大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・フケモンGO・10・クラッときた

2018-04-15 06:24:44 | 小説・2

フケモンGO 10
 クラッときた


 オリンピックの開会式を見損ねた。

 この三日、風邪をこじらせて寝込んでしまったので仕方ない。

 だけど悔しい。

 もちろん、ユーチューブなんかで、いくらでも見ることはできるけど、やっぱライブでなきゃね。

 やっと熱が下がったので、身ぐるみ脱いでシャワーを浴びた。

 この暑い盛りに足掛け三日もお風呂に入っていなかった。17年間の人生で初めてのことだ。
 ボディーソープで洗うけど、いつものように泡立たない。三日分の汗と汚れなんだけど、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 プハー!

 風呂上り、コーラを飲んでオッサンみたいにプハる。
 風呂上り、それも三日ぶりになると、その感激に性別も年齢もないらしい。

 マスコミブースに銃痕!

 オリンピック記事の端っこの見出しが目についた。
 オリンピック会場のマスコミブースで銃が撃ち込まれたようだ。大丈夫なのかと心配になる。
 幸い、人がいない時間帯に撃ち込まれたようで、被害に遭った人はいないようだ。選手もそうだけど、取材しているマスコミ関係者も偉いと思う。銃のタマなんか撃たれたら、どこの誰に当たるか分からないもんね。

「今日は近場にしておこうか」

 部屋に戻ると芳子さんが、朝顔みたいな爽やかさで提案してきた。朝顔の健康さには逆らえない。
 スマホを持って角を二つ曲がる。
 いつもの道なら公園の前に出るんだけど、反対方向なので川沿いに出る。

――あ、(!)マーク!――

 いつもの(!)マークなんだけど、マークの肩の所に(・)が踊っている。こんなのは初めてだ。
 やがて見えてきたのは防空頭巾にモンペ姿のセーラー服だった。
 なんか、駆けている姿で、実際走っているんだけど、CGのハメ込みみたいに前には進まない。
――ああ、これは空襲の最中に逃げているんだ――
 フケモンGO慣れたあたしの感性は、素直にありのままを受け入れた。
 で、胸がサワサワしてきて、なんか声を掛けなきゃいけない気持ちになった。

「あ、ちょっと!」

 平凡だけど大きな声が出た。

「え……」

 女学生が振り返る。

 キューン!

 女学生のすぐ向こう、そのまま彼女が走っていたら、そこに達していたところで鋭く音がした。
 あたしが声を掛けなければ当たっていたと直感した。
 女学生の反応は、それまでフケモンGOで捕まえた人たちとは違っていた。
 声を掛けたあたしのことが分からないようだ。
 キョロキョロしているうちに消えてしまった。

「歴史が変わるかもしれないわ」

 いつのまにか後ろに現れた芳子さんが呟いた。
「あの子、この川岸で流れ弾に当たって死ぬところだったの……」
「……あたし、助けちゃったの?」
「そういうことね……あの子は生き延びて誰かと結婚するでしょうね」
「そうなんだ、よかった!」
 フケモンGOをやるようになって、初めて人の役に立ったと感動した。
「でも、本当なら生まれるはずがなかった子どもが生まれるわ。影響出るでしょうね……」
 そう言うと、芳子さんはスマホの中に戻っていった。

 その帰り道、クラッときた。

 その時は、暑さか、治りきらない風邪のせいかと思ったんだよね……。

コメント
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