大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・41『わたしはブキッチョ』

2018-04-11 11:58:39 | 小説3

通学道中膝栗毛・41

『わたしはブキッチョ』       

 

 

 簡単に見えることほど難しい。

 

 この真理を三分かからずに実感した。

 プレステ3のコントローラーの修理、問題点は分かっている。

 R3・L3のグリグリの根元にある接点が鈍感になっているので、接点復活スプレーを噴霧すればいい。

 実際アラレちゃんことモナミがサラリとやってのけるのを見た。途中解説が入りながらだったけど、ほんの五分ほどで完了した。

 わたしは五分経っても裏ブタを外すところまでも行っていない。

――ああ、それ、手前のとこにフックが付いてるから、下の方をベコッて押えてやれば一発だよ――

 スマホで連絡を取ると、簡単な答えが返って来た。

「……う……やっぱ、外れてくれないよ~!」

――じゃ、実演するから、ちょっと見てて――

 カメラを固定すると、慣れた手つきでカチャカチャ、なんと三十秒余りで裏ブタを外してしまった。

「な、なるほど!」

 真似してやってみるが、なかなかできない。十分近くやって、なんとか裏ブタが外れる。スマホの画面の中でパチパチ拍手してくれるモナミ。わたしも久々の達成感。

――じゃ、バッテリーをそーっと……そうそう、ケーブルを切らないように……外せたら、まずお掃除ね――

 外観はきれいなコントローラーだけど、基板や本体の裏側には溜まっているものなんだ、ゴミってか垢ってかが。爪楊枝でコシコシ、綿棒でフキフキと作業に合わせたオノマトペを画面の中で口ずさむ、むろんモナミがね。わたしの額にははウッスラと汗が浮かんでくる。

――おーし、そいじゃR3とL3のグリグリを……そっと外して――

「う、うん」

 チラ見したスマホの画面にはアケミさんも、やっと首が正常に付いたようで拳を握って応援してくれている。

「取れた!」

――じゃ、接点復活スプレーを……かけ過ぎちゃダメだよ――

「う、うん」

 ブシュー!

「あ!?」

 思いのほかいっぱい出てしまい、ちょっとビチャビチャ。

「わ、どーしよう!?」

――ティッシュと綿棒で拭き取って――

「う、うん……」

 そして、元通りに組み立てるところでひと騒動。

 コントローラーのボタンはグリグリも含めて六つある。それが裏ブタを閉める時に、どれかが外れてしまい、キチンと収まらない。無理やりやると、R1とかL1とかが沈んだままになって押しても動かなくなる。

「む、むずい……」

――こういうのは慣れだから……R1とかはボタンの上にポッチがあって、ポッチを……――

 モナミは、その都度パーツを見せて実演してくれるんだけど、自分でやってみるとなかなかできない。

 何分たったんだろうか、額の汗が顎のにまで滴るようになってきて、もうアセアセになってくる。

「あ、目に……」

 目に汗が入ってきてプチパニック。

「じっとしていてください」

 優しい声が聞こえてきて、ハンカチで汗を拭いてくれる。

「ありが……え?」

 驚いて顔を上げるとアケミさんがメイド服で正座していて汗を拭いてくれている。でもって、手元のコントローラーが消えてなくなり、首を巡らせるとアラレちゃんファッションのモナミが、あっという間にコントローラーを組み立ててしまった。

「え、え、どうして?」

「もたもたしてっから来ちゃったのよ!」

「はい、お母様が招じ入れてくださいまして、さっきから栞さまの手元を見ておりましたのよ」

「え、あ、そうだったんだ💦」

 

 こんなに集中して物事に取り組んだのは初めてかも。

 ちょっと感動!

 コントローラーは無事に蘇った。

「えと、じゃ、帰るね」

 コントローラーの復活を確認すると「お茶でも」の声にも応えずに階段を下りていく。慌てて追いかけると、もう家の前に停めてあった車に乗り込むところだ。

「こちらこそありがとうございました、お嬢様が外に出るなんて、もうずいぶん久しぶりだったんです」

 ロボットとは思えない優しい笑顔でお礼を言うと運転席に収まるアケミさん。

 

 静かに車が発信し、夜空にはおぼろ月が優しく見下ろしておりました……。

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高校ライトノベル・フケモンGO・06・男のくせにネイサン

2018-04-11 06:45:16 | 小説5

高校ライトノベル・フケモンGO 06 
 男のくせにネイサン



 パイロットはブロンドのイケメンだ。

 画面のケージを指ではじけば捕獲できるんだけど、あたしはためらった。
 パイロットはしゃがみ込んで、なにやら自分のお腹を叩いている。それって変だよね?

 だから、あたしは捕獲しないで声を掛けた。
「なにしてるんですか?」
 あとで思えば、日本語が通じるのは不思議なんだけど、ま、あっさり通じた。
「え、あ、ああ、パラシュートのバックルが外れなくて……」
 こちらを見ることも無く、パイロットは返事だけして、相変わらずお腹のあたりのバックルを叩いている。彼の後ろには巨大な風船が萎んだようにパラシュートがウネウネしている。
「そのパラシュートで降りて来たんですか?」
「あ、うん……こいつが外れないんで身動きがとれなくてね」
「えと……よかったら手伝いましょうか?」
 いつものあたしだったら、こんな気楽に声を掛けられなかった。でも、そのパイロットが必死でバックルを外そうとしている姿がね……なんていうか、とても無心というか、遊びに熱中している無垢な子どもみたいで、ひょいと声かけちゃったんだよね。

「え……じゃ、頼もうかな」

 ちょっとビックリしたみたいだけど、パイロットは、あっさり向き直ってお腹のバックルを示した。
「えーーーと、ここを叩けばいいのね?」
 あたしは何をやらせても不器用なので自信なんかないんだけど、陽気すぎる真夏の日差しのせいか、自転車の鍵を開けて上げるくらいの気楽さでバックルを叩いた。

 カチャ

 クリアな音がして、バックルは一発で外れた。
「うそ……」
 あまりの鮮やかさに、そう呟いてしまった。
「すごいよ! 71年やってても絶対外れなかったんだぜ! きみは女神さまだ!」
「キャ!」
 パイロットは、かがんだ姿勢のままあたしにハグしてきた。
「ありがとう、これでカンザスに帰れるよ」
「あの、いま71年て言った?」
「え……あ、そうだ……71年もたってしまったんだ……」

 パイロットは立ち上がると、額に右の掌をあて、呆然とあたりを見渡した。

「一面の焼け野原だったのに……これは……俺は……たぶん死んでしまったんだろうなあ……」
 すると、パイロットの後ろで萎びていたパラシュートが、ゆっくりと消えて行った。
「あ、俺ネイサン・オウェン中尉。君の名前は?」
「あ、白瀬亜美。高校二年です」
「オウ、ハイスクールの二年生!? てことはseventeen!?」
「え、あ、そう」
「elevenくらいかと思った!」
「11歳!?」
「あ、それほどキュートだってことさ。17ってことはカンザスの妹と同い年だ」

 男のくせにネイサンというアメリカ人の幽霊と親しくなる予感がした……。

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