大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・フケモンGO・09・痩せっぽちのライオン

2018-04-14 06:29:08 | 小説・2

フケモンGO 09
 痩せっぽちのライオン


 なに撮ってるの?

 いきなり声がしたんでびっくりした。

 声の主はお母さんだ。
「あ、ちょっとね、えと、夏休みの宿題!」
「ふーん、エアコン撮るのが宿題なの?」
「うん、家の中の家電を撮ってエッセー書けっての。ま、読書感想よりましだけどね」
 いい加減な返事をする。読書感想もちゃんとあるので困るかなあ……ま、いいや。お母さんは細かことなんか忘れちゃうもんね。

 夕べは暑かったので、スマホの中の住人たちが1/8のフィギュアサイズになって机の上で涼んでいた。気の毒なのでエアコンを写メってスマホの中に付けることにする。で、我が家で一番出力の大きいリビングのエアコンを写したわけ。

「快調だぜ」と、ネイサン。
「すまないね、気を使わせて」と、小暮中尉。
「充電をこまめにね、エアコン点けると電気食うから」と、誠女親分。
 
 そっか、スマホの中でも電気食うんだ。新発見。

 そして、今日もジャイアンツのキャップを被って外に出る。もう習慣になってきた。

 公園の前まで来ると、芳子さんが立っていた。
「あら、スマホから出てきちゃったの?」
「ネイサンたちがエアコン設置してんの」
「あ、暑いから出てきちゃったの?」
「ううん、家から出たばかりでスマホは、まだ冷えてる。ちょっとね……ね、アフリカの草原とか検索して取り込んでくれないかなあ」
「あ、うん、いいよ」
 スマホの中は退屈なんだ。心がけておかなきゃ……で、あたしはケニアのマサイマラ国立保護区をコピーしてファイルに取り込んだ。
「今日は、その(!)が踊ってるところに行って」
「あ、うん」
 主体性のないあたしは、指示されるままに移動する。

 横丁を曲がったところに居た……どういうわけかライオンが!?

「ギョエーーーーーーーーーー!!!!」

 我ながら色気のない悲鳴が出る。
――大丈夫、あのライオンは大人しいし、ヤセッポチだから――
 なるほど、ライオンは立っているのがやっとという感じ。でも、その目は穏やかだ。
――ケージをキックして捕獲して――
 あたしは、ケージを指ではじいてライオンを捕獲した。
「あ、アフリカの草原で、寝そべってる」
 捕獲したライオンは三越デパートの玄関のブロンズみたいなポーズでくつろいでいる。
――草原に戻れてホッとしてるのよ。落ち着いたら食事になるでしょ――
「狩に出るの?」
――ううん、武雄は餌をとらないわ――
「へんなライオン……武雄って、名前があるの?」
――うん、あの子はずっと動物園に居た子だから――
「逃げてきたの!?」
――武雄はね……終戦のちょっと前に、動物園で殺されたの――
「え、なんで?」
――空襲で檻が壊れて逃げ出さないように……それに、もう動物にやる餌が無くなってきたからね――

 そうか……だから、武雄はあんなに痩せてたんだ。

 スマホを見ると、草原の向こうからトラックがやってきて武雄に餌を食べさせるところだった……。

コメント
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