞ!」

 寸胴にお湯が沸いたところでストックを確認。入っていたのはレトルトのスープだ。
「なんで確認しとかないのよ、もうパスタ食べる気マンマンになってるわよ!」
「おめーが間違えてたんだろがあ」
「なんとかしてよ!」
「塩コショウで辛抱しろ」
「やだ、ナポリタンがいい!」
「注文のレベル上げんじゃねえ!」
「だってえー! あ、そうだ!」
 綾香は、ほっちらかしのカバンからなにやら取り出すと放り投げてきた。
「あらよ!」
 蟹ばさみで受け取ると「ギョ-ギ悪い!」と逆襲される。
「すぴかのトマトジュースじゃねえか」
「発作起きた時のために持ってんの」

 で、トマトソースを作り、何年かぶりで兄妹で昼食をとったのだった。

 なんだか、とても懐かしい味がした……。


 

 ♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 


 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・31《プロモデビュー》

2020-03-05 06:07:53 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・31(さくら編)
《プロモデビュー》   

 

 


 降って湧いたとは、このことだ!

「プロモのモデルになって欲しいんだけど」
 オノダプロの吾妻という名刺を出しながら、そのオジサンが言った。まくさと恵里奈は、下の部屋で待ってくれている。
「今度、あたしたち『おもいろシャウト』って曲出すんだけどね、そのプロモに出て欲しいの。さっき駅前でオジサンとオネエサンがもめてたでしょ。それを吾妻さんが見てて、あの子いいねえってことになったの。で、見たら去年、学校で飛び降りようとした子(白石優奈)を助けた子じゃん。それで、同学のよしみで、あたしが声をかけに行ったというわけ」
「むろんメインは、鈴奈たち『おもいろタンポポ』だけど、カットバックで、君がシャウトしてるところを入れたいんだ。まあ、アクセントのカットバックなんだけどね」

「あの……なんで、なんの取り柄もないあたしが?」

「案外いないんだよ、普通そうな女子高生って。それが、さっきシャウトしてる姿見て、この子だって思ったんだ。あ、これ絵コンテ」
 見せてもらった絵コンテには『おもいろタンポポ』が、歌っているコマの間に『普通の女子高生のシャウト』というコマが、全部で8コマ入っていた。時間は0・5ずつ7回で、3・5秒だった。
 3・5秒とは言え、プロモ、動画サイトやテレビでも使われるかも知れない。
「あたし未成年だから、ここでお答えはできません」
「むろん、こちらから保護者の方には連絡して許可をいただくよ」
「学校の方は大丈夫。あたしたちがやってるんだから問題ないわよ」
「はあ……」
「ギャラは、あんまり出せないけど。手取り十万でどうだろ?」

 あたしは、この十万で決意してしまった!

 たった一日の撮影と、3・5秒という時間に騙された。
 二三時間あれば終わると思っていたけど、スタジオでの撮影は、まるまる一日かかった。

 緑色のセットだったので、背景とかはCGのはめ込みかと安心していたが……。
 衣装の制服に水はかけられるわ、送風機にあおられるわ、人工雪まみれになるわ、機関銃を撃って熱々の薬莢が顔に当たるわ、極めつけは宙づりにされ空中で回転するわ、もうバラエティーの罰ゲームを一日やったようなものだった。
 シャウトする言葉は「お・も・い・ろ・シャ・ウ・ト」この7文字をブツブツに百回ぐらいいろんなものにまみれながらやらされた。

 ……十万のギャラは、そんなに割がいいとは思わなくなっていた。

 全部のOKが出た後、ラッシュっていう撮ったまんまの映像を見せられた。
 我ながら、すごい形相。送風機にあおられたやつなんか、スカートが捲れ上がり目も当てられない。
 でもスタッフは真剣そのもの。
「この捲れ上がる寸前の0・5秒をどこで切るかだな……」
 むろんミセパン穿いてるとは言え、このシーンをなんどもくり返されるのにはまいった。

「どうもありがとうね」
 ラッシュの終わり頃に鈴奈がやってきて労をねぎらってくれた……でも、正直ボロボロになっていて、鈴奈が小悪魔に見えた。

「どうだ、さくらプロモの撮影は(n*´ω`*n)!?」
「さくら(^▽^)!?」
 お父さんとお母さんは、まるであたしがアイドルにでもなったような気でいた。

 十枚の福沢諭吉……諭吉が、こんなに愛おしく思えたことはなかった。

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