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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・073『ニャンコの名前』

2019-10-01 13:36:05 | ノベル
せやさかい・073
『ニャンコの名前』 

 

 

 ニャンコがうちの子になると決まって、部活はうちの家でやることになった。

 

 留美ちゃんも頼子さんもニャンコを引き取りたそうにしてたんやけど、家族のネコアレルギーとかででけへんくなった。

 あたしが預かることになって、うちに来たそうにしてたけど、いずれは飼い主に返さならあかんと思うと、言い出されへんかったんやね。ほかにも、ニャンコを見たらはしゃいでしもて迷惑かけるんちゃうやろかとか、気ぃもつこてたみたい。

「え、まだ名前つけてなかったの!?」

 ニャンコと再会するなり「名前は、なんて付けたの?」と、留美ちゃん。

「えと、まだ絞り切れてないさかい、とりあえず『ネコちゃん』やねんけど」

「それは、早く付けてあげなきゃ『ネコちゃん』で憶えてしまったら、変えられないよ」

「あ、そうですねえ」

 じつは困ってた。そやかて、名前つけるのは、めっちゃむつかしい。

 ゲームで、アバターとか作ったり、主人公に名前つけならあかんかったりするでしょ。そんなとき、なかなか名前決められへん人なんです。

 桜いう自分の名前もね、気に入ってはいるねんけど、小学四年のとき『男はつらいよ』のDVD観てて寅さんの妹が『桜』いうのにショック!

 倍賞千恵子さんの桜は、めっちゃ美人で可愛くて、お兄ちゃん思いで、人付き合いもうまくて、家事も仕事もチャッチャとこなして、歌もメゾソプラノのキレイな声で……憧れ持つのもおこがましいほどの女性。そんな桜に圧倒されてたら、お母さんが、こない言うた。

「お父さんと二人でね、この倍賞さんの桜みたいな女の子になったらいいなって、それで付けたんだよ」

 慰めになりませんやんか(-_-;)

 よけいに重たなる。お父さんは、家を出てったきりという点では寅さんに似てるけど。いやいやちゃう。寅さんは、ときたま帰って来るけど、お父さんは帰ってこーへん。

 むろん、お母さんは、寅さんになぞらえることで、娘に希望を持たせたかったんや。

 あんたは倍賞さんの桜みたいにええ子やねんで……とか。お父さんも、そのうち帰って来るとか……ね。

 そやけど、うちは、ただただ圧倒されてたんです。

 

 あ、そうそう、ニャンコの名前。

 

 けっきょく、頼子さん、留美ちゃん、それに、うちの家族が思いついた名前を一つ一つ呼んでみることにする。

 それでニャンコが反応したら、それに決めることにした。

 テイ兄ちゃんの案は最初から外しとく。なんせ『とら』とか『くま』とか、落語とちゃうっちゅーねん。

 

 たま  ミケ  ショコラ  ソラ  モモ  ココ  マル  ムギ  きなこ  りん  メイ  ナナ

 

 候補に挙がった五十ちょっとの名前で呼ぶんやけど、ニャンコはキョトンとしてる。

 ネコちゃん

 ミャー

 あかんあかん、ネコちゃんで憶えかけてる。

「もう、ネコちゃんでええんちゃうん」

「テイ兄ちゃん!」

 いつのまにか、うちの家族も集まってきて廊下から覗いてる。

「こんなん、どうや」

 お祖父ちゃんが、不肖の孫を押しのけて入ってきた。

 

 ダミア

 

 お祖父ちゃんが呼びかけると、ニャンコはチリンと鈴を鳴らして「ニャーー」と返事をした。

「どうやら、気に入ったようやなあ」

 なんかナッツみたいと思たけど、あたしも『ダミア』と呼んでみる。

 ニャー

 返事しただけやのうて、トテトテとあたしの膝元に歩いてきた。

 

 かくして、ネコちゃんの名前は『ダミア』と決まった。 

 

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真夏ダイアリー・26『時間よ止まれ!』

2019-10-01 07:04:49 | エッセー
真夏ダイアリー・26
『時間よ止まれ!』     




 それはサビの部分でおこった。

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー♪

 そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……なんとライトが落ちてきた!

 グワー!

 アイドルらしからぬ声を上げて、頭を抱えた……てっきり頭の上にライトが落ちてくる……と覚悟した。
 十秒……二十秒……何事もおこらない。
 おそるおそる目を開けると、ライトは空中で静止していた……だけじゃない。スタジオの全てがバグったように静止していた。知井子は、落ちてくるライトにいち早く反応し、椅子から転げ落ちる姿勢のまま固まり、萌と潤は気づかずに、「え?」という顔のまま。その視線の先にはADさん達が落ちてくるライトに気づき、みなライトの方角を見ていた。吉岡さんは、反射神経がよく、わたしたちを助けようとして、フライングした姿勢。
 ディレクターは「危ない!」の「ぶ」の口をして、唾が五十センチほどのところで、壊れたスプレーからふきだしたように、止まっていた。

「やっぱり、キミの力は本物だ」

 スタジオにだれかが入ってきた。
「……だれ!?」
「おどかして、すまん。わたしだよ、真夏さん」
 その人は、明かりの中に入ってきた……。
「……省吾のお父さん」
「最後に、もう一度、真夏さんの力を試すことを条件にしてもらったんだ」
「条件……わたしの力?」
「キミは、時間を止めたんだよ」
「わたしが……?」
 わたしは、世界中が静止してしまった中で、省吾のお父さんと向き合っていることが苦痛で、心臓がバクバクしてきた。
「無理もない、こんなことが起こっちゃ混乱するよね……」
 お父さんは、手のひらをヒラリとさせた。頭が一瞬グラリとしたが、全ての情報がいっぺんに頭の中に入ってきた……。
「……歴史を変えるんですか……このわたしが?」
「そう、わたしたちの時代の人間が遡れるのは、この時代が限界なんだよ。省吾の能力が高いので、しばらくやらせてみたが、あの子だけじゃ無理なんだ。もうバグが出始めている」
「省吾が過年度生だっていうのは、作った情報なんですね」
「ああ、何度か過去とこの時代を行き来させているうちにずれてきてしまってね。それに、なにより……」

「……もう省吾は限界なんですね」

「無理をして過去に行かせているうちに歳をくってしまった。省吾の実年齢は二十歳だ」
「で、自覚もないんですよね、過去に行ってるって」
「そう、任務を与えられ、過去にいっている間は分かっているが、この時代に戻ってきたら記憶は消えている。だから、任務の経験が積み重ならず成果ががあがらない」
「……ばかりか、省吾に障害が出てくるんですね」
「ああ、行ったきり戻ってこられなくなるか、精神に障害が出てくる」
「で、わたしに、これを渡したんですね」
「ああ、真夏さんは使いこなしている。異母姉妹の潤さんにソックリにもなれるし、こうやって時間を止めることもできる。あのライトをもとにもどしてごらん」
「そんなこと……」
「できるよ、キミなら」
 
 わたしは――ライトよもどれ――と念じた。ライトは静かにもとに戻った。

「真夏さん。キミにやってもらっても、遡れる過去には限界がある。我々も研究はしているが、今のところ八十年が限界だ。その限界の中で何ができるか、分かり次第伝えるよ。他の情報は圧縮してキミの頭脳にダウンロードしておいた。ゆっくり解凍して理解してほしい。さあ、もう時間をもどした方がいい。二秒前を念じて、時間を動かしてくれるかい」
「はい……」

 時間が戻り、スタジオの喧噪が蘇った。

「真夏、なに上見てんの。イケメンの照明さんでも見つけたか?」
 MCのユニオシが振ってきた。
「あ、棚からぼた餅!」
「だよな、お前、アイドルになったの、ほんの一週間前の棚ぼただもんな」
「はい、ラッキーガールなんです。ラッキービーム! ビビビビ!」
 みんなにウケた。
「じゃ、ラッキービームで厄落とし。潤と漫才やれ!」
 ユニオシがムチャブリ。

 しかし、めげることなく。潤と漫才をやってのけ、今年も、あと一日となった……。
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宇宙戦艦三笠・17[クレアの役割]

2019-10-01 06:55:49 | 小説6
宇宙戦艦三笠・17
[クレアの役割] 


 
 
 宇宙戦艦三笠は4人で十分コントロールできるようになっている。

 艦長:東郷修一  副長兼航海長:秋野樟葉  砲術長:山本美奈穂  機関長:秋山昭利

 これで十分だった。そこにボイジャーから変態したクレアが加わった。アナライズの補助ということになっているが、三笠にはAIの立派なアナライザーが付いていて、クレアにはやることがない。

 で、クレアは、一見どうでもいいことをやりだした。

 艦内のあちこちに、小ぶりな一輪挿しを付けて、コスモスのような小さな花を活けたりした。
「あら、コスモス」
 樟葉が二日目に気づいて、それっきりで、なんの効果もないようだったが「あれクレアが活けてくれたの?」「はい……」それだけで、瞬間三笠の何かが温まった。
「あ、おれグリンピース食っちゃった!」
 夕食の肉じゃがに、わずかなグリンピースが入っていた。トシはグリンピースが苦手だ。だから三笠のアナライザーはメニューの中にグリンピースは入れなかった。クレアは、それに干渉してグリンピースを入れたのだ。クレアと目が合うと、クレアは方頬でいたずらっぽく笑った。

 トシは考えた……というより思い出した。

 トシは妹を亡くしてからグリンピースを食べなくなった。トシの母は、トシの食べるものにグリンピースを入れなくなった。
――よかったね、これで一つ克服できた――
 クレアの小さな声が、直接心に響いてきた。
――克服……そうだ。グリンピースは由美が好きだったんだ――

 妹が死んでから、トシはグリンピースを食べなくなったことを思い出した。

「0・2パーセクの座標に船の残骸。モニターに出すわね」
 樟葉がモニターに出した映像には、定遠の残骸が映し出されていた。テネシーの時とは違って、船の形を留めないほどに壊されている。
「生命反応は?」
「ない……」
「全滅か……?」
「いや、痕跡もないから、元々無人の船だったようね」
「もともとハリボテの復元だったからね」
 美奈穂が、無感動に言った。
「じゃ、記録だけして、先を急ごう」
 三笠のアナライザーは数秒で記憶し終えると、乗組員たちといっしょに定遠のことは忘れてしまった。三笠は絶えず前を向いている船なのだ。
「定遠から光子魚雷!」
 クレアが短く言った。
「え!?」
 樟葉の手が反応した。後部バリアーを張り、フレアーを放ち、船を面舵に切った。その間0・2秒である。

 艦尾の方で大きな衝撃があった。

 フレアーと艦尾のバリアーに光子魚雷が命中した。三笠自体には損傷はない。
「危ないところだった……」
「定遠の残骸をダミーにして、光子魚雷を仕込んでいたんです。シュトルフハーヘンの得意技です」
「クレア、よく知ってたわね」
「ボイジャーでいたころに、いろんなことを経験しましたから……」

 修一は、チョコレートのような香りがしているのに気付いた。調べてみるとコスモスの香りだった。コスモスはチョコレートのような香りを放つ。その香りには鎮静作用があることも分かった。クレアに目をやると、少しニコリとした。

 トシは気づいた。

 グリンピースが嫌いだったのは、妹が死んだのは親が新しくも身に合わない自転車を買ってやったから……トシは、意識の底で、妹が死んだのは、半分は親のせいだと思っていた。それを、いままで押し殺して、グリンピースが嫌いということで現していたことに気づいた。
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音に聞く高師浜のあだ波は・10『11月23日は何の日?』

2019-10-01 06:48:14 | ライトノベルベスト
 音に聞く高師浜のあだ波は・10
『11月23日は何の日?』      高師浜駅


 
 
 11月23日は勤労感謝の日……なんやけども、今年は違う。

 今年の11月23日はゲームの日なんです!

 全日本アミューズメント施設営業者協会連合会と日本アミューズメントマシン工業協会いうゲーセンの元締めみたいなところが決めたゲームの日。
 
  この日は、ゲーセンではいろんなイベントやら特典があるらしい。

 この情報は、二年の三バカ(足立・鈴木・滝川の三人)を叱ってくれた立花さんが教えてくれたもの。
 お父さんがゲーム会社の重役さんなので、立花さんはいろいろと詳しい。

 で、あたしは一人で駅前のゲーセンに足を運んだ。

 ほんまは、スミレヒメノホッチの三人で来たかったんやけど、すみれは弓道部の試合、姫乃は家の用事でアウト。
 早く済んだら行くね、とは言うてくれてるけど、当てにはせえへん。
 当てにしてて、来えへんかったら寂しさ倍増やもんね。

 なるほどね~

 ゲーセンは、いつもの二割増しくらいの人出。
 フリ-プレイになってるリズムゲームやら電車でゴーは人だかり。
 あたしは、人だかりのフリーゲームを尻目にクレーンゲームへ。
 四つあるクレーンゲームはいつもの通りなんで、人だかりはしてない。けども、これが本日の目玉……と、教えてもろた。

 ドキンちゃんをとる!

 そう決めてた。
 
 子どものころに家族でゲーセンに来て、クレーンゲームで『アンパンマン』のぬいぐるみをコンプリートしかけたことがある。
 月に一回しか合われへんお父さんが頑張ってくれて、メロンパンナちゃんとドキンちゃん以外はゲットした。
「また、今度獲ってやるわ」
 お父さんは、そない言うてくれたけど、あれ以来お父さんには会われへん。そやから、今日はメロンパンナちゃんとドキンちゃんを狙う。

 百円入れて、ゴーアヘッド!

 子どものころチャレンジした時は二百円やった。百円になったのはゲームの日やからではなくて、アンパンマンの人気が衰えてきたからみたい。わずか十六年の人生やけど、やっぱり時の流れを感じる。
 目指す二つのキャラは数が少ない。アンパンマンやらバイキンマンの間に埋もれてる。
――ま、ええわ。あのぬいぐるみは失くしたから、また獲っとこか――
 メロンパンナちゃんに覆いかぶさってるアンパンマンを獲りにかかる。

 あっさりゲット!

 よう分からへんけど、獲りやすなってる。やっぱりゲームの日やからか?
 さらに百円玉ぶちこんでバイキンマン……これもゲット!
 次にメロンパンナちゃん……と思たら、食パンマンが邪魔をしてる。

 オーシ!

 腕まくりして百円玉を投入!
 持ち上げたところでグラっときたけど、ソロ~っとやって、これもゲット!
 思わずガッツポーズ!

 さて、いよいよメロンパンナちゃん。

 ……クッソー!

 うまいこといかへん。
 三百円使たけど空振り。まあ、あたしの腕で初戦三つゲットしただけでも上出来なんやけども。
 やっぱりゲットしたい!

 …………グッソー!!

 四回目、パチンコ屋でパチンコ台のガラス叩いてるオッサンの気持ちが分かる。
「苦労してんな~」
 真後ろで声がしたんで、ビックリした!
「あ、滝川のニイチャン!?」
 学校では聞いたことがないようなフランクな声に戸惑う。
「狙てんのはメロンパンナか?」
「あ、え、うん。それとドキンちゃん……かな?」
「よし、ちょっと代われ」
 有無を言わさず、あたしのポジションに着く。
「見とれよ…………」
 滝川のニイチャンは、めっちゃ神妙な顔になってクレーンを操作した。
 途中クレーンを止めると、筐体の横に回ってチェック。そして、一気呵成にクレーンを下ろす。

「「ゲットォーーーー!」」

「よし、次はドキンちゃん!」
 滝川のニイチャンは、百円を投入しようとした。
「あ、ちょっと待って!」
「え、どないしたんや?」
「ドキンちゃんはええわ」
「なんで? 今やったら獲れるで」
「ありがとう、今日は……あ、姫乃!」
 入り口に姫乃の姿が見えたんで手を振る。
「ごめん、遅くなって!」
「ううん、かめへんよ」
「ホッチ、ひとり?」
「あ、そやったんやけど……」
 横を向くと、滝川のニイチャンの姿が無かった。

 あいつは姫乃に気ぃあったはずやのに?

 それから、姫乃と隣のクレーンゲームで遊ぶ。チョコやらお菓子やらをいっぱいゲット、すみれへのお土産にした。
 
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高安女子高生物語・104〔The Summer Vacation・7〕

2019-10-01 06:39:06 | ノベル2
高安女子高生物語・104
〔The Summer Vacation・7〕                   
  

 
 恵美須町の地上に出たらえらいことになってた!

 電気屋のオッチャン、ネーチャン、オタク、メイドさんらが100人近く集まっての大歓迎。
『歓迎MNB47 佐藤明日香さん!』『日本橋のアイドル白石佳代子!』なんかのノボリやボードが生い茂った夏草みたいに林立。

 近頃難波やら心斎橋あたりに持っていかれたお客さんらに、返せ戻せの百姓一揆か、伊勢のお蔭参りの勢い。
 人波の中にカヨさん見つけて、カヨさんの家に行くのを予定変更、百姓一揆のみなさんを引き連れ、十分に日本橋のロケーションを撮りながら難波のスタジオへ。途中百姓一揆のみなさんは、自分の店の前に来たら、カメラさんを強引に店の方にパンさせる。自分らも口々にお店のPR。せやけど100人余りが、てんでに好き勝手に言うさかい、全体としてのガヤの勢いしか伝われへん。
 カヨさんが、日本橋期待のアイドルやいうことがよう分かった。

「河内音頭のフリに手を加えます」

 スタジオに着いて、レッスンの準備ができると、夏木先生が宣言した。
「ディープなファンの方々からご指摘を受けました。河内音頭は『手踊り』と呼ばれる基本形と、『マメカチ』と呼ばれるリズミカルなものがあります。MNBは横方向の動きが目立つマメカチ系でしたけど、崩します。基本的なリズムだけ踏まえておけば、あとは各自の自由です。その自由と要所要所での統一感を出すレッスンをやります。テンポは基本の1・5倍でしたが、ラストは2倍にして、一気に盛り上げます。曲もニューミュージック風にアレンジしました。明日香は曲の練習ね。一時間で仕上げて」
 MNBはいつもこの調子。その時その時のお客さんの反応や、テレビの数字などで、イケルと思えるところはどんどん変えて、イマイチなとこはあっさり切られる。

 あたしはニューバージョンになった曲と歌詞を覚える。アレンジしたとは言え、基本は河内音頭なので、体を動かさなければ曲も歌詞も勢いが出ない。この一時間のレッスンはきつかった。もう途中で取材カメラが回っていることさえ忘れてしまった。
 OKが出ると、あたしはTシャツの裾を大きくパカパカ……しすぎてブラがカメラに映ってしまった。ラッシュで気が付いて「ここカット」ってディレクターは言っていたけど。あてにはなりません。

「すげーなあ!」

 テレビのディレクターが思わず言うくらい、うちらの休憩時間はすさまじい。
「はい、休憩!」
 その声がかかったとたん、うちらの女の子らしさはスイッチ切ったみたいに無くなってしまう。スポーツドリンクをオッサンみたいにがぶ飲みする子。バスタオルでTシャツまくり上げ汗を拭きまくる子。シャワー室へ駈け込んで、ダイレクトに体を冷やす子。二台のカメラは、そんな子らを追い掛け回して大忙し。
「うち、映してくださいよ。これ『MNB47 佐藤明日香の24時間』いうタイトルなんでしょ!?」

 で、思い出したディレクターが、急きょうちにインタビュー……言われても、急には言葉が出てけえへん。うちもたいがいや。

「車で言うとF1耐久レースですね。何百キロいうスピードで走りまくって、ピットインしてるのが今ですわ。うちら体は一つやけど、エモーションは何人前もあるんです。一遍には出しません。休憩のたんびに、ドライバーが入れ替わるように、新しいエモーション注入。え……教えられたこと……ちゃいますね。この二か月間で、うちら自身で自然に会得した心と体のローテーションですね。キザに言うたら青春の完全燃焼のさせ方です」

 我ながらうまいこと言葉が出てくる。そない言うてみんなを見ると、ただバテかけてるメンバーの姿が、いかにも美少女戦士束の間の休息に見えてくる。

 午後からは、河内音頭がバージョンアップした分、バランスをとるためにVACATIONも手直し。
 ヘゲヘゲになったとこで、市川ディレクターから嬉しい知らせ。

「ユニオシから予算が付いたんで、週末は三日かけて、プロモの撮り直し。ハワイで!」

 一瞬間があって、みんなから歓声があがった……!
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小悪魔マユの魔法日記・50『フェアリーテール・24』

2019-10-01 06:26:34 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・50
『フェアリーテール・24』   


 
 ライオンが口をきいた……!!

「キャー、ライオン!」
 ミファが驚いた。
「ウワー……!」
 ライオンも驚いて、叫び声をあげ、「く」の字の奥の方へ逃げていってしまった。
「大丈夫だって! この子たちは、キミを助けに来てくれたんだよー!」

「ほんと……?」
「ほんと」
「ほんとに、ほんと……?」
「ほんとに、ほんと……だってば!」
「ウワー……怒鳴らないでよ」

 ライオンは、おそるおそる「く」の字の角から顔を出した。

「わたし、このジョルジュの友だちのミファ……」
「わたしは……二人の友だちのマユ」

「……どうも、ボクは、ライオン」
「でも、なんだか元気のないライオンさんね」
「ど、どうも……ボク頭はいいんだけど、勇気が無くて」
「入り口に、あんな仕掛けしたのキミ?」
 ジョルジュが、あきれたように聞いた。
「ああ、奥の方に別の出口があってね、入り口を塞いで、侵入者が驚いているうちに逃げだそうと思って」
「そうとうの怖がりんぼね」
「サンチャゴじいちゃんのライオンとは、かなり違うみたいね」
「え、ボクの他にライオンがいるの?」
「あ、おじいちゃんの夢の中にね」
「うらやましいね、夢がみられるほど眠れて」
「眠れないの、ライオンさん?」
「うん、いろいろ心配やら、怖いことが、頭に浮かんでくるんだ」
「羊の数でも数えればいいのに」
「だめだよ。だって羊が怖いんだもん」
「なんで、こんなライオンさんに関わったの?」
 ミファが、腕組みをした。
「だって、最初に会ったときは、こんなじゃなかったんだもん」
「あのときは、ハングライダーで降りてきたばかりで、テンションが高かったから」
「ハングライダーでやって来たの?」
「うん、たたんで奥の方に隠してある」
「……で、どういうわけでここに来たの?」
 
 マユが、肝心なことを聞いた。

「レミが、ここへ来るように教えてくれたんだ」
「レミが……?」
 マユは悪い予感がした。そもそもレミは、このファンタジーの世界のゴタゴタにマユを巻き込んだ張本人だ。
「レミが、ここに来れば、助けてくれる魔法使いがいるって」
「魔法使いって……」
「北の魔女のブリンダより優しくって、オズの魔法使い……ほど強くはないけど、力になってくれる女の魔法使いがいるって」
 ミファが、ゆっくりとマユの顔を見た。
「それって、ひょっとしてマユのことじゃない……?」
「いいかげんにしてよ。いま、サンチャゴじいちゃんの件かたづけたとこだよ。だいいち、わたしは魔法使いじゃないし」
「似たようなもんじゃない……」

 というわけで、今度は、ストローハットをかわいい飛行機にして空を飛んでいる。

 ライオンのハングライダーでは、二人は飛べないから。
 なんの用事かは、ライオンは言ってくれなかった。
「来てくれれば分かる」
 その一言で行く……ほど、マユは、お人好しではない。
「いいかげんに……」という言葉が口をついて、「してちょうだい!」という、残り半分の言葉が頭に浮かんだとたん、久々にカチューシャに頭を締めつけられたからなのだ。

 やがて、飛行機は黄色い道を見つけ、その道に沿って、低く飛んだ。
 そして、ポピー畑の真ん中で眠っている女の子を見つけた。

「どこかで、見たような……」
 そう思いながら、マユは、飛行機を、ポピー畑の側の黄色い道に着陸させた。
 飛行機を降りて、その眠っている子を見て気がついた……。


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