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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・009『言語学の授業』

2023-09-30 13:06:31 | カントリーロード

くもやかし物語・2

009『言語学の授業』 

 

 

 初めに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神であった。

 

 言語学の先生が言った。

 聖書の最初に書いてある言葉らしい。聖書というからキリスト教なんだ。

 わたしはクリスチャンじゃないから、きちんとは分からない。

 でも、それは「言葉と云うのは大切なんだよ」という意味なんだろう。

「ちょっと意味が分かりません」

 ルームメイトのネルが大胆なことを言う(^_^;)。

「はい、どんな風にわからないんですか、コーネリア・アサニエル?」

「わたしはエルフです。エルフはたいていシンパシーでコミニケーションをはかります。だから初めに言葉ありきにはなりません。言うなれば――伝えたい――というパッションではないかと思います」

 そう言うと、クラスの何人かは――そうだね――という顔をした。

 宗教染みた話は、民族とか国とかでいろいろアツレキとかがあるからね、簡単には踏み込めないよ。

「そうね、でも、考えてみて。シンパシーで通じた後はどうかしら?」

「後というと?」

「『お元気?』とか『どこへ行くの?』とか『お腹空いたぁ』とか、情報やら気持ちを伝えるでしょ、それって言葉、シンパシーにしても言葉に置き換えて理解、あるいは、次のコミニケーションに入らない?」

「え、あ……そうですね」

「人間は、感情を整理するにも、何かを伝えるにしろ言葉に寄らなければできないんですねえ」

「あ、分かりました」

 完全には腑に落ちてないみたいなんだけど、そう返事する。

 まあ、もっと先を聞いてみないとね。ちょっと早まって質問してしまったという気持ちもあるみたい。

 

「バベルの塔というのを知っていますか?」

 

 わたしを含めて、みんなイエスと応える。

「天にも届こうかという塔を作ったんで、神さまが『こんな神をも畏れぬ塔を作ってしまって、神としては気分が悪い。よし、これは人間がみんな同じ言葉を喋っているからだ。これからは、人間の言葉をバラバラにしてやる!』と言いました。それ以来、バベルの塔も人間の言葉もバラバラになってしまいました」

 うんうん、頷く者が大半。聖書では有名な話なんだろう。

 えーと、でも、なんだかキリスト教の授業のようになってきた。

「しかし、言葉の中には神がバラバラにしたのにも関わらず、ほとんど同じ言葉が同じ意味で使われることがあるんです。言ってみれば神にも打ち勝った言葉ですね」

 え? え? なんだろ?

「臓器移植で、臓器を提供する人をなんといいますか?」

 ドナーです。

 何人かが口をそろえて、残りのみんなも頷いた。

「そうですね、日本語でお寺にお金や品物を寄付する信者を、どう言うでしょうか?」

 え、ええ?

 みんな分からない。だよね、日本の仏教なんて、世界的規模で言えば完ぺきに少数派だもんね。

「ヤクモ・コイズミ、分かりますか?」

 ヤバイ、フラれちゃった。

「えと……えと……」

 うちは浄土真宗なんだけど、ちょっと分からないよ。

「ハズバンドのことを、ちょっと古い日本語で言ったら? 今でも、ママ友同士の会話では使われているわよ『うちの○○ったら、昔はいい男だったんだけど』とか」

「あ、ああ、亭主? あ、ダンナとも言います!」

「そうダンナ、漢字では、こう書きます」

 旦那

 う、わたしより字がきれいかも(;'∀')

「店の主人なども、この旦那といいました」

 うんうん。

「で、元々は、お寺に寄付、つまり提供する人のことを旦那と言いました」

 ああ!

 みんな――分かった――というような顔をしている。

「元は、インドのサンスクリット語でお寺への提供者をダナーと言ったのが、3000年かけて地球を東西にグルーッと回って、それぞれドナーと旦那という原型を良くとどめた言葉として出会ったわけですね」

 なるほどぉ

「つまり、神さまがバラバラにしたのにも関わらず、籠められた精神の大きさ強さによっては、そのまま残ることもあるんです」

 そうかそうか

「言霊と言ってもいいでしょう、そういう言霊の強い言葉を繋いだものが呪文、あるいは魔法の詠唱になるというわけですが、それは魔法学のソフィー先生から教授してもらってください」

 なるほど、こうやって先生たちは連携しているんだ。

「コーネリアが言う通り、まずは、パッションです。そしてシンパシーによっても伝わりますが、言葉に寄らなければ肝心のところは伝わりません。まずは言葉から始めようということで、次にいきますよぉ」

 

 ちょっとだけ面白くなってきたかもしれない。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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やくもあやかし物語・2・008『先代ボビーの墓参り・2』

2023-09-24 14:13:56 | カントリーロード

くもやかし物語・2

008『先代ボビーの墓参り・2』 

 

 

 王室墓地はまるで小さな森だよ。

 

 王宮の敷地は山手線の内側よりも広い。

 でもね、国王が力に任せて広げたわけじゃないんだよ。

 宮殿の周囲は豊かな自然に恵まれていて、その自然を守るために王宮の敷地にしたんだよ。

 他の国なら国立公園とかにするんだけど、そうすると国立公園法とかの法律を作って、管理するためのお役所とか作って、とうぜんお役人の数も増えて大変。

 それで、百何十年か前に「じゃあ、ぜんぶ王宮の敷地ということにしよう」と王さまが言って今に至っている。

 王宮の敷地は一般の国民もお出入り自由なんだけど、ヤマセンブルグの国民は王室に敬意を払っていて、けして無茶なことはしない。

 無茶っていうのは、勝手に家を建てたり、木を切ったり、地面を掘り返して鉱物資源を取って行ったりしないということよ。

 でもね、木の実を取ったり薪を拾ったり、時期と場所を限って狩りをしたりはOK。

 

「難しい言葉で『慣習法』というんだ」

 

 墓地に向かいつつ、ソフィー先生が教えてくれる。

「かんしゅうほう?」

「ああ、法律には実定法と慣習法がある。実定法は議会で決める普通の法律だ。慣習法とは、昔からある習慣を法律と同じ効力があるとしてみんなで大切にする取り決めだ。例えば、商売の取引の慣習……これはむつかしいなあ」

「日の丸がそうだったじゃない?」

 王女さまが付け加えられる。

「そうそう、日本の日の丸は長い間国旗とは明記されてなかったんだ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ、日本人のほとんどが『あたりまえ』と思っていたんで、あえて法律では縛らなかった。でも『法律で定められていないものに敬礼なんかできるか』と、左翼が体制批判の道具にしたんでな、20世紀の終りに法律で国旗にしたんだ。それまで、日の丸を国旗たらしめていたのが慣習法だ」

「他にもあるわよ」

 詩さんが指を立てる。

「え、なんですか?」

「日本語」

「ええ?」

「法律で決めたわけじゃないのに、みんな日本語喋ってるでしょ? べつに国語法とかで縛ってないのによ」

「え、ああ……」

 ちょっと虚を突かれたっぽい。

「もともと、ここいらは農民が薪や木の身を取ったり、羊を放し飼いにしたりする共同の土地、日本の言葉では入会地というんだが、それが半分近く。動物や妖精の棲家とされる森が半分近く。残りの僅かが王宮の敷地だった。しかし、産業革命が起こって土地の所有権をはっきりさせようという風潮が出てきた。所有権をはっきりさせて持ち主が大農場を開いたり、石炭や鉱物資源を漁ったりする動きだ。それを防ぐために全てを王宮の敷地ということにして、乱開発されることから防いできたんだ」

「ちょうど、境目にうち(王室)の墓地もあったしね、王宮と墓地を結ぶ線から北側を、そういうことにしたの……ということで、ここからが墓地の聖域。いちおう、お祈りしてから入るわね」

「お祈りって、どんな……」

「十秒ほど頭を下げてくれるだけでいいから」

 王女さまが先頭で頭を下げる。

 墓地の森の前、ご先祖と精霊に敬意をはらってる感じで、ちょっと清々しい。

 チラ見すると、子犬のボビーまで大人しく俯いて可愛かった(^_^;)。

 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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やくもあやかし物語・2・007『先代ボビーの墓参り・1』

2023-09-17 10:11:19 | カントリーロード

くもやかし物語・2

007『先代ボビーの墓参り・1』 

 

 

 ネルが入って、うちの女子は8人になった。

 あ、聴講生の詩(ことは)さんを入れると9人ね。

 

 マシになったとはいえ、もともとコミュ障のわたしは全員とは仲良くなれていない。

 

 ちなみに、女子のクラスメートは以下の通り。

 アーデルハイド・クロイセン   みんなからハイジと呼ばれてる活発な子。

 アイン・シュタインベルグ    アインシュタインとは関係ないらしいけど、頭は良さそう。

 アンナ・ハーマスティン     どんな? そんな? あんな? まだよく分からない。

 オリビア・トンプソン      良家のお嬢さん まだよく分からない

 コーネリア・ナサニエル     ネル ノッポのルームメイト エルフ  気が合いそう

 ベラ・グリフィス        天文台みたいな苗字  まだよく分からない

 ヤクモ・コイズミ        わたし

 ロージー・エドワーズ      バラみたいな名前  まだよく分からない

 

「ねえ、ボビーを見に行きません?」

 

 言語学の授業が終わるとオリビアが声をかけてきた。

 クラス一番の美人でお嬢のオリビアに声を掛けられて、ちょっとドギマギ。

「お、いくいく!」

 わたしが返事する前にネルが割り込んできて、これにハイジが加わって四人で見に行くことになる。

 言語学のあとはランチなので、いつもより早く食べて、ボビーの住家である衛兵詰所に向かう。

 前にも言ったけど、学校は王宮の敷地の中にある。

 宮殿と『王室管理』の札が掛かっていないところ、それから、森の奥と夜のヤマセン湖は立ち入り禁止。

 

 衛兵詰所は、王宮正門脇の石造り。

 

「ちょっと入りにくいね」

 鉄砲持った兵隊さんが等身大のフィギュアみたいに立っている。

「裏に周ってみましょう」

 オリビアの意見で裏に周ると、ちょうどソフィー先生がボビーを引き連れて出てくるところだった。

「なんだ、お前たち?」

「えと……」

「「「ボビーを見に来ました!」」」

 わたしが言い淀んでいると、三人が声を揃えて返事をする。

「そうか……ちょうどいい、これから先代ボビーの墓参りに行くところだ。ネルとオリビアは免許を持っていたな?」

「「ハイ」」

「お前たちは、向こうのカートに乗って付いてこい」

「「「「ハイ!」」」」

 ウィーーン

 あれ?

 ソフィー先生のカートは回れ右して宮殿の方に進んで行く。

「いったん降りろ」

 宮殿の前に付いて、下りるように言われる。

「アテーンション!」

 いきなり号令を掛けられ、条件反射で気を付けする。

 

 え?

 

 なんと、宮殿の正面玄関から王女と聴講生の詩(ことは)さんが出てきた。

「あら、あなたたちも来てくれたんだ(^▽^)」

 満面の笑顔で喜んでくださる王女さま。

 詩さんは侍従さんに車いすを押してもらっていたんだけど、一言告げると侍従さんは、こちらに会釈して行ってしまった。

 これは、代わりにお世話しろということだ。

 ちょっと緊張して詩さんの方に足を向ける。

「「あ、大丈夫よ」」

 王女と詩さんもハモって、みんなでクスクス笑う。

 控え目だったけど、ソフィー先生が笑うところを始めて見たよ。

 もう一台のカートにはリフトが付いていて、あっという間に準備が整う。

 

 ワン!

 

 ボビーが一声あげて、二台のカートはお墓参りに出発したよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        小泉やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

 

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やくもあやかし物語・2・006『ネルを起こして』

2023-09-09 16:27:15 | カントリーロード

くもやかし物語・2

006『ネルを起こして』 

 

 

 目覚ましが鳴る前に起きる。そして、すぐにアラームを解除する。

 

 とっくに起きてるのに『こら、ねぼすけ! はやく起きろ!』って感じで目覚ましに急き立てられるのやだからね。

 ここに来て、まだ目覚ましのお世話になったことはないよ。鳴る前に起きる。

 でも、まんいちってことがあるから、必ずアラームはかけておく。

 解除してから――あ、早まったかな――とも思う。

 ルームメイトのネルはねぼすけ。彼女が来てから、毎朝わたしが起こしてる。

 もう日課と云うかルーチンというか、当たり前になりかけてるんだけどね、目覚ましで起きるというのもいいんじゃないかと思うよ。

 もう、いちいち起こしてなんかいられない。起こすの飽きたよ。だから目覚ましにしたよ。

 そういう方が友だち感が出るんじゃないかなあと思った。

 でも、切った目覚ましをもういっかいかけ直すというのも変だ。逆に意識しすぎてる。

 ああ( ̄Д ̄)

 目覚ましひとつで、これだけ優柔不断になるのは、わたしの方がまだ慣れてないんだよ。学校にもネルというルームメイトにも。

 

 シャーー

 

 窓のカーテンを開ける。

 続いて窓も開けようかと思ったら……見えてしまった!

 湖の岸ちかくの湖面でニンフたちが踊っているのを!

「見えた( ゚Д゚)!!」

 思わず叫んでしまった。

 ドテ!

「あ、ごめん(^_^;)」

 わたしの声にビックリして、それが、ちょうど寝返りをうったところだったので、そのままネルが床に落ちてしまった。

「……なによぉ、こんな朝っぱらからぁ」

「ごめん、でも、見えたんだよ。ニンフが踊ってるのが」

「ええ……?」

「こっちこっち、ほら、岸に近い水の上で踊ってる!」

「どれどれ……」

「ね!」

「ああ……あれは、朝日が波に反射してるだけだよ」

「え?」

「ほら」

 ネルは勢いよく窓を開けて――しっかり見てみろ――という感じで親指で指さした。

 

 アハハハ……

 

 そして、今朝の一時間目はヒギン……ソフィー先生の魔法概論。

 起立礼の挨拶が終わると、いきなり切り出してきた。

「じつはな、魔法は誰でもつかってる」

 ビックリすることを言う。

 クラスの中には初歩的、でも本格的な魔法を使える人もいて、そういう人たちは、それなりに苦労して魔法を憶えたので「誰でも」という言葉に、ちょっと反発の空気。

「例えば『立て』って言うと人は立つ。『こっちを見ろ』と言うと人はこっちを向く」

 なにを当たり前なことをという感じ。

「『立て』も『こっちを見ろ』も、言ってみれば呪文だ」

「でも、言葉と魔法はちがうのではないでしょうか? 言葉は誰でも発しますし」

 メイソン・ヒルという貴族めいた男の子が異を唱える。

「どうしてだ、意志を持って言葉を発し、人にその言葉通りの行動をおこさせる。同じだろう」

「まあ、そう括ってしまえば」

「しかし、先生」

 今度はオリビア・トンプソンという良家のお嬢さん風が手を上げる。

「なんだ、オリビア」

「魔法は誰にでもかけられますが、言葉は同じ言葉を使う人間の間でしか通じません」

「もっともだなオリビア。試してみよう……ボビー」

 先生が指を立てると、気配がして、教壇脇のロッカーの後ろから子犬が現れた。

「この犬に『立て』と命じてみてくれ」

「わたしがですか?」

「ああ」

「立て……立て、立ちなさい! スタンダップ!」

 アウ~~ン

 子犬はあくびするだけだ。

「アハハ、ダメですね」

「わたしがやろう……立て!」

 ワン

 子犬は後ろ足で立った。

「気を付け!」

 ワン

 子犬は人間みたいに前足を背中に回して顎を引いて気を付けの姿勢になった。

「休め!」

 おお!

 見事に休めの姿勢になった。

 パチパチパチ

 可愛いし、ビシッときまっているのでみんなが拍手した。

「お言葉ですが、先生、これは先生がしつけて訓練されたのでは?」

「多少はな……」

 先生、こんどは教室の窓を開けて、指でオイデオイデをする。

 ピピピ チチチ

 雀が二匹窓辺に停まった。

「気を付け!」

 ピピ

 なんと、雀が気を付けした!

「この雀とは面識がない。でも、この程度のことはできる。わたしの先祖は、この雀の目を借りて空から敵の様子を探るようなこともやった。もういいぞ」

 ピピ

 雀は、何事も無かったように飛んで行ってしまった。

「もう一度言う、言葉も魔法も人の意志が籠められている。そして条件が整わなければ、たとえ意思があっても動かせるものではない。そうだろ、言葉が通じるだけの同国人が公園のベンチに座っていて、いきなり片方が『立て』と言って立つものではない。ここが学校で、君たちが一定の敬意をもっているからこそ、授業の最初、起立礼という魔法が成り立ったというわけだ」

 ああ……なんとなく、70%ほど分かったような気がしてきた。

「ちょっと先に進み過ぎてしまった、ここからは民俗学的見地に戻って話をするぞ……」

 残りの30%には踏み込まずに、先生は普通っぽい授業に移っていった。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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やくもあやかし物語・2・005『ネルといっしょに』

2023-09-02 11:44:42 | カントリーロード

くもやかし物語・2

005『ネルといっしょに』 

 

 

 あ、ところで、なんで電話なんか置いてんのぉ?

 

 食堂からの帰り道、階段を上りながらネルが聞く。

 わたしの机の上には古い黒電話が置いてある。

 いまは通じなくなった交換手さんの黒電話。

 相手が普通の人間だったら「ただのディスプレーだよ」とか適当に言っとくんだけど、ネルはエルフだ。

 エルフってのは、そもそもファンタジーの住人だから、多少の不思議は分かるだろうと思って踊り場のところで立ち止まって話す。

「うちのご先祖に樺太の真岡ってとこで電話交換手をやっていた女の人がいたんだけどね……」

「カラフトのマカオ?」

「アハハ、マオカだよ(^_^;)」

 地名から説明しなくちゃならなかった。

 スマホで地図を出して、樺太がサハリンだというところから説明。

「え、昔は日本領だったんだ!」

 ネルは賢い子で、ざっと読んだだけで、樺太や北方領土の事情を理解してくれた。

「ふうん……ウクライナとかだけじゃなかったんだね、ロシアに領土取られたのは」

「それで、なんで、交換手の女の子は逃げなかったの?」

 交換手の女の人たちが最後まで逃げずに仕事して、最後は毒を呑んで死んだのは理解できないみたい。

 わたしも、うまく説明できなかったし。

 

「さわってもいいかい?」

 

 部屋に戻ると、さっそく黒電話の前に立った。

「あ、うん。なにも聞こえないけどね」

 すぐに受話器を上げるかと思ったら、ネルは、電話機の本体を愛しむように両手で挟んだ。

 お母さんが幼子の頬っぺたを触ってるみたいだ。

「この電話、まだ生きてるような気がするよ」

「え、そうなの?」

「うん、エルフはね、森の木を触ってね、こんな風に話をするんだよ。エルフは長生きだけど、森の木はもっと長生きだからね、いろんなことを話してくれる。この電話にも同じようなのを感じるよ」

「そ、そうなんだ」

「えい!」

「わ(#'〇'#)!」

 急に耳を引っ張られてビックリする。

「ヤクモも耳が伸びたら聞こえるかもぉ(^▽^)」

「も、もう、ネルったら(;`O´)o」

「アハハ、ねえ、探検に行こう!」

「え……でも、夕食後は就寝まで外に出ちゃいけないって……ほら、校則に載ってるよ」

 壁に貼ってある校則を指さす。

「それは学校の外って意味だろ、敷地の中なら構わないさ」

 

 構わないはずなのに、なぜ物置の窓から出るのかは聞かなかった(^_^;)。

 

 学校は王宮の敷地の中にあって、王宮の敷地は山手線の内側よりも広いらしい。

「王宮の敷地ってことで自然環境を護ってるんだ、いいアイデアだ……」

 敷地の半分近くを占めるヤマセン湖の岸辺で、一人ごちるネル。

「月が出ているのに霞んでるね」

「そうだな、この湖は面白いかもしれない……ん……森の中に何かいる」

「あ、ちょ……」

「走るな、気づかれる」

「と、言われてもぉ」

「ごめん」

 30センチは身長差があるので、とうぜん脚の長さも違う訳で、それに気づいたネルはゆっくりにしてくれる。

「ニュンペーだ、隠れるよ」

 ムギュ……押しつぶされそうになる。

「ごめん、力加減がむつかしい」

「ニュンペーって?」

「えと、ニンフのことだ……湖が、ここまで伸びてるんだな、無邪気に水浴びしてる」

「えと……見えないんだけど」

「ああ、ちょっとこっち向いて」

「ウ、なにすんの!」

 ヘッドロックされたかと思うと、右手で目をグリグリされる。

「ほれ、見てみ」

「わあ……きれいな子たちだねぇ」

「よかった、ヤクモは怖がらない子なんだ」

「あはは、以前はふつうに見えてたからね」

「そうか、そうだろうね……でも、ここの敷地は広い。悪い奴もいるかもしれないから深入りはしないようにしよう」

「そだね」

「ちょっと、待ってて」

「え?」

 深入りしないようにって言ったばかりなのに。

 

 ネルは、どんどん森の中に入っていくとニンフのセンターみたいな子と親し気に言葉を交わした。

 なにを話しているんだろう?

 ケラケラ笑って、ちょっと羨ましいかも。

 え、ネルがこっちを指さして、ヤバイ、みんなこっち向いたぁ!

 

 シューー

 

 風が吹くような音がしたかと思うと、ネルが戻ってきている。

「裸眼で見えるようになったら会いにおいでってさ」

「裸眼?」

「ほら、グリグリ。100回瞬きする間だけ妖精とかが見えるんだ」

「あ、そうなんだ」

 試しに森の奥を見ると、もうニンフたちは見えなかった。

「気になることを聞いたよ」

「え、なに?」

「実は……ヤバイ、誰か来る。こっちから逃げるよ!」

「ちょ、ネル!」

 

 どこをどう通ったのか分からないルートで部屋に戻る。

 お風呂に入ったら、あちこち蚊にかまれていたよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド

  

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やくもあやかし物語・2・004『ルームメイトはネル』

2023-08-27 14:22:59 | カントリーロード

くもやかし物語・2

004『ルームメイトはネル』 

 

 

 二人部屋を一人で使ってる。

 

 わたしのクラスは女子が7人なので、ハミゴのわたしは一人なんだと思っていた。

 でもね、今日からは二人なんだ。

 

「家の都合で入学式に間に合わなかった子が一人いるんだけど、ヤクモと同室になります」

「あ、はい」

 キャリバーン教頭先生の話にこっくり頷く。

「OK?」

「イエス、マム」

「……あのねぇ」

「はい、何でしょうか、先生」

「これは決定事項ではあるんだけども、疑問とか不安があったら、ちゃんと聞いた方がいいわよ。ヤクモ」

「はい」

「二人部屋を一人で使っているのはあなただけだから、ヤクモに言ったんだけど『理由はそれだけですか?』とか『同室になるのはどんな子ですか?』とか、思うところがあれば聞いた方がいいわよ」

「あ、はい」

「えと…………じゃ、いいわね」

「はい」

 

 教頭先生は――やれやれ――という感じで職員室の方へ行ってしまった。

 ちなみに職員室には『スタッフルーム』と看板が出てる。なんか、ファミレスの休憩室みたいでおかしい。

 校長室は『プレジデント』だよ、プレジデントって大統領のことだよ。むろん、校長や生徒会長のこともプレジデントっていうんだけど。先生たちはただのスタッフ。スタッフとプレジデント。やくも的には変なんだけど、きっと変な子だと思われるから聞かない。

 

 トントン

 

 ドアがノックされて「はい、どうぞ」と返事する。

 ドアが開いて、なぜか講師のソフィア先生に引率されて制服姿の女子が立っている。

「教頭先生から聞いていると思うが、今日から同室になるコーネリアだ。コーネリア、ルームメイトのヤクモ・コイズミだ。ヤクモ、よろしくな」

「はい、ヒギンズ先生」

「ソフィアでいい。苗字で呼ばれると今の百倍は口うるさい教師になりそうだからな。じゃあな」

「はい、先生」

 

 コツコツコツ……

 軍人らしい足音をさせながらヒギンズ……ソフィア先生は行ってしまった。

 

「コーネリア・ナサニエルよ、あらためて、よろしく」

「ヤクモ・コイズミです、よろしく」

「ああ、言葉とかはフランクにいこうよ」

「え、あ、うん」

 握手した手に感動して、ちょっと上の空。

 きれいな手だけど大きい。大きいのは手だけじゃなくて、身長も180くらいありそうでプレッシャー。

 それにね、ロングのプラチナブロンドに青い瞳。鼻筋もピシッと通っていて、すごい美人さん。

 でもね、近ごろは、たとえ誉め言葉でも人の容姿にアレコレ言うのは反則っぽいから言わない。

「ソフィア先生、苗字で呼ばれるの微妙に嫌がってたでしょ、なんでか分かる?」

「あ、えと……(声を潜めて)マイフェアレディーだから?」

「フフ、分かってるじゃない。ヒギンズ教授なんて、ジェンダー的には敵みたいなもんだからね……ベッドは、こっち使っていいのかなあ?」

「あ、うん。机もクローゼットもそっちかな」

「うん、ありがとう……ああ、くったびれたぁ~!」

 バフ!

 すごい音をさせて仰向けに寝転がるコーネリア。

 胸、おっきい……。

「ごめんね、長旅だったし、いろいろあったんで……ちょっとグロッキー」

「あ、晩ご飯までは時間があるから寝てていいよ。起こしてあげるから」

「うん、そうさせてもらおうかなあ……えい!」

 ガバっと起き上がると……え、服を脱ぎだした!

 下着一枚になると旅行鞄からジャージを取り出して着替える。

 めちゃくちゃプロポーションがいい! 

「じゃ、ちょっと寝かせてもらうね」

「うん」

 

 あ……また触った。

 

 ドアが開いてから三回耳を触ってる。

 耳にかかる髪が気になるのかと思ったけど、ひょっとしたら耳たぶに怪我したのが治りかけとか……いろいろあったんで……ちょっとグロッキー……とか言ってたし。

 

 ……晩ご飯の時間が迫ってきた……まだ、よく眠ってる。

 

 形のいい胸が上下して、ちょっと触ってみたくなる。

 おっと、女子同士でもセクハラになるし……クークーと寝息を立てて、ジャージじゃなくて、ちゃんと相応しい服を着ていたら、白雪姫か眠れる森の美女か。

 あ、また耳触った。

 わたしも触ってみようかなぁ。

 

 誘惑に負けて手を伸ばしたところで、起きる気配。

 慌てて自分の場所に戻ったよ(^_^;)。

 

「ちょっと遅れてしまったけど、この夕食からみんなの仲間になります。コーネリア・ナサニエル、ネルって呼んでくれると嬉しいかな。好きなものは日本のアニメ。部屋はヤクモと同室。日本の子なんで、アニメの話とかしたかったんだけど、長旅ですぐ寝ちゃって、それにガツガツ聞いてドン引きされてもアレなんで、またよろしくね、ヤクモ。むろん、みんなもね!」

 パチパチパチパチパチパチ

 みんなに祝福されて席につくネル。

 ネルって、よく寝るからネルなのかもしれない。

 あ、また耳触った。

 

 さあ、晩ご飯。

 

 みんなでお祈りをして、ヨーイドンって感じで食事が始まる。

 隣の席、刺激物大好きのアーデルハイドが盛大にペッパーミルをゴリゴリ。

「やだ、詰まったのかなあ」

 拳でトントンやるものだから、蓋が取れちゃって、粒のやら粉になったのやらのコショウが飛び散る。

「ちょ、ハイジ!」「アーデルハイド!」「またかよ!」

「ハーーックション!!」

 ネルがたまらずにでっかいクシャミ!

 

 ポヨン

 

 ええ!?

 

 クシャミをした拍子に、ネルの耳は「呪縛を解かれた!」って感じで伸びてしまった。

 

「あ、ああ……ごめんなさい、言いそびれていたけど、ネルはエルフだったりします」

 

 いっしゅん凍り付いたようになったけど、すぐにネルがテヘペロ(ノ≧ڡ≦)をカマシて暖かい拍手が起こったよ(^_^;)。

 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド

 

 

 

 

 

 

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やくもあやかし物語・2・003『入学式』

2023-08-18 11:07:18 | カントリーロード

くもやかし物語・2

(『やくもあやかし物語』続編『せやさかい』姉妹作品)

003『入学式』 

 

 

 部屋の窓から王宮が見える。

 

 見えると言っても、林を隔てて距離もありそうなんだけど、おっきいので近くにあるように思えるんだ。

 王宮の他には湖、ヤマセン湖、ヤマセンブルグは小さな国だけど宮殿も湖も大きい。

 それ以外には湖の向こうに山が見えるだけ。

 観察すれば、宮殿にも湖にも森や山々にも、おもしろい! とか、なんだろう? とかがいっぱいあるんだろうけど、今のわたしは、そんな余裕はないよ。

 到着して、すぐに自分の部屋を指示されて、ベッドの上に置いてあった真新しい制服に着替えて、時間まで待機。

 

『時間になったので、新入生諸君は講堂に集合してください』

 

「はい!」

 館内放送に返事してしまって、廊下に出る。

 廊下には、親切なRPGみたいに矢印が浮かんでいて、ていねいに80mと距離まで出ている。

 他のドアからも新入生たちが出てきてるんだけど、お喋りする者はいない。80mの下には――静かに――とアラームが付いているし。

 足音もしない……と思ったら、モスグリーンのカーペットが敷かれてる。来た時も通ってるはずなんだけど憶えてない。緊張してたんだよね。

 矢印は、階段を下りて一階の廊下を示し、一階はエンジのカーペット、天井は二階よりも高い。壁の所どころには油絵が掛けてあって、ランプは彫刻の妖精が捧げ持っている。

 外見もそうだったけど、学校は古い洋館。矢印が10mを示して講堂の入り口。5mのサインに変わって、ごっつい木製のドアが開く……自動ドアみたい。

 講堂は三階分の高さがあって、シャンデリアが六つもぶら下がってる。執事さんみたいなのとメイドさんみたいなのが両脇の柱ごとに並んでる。

 正面は30センチほどの壇になっていて、壇の上には国旗と校旗(たぶん)が並んで掛けられて、溢れんばかりの花を生けた花瓶が演壇の横に置かれている。

 座席には、それぞれ新入生の名前が浮かんでいて――Yakumo Koizumi――の席に着く。

 

「ただいまより、ヤマセンブルグ王立民俗学学校第一回入学式を挙行いたします。一同、起立!」

 

 メイド長みたいなおばさんが凛とした声で宣言。ザザっと一同が立つと、壇の奥のドアが開き、軍服の将軍みたいな人と、王女さまが入場してきた。

「ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代学校長、フィリップ・カーナボン卿ご登壇!」

「諸君、栄えあるヤマセンブルグ王立民俗学学校第一期生としての入学おめでとう。余がヤマセンブルグ王立民俗学学校初代校長のフィリップ・カーナボンである……」

 見かけ通りの硬い感じのおじいさん、たぶん名誉職なんだろうね、スピーチ眠たいし。

「次に、ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代総裁、プリンセス、ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン殿下のお言葉を賜ります、一同、アテーンショーーン!!」

 ビシ!!

「みなさん、ご入学おめでとう(^▽^)」

 パチパチパチとにこやかに拍手、すると校長や他のスタッフもそれに倣って拍手してくれて、やっと歓迎されているんだという感じになったよ。

「まずは座ってくださいな。このわたしとしては少し長い話をしますので、リラックスして聞いてください。あ、でも、足や腕を組むのは勘弁してくださいね。あそことあそことあそこと……他にもカメラがあって、わたしのお祖母ちゃんが見ていますので。コホン、では、お祖母ちゃん、いくわね……」

 チャーミングに、そして少し緊張した笑顔でスピーチされる。

 みんなに分かるように英語で話されてるんだけど、わたしには日本語のニュアンスで聞こえたよ。

 この春までは大阪のミッションスクールに通われていたし、それまでは、日本とヤマセンブルグとの二重国籍でいらっしゃった。それと、お人柄だと思う。せっかく縁があっていっしょになったんだから、お互い仲良く、でも、しっかり高め合っていきましょうという感じ。

「この校舎は78年間モスボールされていたものをリニューアルしたものです。その前身は王立魔法学校。イギリスの魔法学校に負けないくらい歴史と伝統のある魔法学校でした。わたしたちは、魔法や魔術も含めての民俗学、人の行いの全てが民俗学の対象だと考えています。むろん、適性や本人の希望や事情があります。このヤマセンブルグの風土と伝統が、みなさんの、そして世界の人々の相互理解、そして発展と平和に繋がればと願ってやみません。えと……以上です。キャリバーン教頭、次は教職員の紹介……わたしがやってもいいですか? 足りないところが合ったら補足していただくということで」

「はい、お任せします、殿下」

「ありがとう、それでは……」

 王女は、スピーチで湧いた暖かさのまま先生たちを紹介。

 みんな個性豊かな先生たちなんだけど、特に、若い陸軍中尉さんが目に留まった。

 

 ソフィア・ヒギンズ

 

 ほんの十日前に講師の辞令をもらったばかりで、人を教えるのは初めてらしい。

 でも、家は代々の王室付き魔法使いの家系だとか。

 年齢は分からないけど、二十歳前後かな?

 キビキビした軍人さんなんだけど、どこか同類という気がした。

 そして、もう一人。

 

 酒井 詩(さかい ことは)さん。

 

 この人は車いすの聴講生。

 大阪からやってきた留学生なんだけど、王女さまのご学友でもあり、女王陛下にも仕えておられるとか。

 二人とも、ぜんぜんタイプは違うんだけど、広い意味で同類さん。

 こんな風に人に興味が持てるのは、わたし的にはすごい事なんだよ。

 今までは、人間じゃないものたちとの付き合いばかりだったからね。

 

 むろん、生徒の中にも面白い人やら、すごい人やらがいっぱい。

 それは、ボチボチとね。

 

 ちょっと遅れたけど、わたしの、わたし的には高校生活が始まったよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生

 

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やくもあやかし物語・2・002『やくもの旅立ち』

2023-08-11 10:27:44 | カントリーロード

くもやかし物語・2(『やくもあやかし物語』続編『せやさかい』姉妹作品)

002『やくもの旅立ち』 

 

 

 

 流行り病は世界中の予定を狂わせてしまった。

 

 わたしもヤマセンブルグの王立民俗学学校に入ることになっていたんだけど、入学は夏の盛りになってしまった。

「かえって、やきもきさせてしまったね。申し訳ない」

 この春に、よその中学の校長になった教頭先生は、わざわざ羽田まで見送りに来てくださった。

「わざわざのお見送り、ありがとうございます(-_-;)」

 付き添いのお母さんはペコペコお化けになってしまった。

「いえいえ、ヤマセンブルグを紹介したのはわたしですから、見送りは当然です。王立学校ですからなにも心配することはありません。ちゃんと高卒の資格もとれますし、そのまま進めば大卒にもなれます」

「はい、奨学金もお手配いただいて、ほんとうにお礼の申し上げようもありません」

「将来は、日本とヤマセンブルグの懸け橋になるような人材に……というのが大きな狙いだそうですが、まあ、お国柄からいってもノビノビ過ごせると思いますよ。総裁はヨリコ王女殿下、日本人とのハーフで、高校までは日本で過ごされました。やくもさん、しっかり勉強もしなきゃならないでしょうが、しっかり楽しんでもください。楽しければ身につくことも二倍三倍になりますよ」

「はい!」

 

 お母さんのヤキモキと教頭先生のウキウキに見送られて、ロンドン経由ヤマセンブルグ行の飛行機に乗った。

 

 エコノミーだと覚悟していたんだけど、ビジネスクラスの席でラッキーだった。

 ビジネスクラスは、微妙にハイソ。

 時おり聞こえてくる乗客やCAさんの会話、ぜんぶ意味が分かる。みんな国際語の英語を喋ってる。

 飛行機に乗るのは、じつは初めて。

 あやかしと付き合っていたころは、ハートの飛翔体なんかに乗って空を飛んだんだけど、飛行機はべつものだよ。

 いっぱい人が乗ってるしね。

 無意識にポケットをまさぐる。

 ハンカチに隠れてお守りの感触。

 神田明神のお守り。病魔やら業魔やらにやられて青息吐息の将門さんにもらって、正直効くのかなあと思ってたけど(なんせ、将門さんじたいわたしに業魔退治を頼んでたからね)、あれから事故にも遭ってないし病気もしてないし、やっぱ効き目はある……と信じる(^_^;)。

 お財布の中にはお地蔵のお守り石。いったんは返したんだけど、もう一回借りてきた。

 前と違って、お地蔵さんはうんともすんとも言わない。でも、お守りはお守りだからね。

 それと、手荷物の中に、もう一つ。

 黒電話が入ってる。

 長年、うちの物置の中で眠ってたのをフィギュアの感覚で机の上に置いていた。

 電話の中には、むかし樺太で電話交換手をやっていたおねえさんが入っていて、あやかしからの伝言やら取次をしてくれた。

 いまは神保城の仕事が忙しくて、メイド王のもとで逓信大臣とかえらい役職に就いている。

 まあ、電話がかかって来ても、能力を失ったわたしは、交換手さんの声も聞こえないんだろうけど。

 でも、これもお守り。

 水平飛行になると、とたんに手持無沙汰。

 むかしだったら、チカコがチョッカイを出してくる。

 むろん、チカコも居ない。

 もし、出てきても『チカコ』なんて気やすくは呼べない。

 チカコの正体は徳川十四代将軍家茂さんの奥さんの和宮親子内親王だった。

 正しくは、和宮の左手。

 彼女は、将軍に嫁ぐ途中、板橋の縁切り榎の傍を通り――自由に生きたい――という気持ちを左手に籠めて、左手のスピリットを預けてきたんだ。

 むろん、物理的な左手は消えてはないんだけど、スピリットが無いから写真には写らない。改葬のためお墓を開けた時も和宮の左手首の骨は消えていたしね。

 で、「自由に生きたい!」って気持ちのかたまりだったから、めちゃくちゃ生意気でわがままだったよ(^_^;)

 そのチカコも、家茂さんが150年の月日のあとに迎えに来てくれて、夫婦円満になって、わたしのもとを去って行った。

 他にも六条御息所とか俊徳丸さんとか、他にもいろいろお世話になったあやかしたち。

 もう、とっくに、そういうあやかしたちは見えなくなってしまって、心の整理もついていたと思ったのに。

 飛行機が、どんどん日本から離れていくと、ふかくにも涙が滲んでくる。

 

 カッコ悪いんで、モニターで映画を観る。

 

 評判の良くなかったアメリカのアニメ映画をやっている。

 言語はいくつもあって、最初は日本語、ちょっとしてから英語に切り替える。

 両方分かる。このバイリンガルはありがたい。この能力が無ければ、ヤマセンブルグ行きは決心できなかったよ。

 他にも言語があるので切り替えてみる。

 ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、中国語…………え…………ええ!?

 全部分かるんですけど!

 ドリンクのオーダーを取りにきたアジア系のCAさんにジュースを注文。「まあ、きれいな韓国語をお話になりますねぇ」と喜ばれてしまった( ゚Д゚)。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも       斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

 

 

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やくもあやかし物語・2・001『やくもふたたび』

2023-08-07 21:05:28 | カントリーロード

くもやかし物語・2

001『やくもふたたび』 

 

 

 ラスボスをやっつけて、達成感と虚脱感がいっぺんにやってきた。

 

 三か月かかったゲームも、これでお終い。

 エンドロールが淡々と流れ、最後にスペシャルサンクス……Yakumo Saitou……と出てくる。

 あ……プレイヤーの名前、リアルにしてたんだ。

 ま、いいやオフラインでやってたし……コンプリートムービーが2クール目になりかけ、オプションボタンを押してゲーム終了をクリック。

 ホームに戻ると、ちかごろご無沙汰の『メディア』が気になってネタフリックスにしてみる。

 おすすめの映画……あ、これ見れるようになったんだ!

 流行り病のせいで映画館で見れなかった作品が見られるようになってる!

 近ごろのわたし、少しは人と喋れるようになった。そのぶん、あやかしたちとはご無沙汰になった……っていうか、あやかしの姿も聖霊の声も聞こえなくなった。

 寂しかったんだけど、いつの間にか学校の人たちとも、まあ、普通に話せるようになった。

 映画とかアニメの話をしている子たちが居て、いつの間にか、その話の輪の中に入れるようになったんだ。

 でね、流行りのコンテンツをネタフリで観るんだ。

 ちょっと無理してスタンダードプラン。

 中学生のお小遣いで月々1490円はお安くない。

 でも、まあ、自分への投資だしね。三月目からはお小遣いとは別に貰えるようになったし。

 まあ、まだ中学生だし甘えてもいいよね。

 

 それで、そのまま、日付を跨いで観てしまった!

 

 一日のうちにゲームと映画のエンドロールを観てしまうなんて、我ながらタフになったもんだ。

 二つの感動を胸に、そろそろ寝ようとコントローラーを持って、気が付いた。

 

 え……わたし、英語のままで映画を観ていた。

 

 画面の『選択』には英語と日本語があって、英語のところにアンダーバーが付いてる。

 あ、見終わって無意識に『選択』を英語に切り替えてしまったんだ。

 わたしの英語能力は[this is a pen]のレベルだからね(^_^;)。

 英語だと、ラストの台詞はどういうんだろ……英語でラストのところを映してみる。

 

 え……え……英語なんだけど、意味が分かる。分かってる!

 

 I’m feeling a little peckish――ちょっとお腹が空いた――と和訳しなくても理解できてる( ゚Д゚)!

 

 嬉しい1/3 びっくり1/3 気持ち悪い1/3 

 で、さっさと寝た。

 

 寝坊することも無く、いつものように起きて学校に行く。

 いつもの坂道を下って折り返しの曲がり角。

 曲がったところに三人の外人さん。スマホを見ながら困った様子。

 近ごろは、こんなところまで外人観光客の人たちが足を伸ばしてくる。

 地元民にはなんでもないところでも、外人観光客の人たちには新鮮なんだね。

 でも、どうやら地図音痴で、アプリの地図とリアルの地形を重ね合わせられないみたい。

「だいじょうぶですか?」

「あ……ええと、このつづら折りの坂道なんだけど……」

「あ、それなら、方角が逆です。こっちの道を……」

 そのつづら折りの道は、わたしにも思い出の道なんで情熱的に説明できた。

 

 ちょっといい気分になって回れ右……教頭先生が立っている。

 

 教頭先生は、時どきこの道を通って学校に通勤しているので、たまに見かけるんだけど、顔を合わせるのは初めて。

「斎藤さん、きれいなクィーンズイングリッシュでしたね……」

「え……あ……?」

 そうだ、思い出したら外人さんとは英語で喋ってた。

「その英語は……」

 聞き咎めてるんじゃない、教頭先生の中にある情報と照らし合わせている、そんな感じ。

 教頭先生は、まだあやかしが見えていたころ二三の事件で関りがあった。

 能力がなくなってからは、普通の生徒と教頭先生の関係。直接口をきくのもその時以来。

「よかったら、放課後、職員室にきてください」

「は、はい」

 

 そして、放課後、職員室に行くと「この学校を受けてみないかい」と、ある学校を紹介された。

 三年生の秋になっても受験先が決まらないわたしは――この学校、面白いかもしれない――と思ってしまった。

 

 その学校はね、ヤマセンブルグ王立民俗学学校っていうんだ。

 

 しばらくぶりに、わたしの中に火が灯った気がした。

 

  

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紛らいもののセラ・14『愛しき紛らいもの』

2022-01-10 05:59:04 | カントリーロード

らいもののセラ

14『愛しき紛らいもの




『出でよハートのエース』はヒットチャートを駆けのぼった。

 ハイティーンの揺れる心を表現しているだけではなく、「人間は多面的で、可能性のかたまり」という人生を前向きにとらえた曲のテーマが、セラの明るいキャラとマッチして、幅広いファンの心を掴んだ。

 本当のわたし それは53枚! ハートのエースもジョーカーも みんな~みんな~わたしの姿だよ(^▽^)♪

 特に、このサビのところは、曲全体を知らない年寄りでも覚えるようになった。

 芸能活動と学校の両立は難しかったけど、みんなの応援と、何よりも親友の三宮月子の協力で、なんとか卒業の目途もたった。

「いつまでも、一つの体に二つの魂が宿っていてはいけないわ」

 もう何十回目かになる問いかけを、紛いもののセラは、本物のセラにした。

 もう午前一時に近いタクシーの中である。

 ここのところ居ねむってしまうと、本物と紛らいものとの話し合いになる。

 

「だって、事故からこっち、わたしをやっていたのはあなたじゃないの。地味なわたしには無理よ」

「そんなことないわ。今日の本番、あたし隠れていたのよ。〔出でよハートのエース〕をエントリーしてからは、ときどきあたしは引っ込んでいた。そして、今夜は完全にセラに任せたのよ。あなたは立派にやりとげた」

「……ほんと?」

「ほんとよ。あたしも事故直後は、この体が自分のものだと思っていた。でも違う、セラのものよ」

「でも、ここまでやったのは、あなたの力じゃないの?」

「ううん、種のないことは、わたしにはできない。53枚のトランプといっしょ。セラのカードをあたしが使っただけ。セラは、地味なスペードの2とか3とかしか使ってなかった。カードは全部あたしがめくったから、セラには残り50枚の可能性があるわ」

「おかしなこと言っていい?」

「どうぞ、あたしも相当おかしいから」

「これからもしょにいて、わたしのこと助けてくれない?」

「じゃ、もっとおかしなこと言っていい?」

「なあに?」

 タクシーは、上り坂にさしかかって、この夏に買ったばかりのちょっと素敵な一軒家が見えてきた。

「お家のリビングに、まだ明かりがついているでしょ」

「ああ、いつものことじゃん。お兄ちゃんが勉強のために起きてんのよ」

「勉強のためじゃない。セラの事が心配で起きてんのよ」

「ハハ、そんな」

「ほんと。竜介くんは、セラのことが好きなんだよ」

「え、ええ……だってお兄ちゃんだよ」

「血のつながらない兄妹は結婚だってできるんだよ」

「だって、お兄ちゃん……」

「事故の前は、お兄ちゃんて呼べなかったよね」

「だから、もう名実ともに兄妹になれたのよ」

「そうだけど、ちょっとごまかしがある……それって竜介くんに心が開けたってことの言いかえだよ」

「だ、だったら、どうだって言うのよ!」

「ハハ、とんがっちゃって」

「もう、あなたがおかしなこと言うからじゃないの」

「だから、言ったじゃない。もっとおかしなこと言っていいって」

「だけど……」

「もう時間がないから、はっきり言うね。セラと竜介くんは結ばれるんだよ」

「な、なによ、それって(;'∀')!?」

「そして、二人の間に生まれた子が、とても大事な役割を果たすの……言えるのは、そこまでだけど」

 セラには言い返す言葉がなかった。もう二つ角を曲がると家に着く。

「じゃ、明日から一人でがんばって!」

 タクシーを降りたはずなのに、今まで座っていた後部座席には、もう一人の自分がいて、そう励ましたので、セラはびっくりした。

「あなた……」

「あたしは紛らいもののセラだから。これでお別れ。出して運転手さん」

 タクシーはテールランプの明かりだけ、ほのかに滲ませて去って行った。

「ところでさ、このあたしは、いったい何者なのよ!?」
 
 紛らいもののセラは運転手に噛みついた。運転手……サリエル部長天使は他人事のように言った。

「アレンジミスが起きたので、一人の天使の魂で間に合わせたわけ。天国の極秘事項だから、それ以上は言えません」

「もう!」

 紛いものは、いつの間にか自分の背中にかわいい羽根が戻って来たことに気も付いていなかった……。


 
  紛らいもののセラ……完 

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紛らいもののセラ・13『出でよハートのエース』

2022-01-09 06:16:04 | カントリーロード

らいもののセラ

13『出でよハートのエース


 

 ちょっと探してしまった。

 約束した駅の西側に行っても、大木の姿も春美の姿も見えなかった。

―― いったい、どこなの? ――

 キョロキョロしていると、駐車場の方から小さくクラクション。

 プ

 大きめのワンボックスカーのドアから春美がオイデオイデをしている。

 車の中には、春美さんと大木さんの他にも、カメラさんやらのスタッフがいて驚いたけど、そんな驚きは一瞬で、大木は新曲の歌詞と楽譜をセラの前に広げた。

〔出でよハートのエース〕

 タイトルの下には、何種類かの歌詞が書いてあった。

 要は、トランプの裏側はみんな同じで、めくるとジョ-カーを含めて53の顔があり、人間本当の姿は、トランプの表をめくるように分からない。

 それで、宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるかまで、韻を踏んで女の子の気持ちと、無限に変われる可能性を明るく歌った13の歌詞が並んでいた。

「一番と、最後の歌詞は決まりだと思うんだ。宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるか。で、セラちゃんには、その間の歌詞を5つほど選んで欲しいんだ。青春の揺れる気持ちと可能性を明るく歌い上げた、これでセラちゃんの解離性同一性障害の噂を逆手にとってヒットもとばせる。いや、ヒットは副産物。今のセラちゃんを元気にできると思うんだ」

 気づくとワンボックスは動き出していて、セラの心を揺らしながら事務所のスタジオに着いてしまった。

 この業界の恐ろしいところは、考えている間もなくことを進めてしまうこと。

 ちょっとテストしてみようということで、十数回歌ってみたら13回目のが出来が良く、そのままOKが出てしまい、 その日のうちにレコーディングが終わってしまった(^_^;)。

 春美たちの気持ちは、純粋ではなかった。かと言って、セラを食い物にして儲けようという気持ちでもない。自分たちの手でスターを育てたい、そのことで本人とファンの人たちが生き生きと元気になれば、それが彼らの喜びである。

 世の中に絶対の善など存在しないとセラは思っている。春美や大木の敷いたレールから降りるつもりもなかった。

 実際〔出でよハートのエース〕はヒットし、解離性同一性障害ということだけで、マスコミから騒がれることもなくなった。

 世間もセラの事をバス事故に便乗して出てきたポッと出のタレントとは見なくなってきた。

 きっかけなんてどうでもいい、みんなを元気にしてくれるアイドルが生まれたんだから。セラの人気上昇の早さは業界新記録になった。

「セラは城中高校の希望の星よ。仕事で抜けた授業なんか、わたしがカバーしておくから、セラは仕事に専念してちょうだい!」

 三宮月子は、校内でのフォローと親衛隊長を買って出た。

「お客さん、疲れてますね」

 収録が深夜に跨り、放送局が出してくれたタクシーの中、ふと眠りかけたらウンちゃんが、そう話しかけてきた。

「あ……どうも、まだ体が、この仕事に慣れてないもんで」
「苦労しますね。アイドルも大変だ……」

 セラは、ウンちゃんの声に聞き覚えがあるような気がしてバックミラーを見た。

「あ……!」

 セラではない記憶の半分が蘇った。

「サリエル部長天使!」
「やっと見つけたよ、本物のセラの魂を」

 その一言で分かった。この体の中に居る「わたし」は本物のセラじゃない。

 本物は……。

「そう、おまえさんの心に同居している。解離性同一性障害などと言われたのは、そのせいだ」
「じゃ……今あなたと喋っているわたしは?」
「それは、決まりで言えないことになっている」

 サリエル部長天使はニベもなく言った。

「お客さん、着きましたよ」

 ウンちゃんが、そう言ったときセラは夢から覚めたが、夢の中身が本当であるという確信が生まれていた……。 

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紛らいもののセラ・12『セラのビフォーアフター』

2022-01-08 05:43:00 | カントリーロード

らいもののセラ

12『セラのビフォーアフター』   



 マスコミが騒ぎはじめた。

「セラのビフォーアフター」のタイトルで週刊誌が取り上げ、下校中に待ち伏せされることもあった。
 某局のバラエティーでも特集のコーナーで取り上げられ、レポーターや評論家が適当に面白おかしく言っている。

「解離性同一性障害……の可能性がありますね」

 どこから手に入れたのか、事故前のセラの写真や動画、さらには関係者と思われる匿名で顔ボカシ音声変換をかけたコメントまで出てきた。

「解離性同一性障害って、セラセラは男だったんですか!?」

 性同一性障害と勘違いして、ゲストがボケて笑いを誘う。音響効果で笑い声まで増幅させている。

「違います。自分のことが自分のことと思えない症状で、昔は多重人格と言われたものです」

 精神科の医師が真面目に答える。

「ということは、事故をきっかけにセラセラの隠れてた人格が出てきたってことですか?」

 もう一人のゲストが身を乗り出す。

 ちなみに、セラの呼び方はセラセラになってきた。本名が世良セラなのだから、そのままといえばそのままだけど、扱いとしては準アイドル的な表現で、佐藤良子や遺族の人たちには申し訳ない気持ちのセラだった。

「セラセラは、ご両親が再婚で、実のお父さんはアメリカの方。これが昔のセラセラなんだけど、写真も動画も、今みたいに明るいですね」

 MCが、セラ自身で持っていない昔の写真や動画を出してきた。母親の再婚が決まったときに、セラなりに過去を清算しようと思って処分したものだ。どこで手に入れたのかネット社会というか情報社会の恐ろしさを感じた。

 セラの変貌ぶりを好意的に取り上げてくれてはいるが、本音は数字を取りたいだけのメディア根性なので、
世良家の日常に影を落とした。

 毎日、メディアが家や通学路で待ち構えている。

「わたし自身困惑してます『春が怖くて』という曲は、そもそもアイドルとかアーティストなんてつもりで歌ったんじゃないんです。あくまで、あのバス事故の慰霊の延長線上にあることなんで、あんまり、こういう扱いはしないでいただきたいんです。お願いします」

 セラは、聞かれるたびに、そう答えた。正直な気持ちだし、崩せない姿勢だと思った。

 父の龍太が責任者として建造していた26DDHが、正式に航空母艦であると発表された。艦名も一言でそれと分かる「あかぎ」とされた。

 政府が、周辺諸国へのプラスマイナスの影響を考えて、造船所に、そう指示してきた。三つの国が猛反発し、他のアジア諸国は好意的だった。某国の理不尽な進出に憂慮していたアメリカも賛同。遅れて建造の始まった27DDHも空母であると発表された。

「これで、俺も奥歯に物が挟まったような説明をせずに済む」

 久々に帰宅した父は、にこやかに食卓に着き。セラには間接的に今のセラでいいと言われたような気がして、気持ちが楽になった。

 そんな早春の朝、マネージャー兼プロデューサーの春美から電話があった。

『大木さん(『春が怖くて』の作曲者)が、今のセラのために新曲を作ってくださったの。事務所に来て、一度見てくれないかな』
「わたしは……」
『あ、セラちゃん。ぼく大木、このごろの君を見てて湧いてきた曲なんだ。ぜひ君に歌って欲しい』
「わたしは……」
『もう君の学校の近くまで来てる。目立たないよう駅の西の道で待ってる。よろしくね』

 大木は、ときめいている。それが切ったばかりのスマホに余熱のように残っていた。

 どうしよう……セラの正直な気持ちだった。

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紛らいもののセラ・11『ちょっと変だな……』

2022-01-07 07:15:05 | カントリーロード

らいもののセラ

11『ちょっと変だな……』   




 便宜上プロになったものの、こんなだったとは思わなかった。

『ごめん、急にSラジオのゲストが出られなくなったの、ピンチヒッターお願い!』

 正式なマネージャーになったばかりの春美さんから電話があったのは、月子と放課後のお喋りをしながら駅に向かっていたときだった。

「三時って言ったら、ほとんど今からじゃないですか」
『打ち合わせとかあるから、二時にはS放送に来てね。『徹子のフライデー』だから断れないの、よろしく!』

 返事も待たずに、春美さんは電話を切ってしまった。

「S放送なら、地下鉄のS駅ね」
「わたし、行ったことないから分からないよ……」

 今までにない、春美の押しつけがましさに、ちょっと不服顔のセラだ。

「わたし知ってる。以前、元皇族問題の時に呼ばれたことがあるから」

 というので、月子の案内でS放送についたのが、二時半だった。

「あら早い。あなたたちお昼まだ?」
「はい、遅れちゃだめだろうって、とりあえず来ることを優先しました」
「ハハ、それは何か食わせろってことね、付いてきて」

 返事も聞かずに春美さんはスタスタ歩き出した。行った先には「猫柳徹子様」と紙が貼られていた。

「あら、もう来てくれたのね。そちら三宮様の内親王様」

 徹子さんは、物覚えがいい。たった一度あっただけの月子のことをしっかり覚えていた。よもやま話をしているうちに特製のお弁当が三人前届けられた。

「「うわあ、おいしそう!」」

 同じ言葉が、月子と一緒に出た。

「ほんとは、AKPのセーラさんが来る予定だったんだけど、レッスン中に足痛めて病院なの。で、あわよくばセラさん呼び出して楽しくお話ししようと思って。三宮さんも、ごいっしょにどうぞ」

「え!?」

 と驚く間もなく、徹子さんは次々に話題を出したり、二人の話を聞いたりして、番組の構成を考えていった。

「まあ、そうなの。あのバス事故がきっかけで……」

「ええ、今まで『お兄ちゃん』なんて呼べなかったんですけど、意識が戻って、すぐ目の前にいたのが兄だったんで、自然に言えたんです」

「ふーん、死ぬような目に遭って、なにかふっきれたんでしょうね。それから、とても立派な記者会見でしょ。今ごろあんなにマスコミに押し出しのきく高校生なんていないわよ」

「そして、佐藤良子さんから詩のようなお手紙いただいて、それに曲が付いちゃって、気が付いたら今の境遇なんです」

「そうよね、最初はマスコミに利用されて、変なっていうか、唯一の生存者で可愛いもんだから、ちょっとまずい立場になるんじゃないかって心配したんだけどね。いや、取り越し苦労でした」

 それから月子も交え、打ち合わせの話に花が咲いた。

 もともとのゲストがAKPのセーラだったので、途中からラジオを聞いた人たちは混乱した、早口の徹子さんはセーラと言ってもセラと言っても同じに聞こえる。

 番組の途中で「驚いた」というメールがいっぱいきたので、徹子さんは二度ばかり「今日のゲストは、デビューしたての世良セラさんです。セーラさんのピンチヒッターに来ていただきました」というややこしい解説をしなければならなかった。

「はーあ、ラジオ通すとセーラさんの声に似てらっしゃるようね。声質もそうだけど、はつらつとしたとこや、お話しの分かりやすいとこなんか。ねえ、月子さん、そう思いません?」

「似てますね」

 セーラの録音を聞かされて、正直な感想を言った。

 ふと、セラは妙な感覚に襲われた。視聴者のかなりの人が自分をセーラだと思っていた。徹子さんが何度か説明したので別人だと分かってもらえたが、一部の視聴者は混乱したままだった。

 セラ自身が混乱している。事故前と事故のあとでは自分が違う……違いすぎる。ラジオを聴いて混乱していた視聴者のような気持ちが日増しに強くなってきた……。

 ちょっと変だな……。

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紛らいもののセラ・10『公認の約束違反』

2022-01-06 03:52:13 | カントリーロード

らいもののセラ

10『公認の約束違反』   




 二度目のスタジオは、少し緊張した。

 でも、自分のギターをきっかけにイントロが流れ始めると、あとは、スッと曲の世界に入っていけた。

 男臭い六畳の窓を開け、寒さの中にも、かすかな春を感じる。ちょっと多感すぎるかな……♪

 歌い終わると一瞬の間があって、スタジオに拍手が満ちた。拍手の中心にいた猫柳徹子さんが後ろからハグしてくれた。

「とても良かった。こんな素敵な約束違反、とっても嬉しいわ!」

 徹子さんは、そう言うと、いつもの「徹子のサンルーム」のセットの方にセラを誘った。

 セットには、手紙を書いた佐藤良子と、その手紙を詩と感じて見事なバラードに仕立て上げた大木功が控えていた。

「ボクが作った以上の仕上がりでしたよ!」

「ありがとうございます。曲を頂いて、とっても迷いましたけど、良子さんも、とても喜んでくださったし、何より徹子さんが『これは絶対裏切るべきよ!』って、自分でおっしゃるもんで……わたしなに言ってるんだろ。ああ、とにかく歌い終わって感動です!」

 ついこないだ、猫柳徹子は、セラがハーフの上にとても魅力があり、人を相手に話すことにも長けていたので、音楽事務所のスカウトなどには乗らないように、このセットで注意したところであった。

 それが、バス事故の慰霊祭で犠牲者の妹の佐藤良子の手紙をセラが代読。そして、その動画を見た作曲家の大木功が一晩でバラードに仕上げてしまった。

 並のスカウトなら断ったが、大木自身がどこの事務所も通さずに、直接楽譜をセラと良子に送った。

 で、セラがみんなと相談するうちに、今日の運びとなってしまった。

 一般の視聴者の反応もさることながら、事故の遺族の人たちも、この曲を好意的に受け止めてくれた。

「プロになんかならなくていいから、この曲だけでもCDにしてみない?」

 大木の提案は、直ぐに実行され、否応なしにセラは、新人のシンガーとして認識されてしまった。

「出演のオファーがこんなに来てる。これは、もうマネージャー付けて管理しなきゃ、やってけないわよ」

 タブレットのオファー一覧を見せながら、春美はセラにプロとしての登録を勧めた。春美にしても、事務所所属のシンガーになってもらわないと、マネジメントの仕事ができない。

「やれるとこまで、やったらいいと思うわよ。世間なんて浮気なものだから、ブームが過ぎたらただの人よ。遺族の人たちが喜んでくれている間だけでもやってみたら」

 自分でもマスコミに翻弄された経験から、元皇族家の三宮月子がアドバイスしてくれた。

「分かった、良子さんも喜んでくれてるし、やれるところまでやってみるわ!」

「うん、それがいいわよ!」

「ようし、決意記念にお汁粉で乾杯だ。オバちゃん、お汁粉二つ!」

 かくして、学校の食堂で、一曲限定歌手の世良セラの誕生となった。連絡した春美は二つ返事で了解、さっそく今月のスケジュールを送ってよこしてきた。

「読まれてたわね。これって、セラが承諾することが前提でなきゃ組めないスケジュールよ」

 上品にお汁粉をすすりながら月子が言った。

 その日家に帰ると珍しく、父の龍太が帰っていた。

「仕事、一段落?」

「ああ、やっとな。なんたって海自最大の艦を、最軽量で作ろうってんだからな。アレンジミスの修正から計算しなおして、計画案よりもいいものになった。進水式にはセラも来いよ。最新鋭艦と人気新人歌手、話題になるぞ!」

「それまで、続いていたらね。お母さん、お腹空いた!」

 セラは、よく言えば元気に、ありていに言えば行儀悪くソファーにひっくり返った。

「今の、動画でとったぞ。ネットで流したら評判だろうな!」
「もう、なんちゅうアニキよ!」

 兄の竜介が意地悪を言う。母の百恵は、再婚以来初めて家族らしい団らんになったと嬉しそうにキッチンで夕食の用意を始めた。

「お父さん、用意ができましたよって、お母さんから」
「ああ、いま行く……」

 龍太は、再婚以来撮りだめにしていた家族のビデオをパソコンで編集しなおしている最中だった。ちょうど再婚一周年記念の家族旅行の映像がモニターに映っていた。

 セラは一人そっぽを向いている自分がおかしかった。

 そう、おかしく感じた。

 この時の記憶はあるが、なんだか他人のそれのような違和感を感じた。

「なにミイラ取りがミイラになってんのよ。お鍋だから、早くして」
「はーい」

 母の声に反応しながら、もう違和感のことは忘れているセラだった。
 

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紛らいもののセラ・9『慰霊式』

2022-01-05 05:31:18 | カントリーロード

らいもののセラ

9『慰霊式』   

 




 セラは、一時間早く慰霊式会場に出向いた。

 手紙の主の、佐藤良子に会うためだ。良子は事故で二人兄妹の兄を亡くした。その思いを手紙にして春美に送っていたのだ。

 しかし、当の良子は耳が不自由で、唯一の生存者であるセラに代読を依頼してきた。

 真剣に向き合おうとしたセラは、良子と話をしておきたく、また、良子も同様に思っていたので、一時間前の面談ということになった。

「まさか読んでもらえるとは思いませんでした。それもセラさんに」

 手話通訳の母親が言っている間にも、良子はキラキラした目でセラのことを見ている。

「木本(春美)さんから、お話があったときはびっくりしましたけど、お手紙を読んで、わたしが読まなきゃと思ったんです。あれは、もう立派な詩ですね。どれだけやれるか分かりませんが、しっかり務めさせていただきます」

「……わたしこそ、セラさんに読んでいただいて光栄です。慰霊祭が間近に迫って、わたしなりに気持ちを表したくて居ても立っても居られなくなったんです。文章苦手なんで、あんな散文的なものになってしまいましたけど」

 それから、亡くなった兄の事を、遠慮気味に話し出した。

「……兄は、わたしにスキーをさせてやりたくて、下見に行ってくれたんです。耳が不自由なもので、施設面や介助のことで問題が無いかどうか」

「そうだったんですか、優しいお兄さんだったんですね……今のお話し聞いておいて良かったです。単なるお兄さんのお楽しみでなくて、良子さんへの思いが籠っていることがよくわかりました」

 セラにもワケ有の兄がいる。今回の事故で、事情は違うが兄妹の気まずさが緩んで、やっと打ち解けてきたところだ。

 今日もセラを乗せて会場まで来てくれて、目立たぬよう明後日の方角を見て素知らぬ風を装っていたが、目には光るものがあった。

 セラ自身も、時間いっぱい良子と話をして、手紙には書かれていなかった兄妹の思い出を聞き、目を真っ赤にした。

 仕掛け人の春美も、その様子を見て胸が熱くなった。春美が仕事を離れて心から感動するのも稀有なことである。

 時間になったので、一同は控えの公民館から、事故現場の慰霊祭会場に向かった。

 春の気配を天気予報で言ってはいるが、スキー場近くの会場は、まだまだ真冬の気温。参列者の多くは、喪服の上から、コートやブルゾンを重ねていた。

「お兄ちゃん、持ってて」

 セラは、Pコートを脱いで兄の竜介に渡した。

「大丈夫か、この寒さだぞ」
「ううん、ちっとも寒くなんかないわ」

「まるで、アナ雪だな」

 竜介が、そう言うと、セラは泣き笑いの顔でマイクに向かった。

 冬服とは言え高校の制服である。寒いのに違いはないが、セラは凛として、息を吸いこみ、ゆっくりと語り始めた。

 男臭い六畳の窓を開け、寒さの中にも、かすかな春を感じる。

 ちょっと多感すぎるかな。

 机の下の綿ぼこりが、風におかしく踊ってる。ベッドの上には脱ぎ散らかした靴下やTシャツ。

 洗濯籠に放り込み、掃除機のプラグを差し込んで、小さな火花。心に火花。

 いつも通り習慣の掃除の手が止まる。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 四十九日ぶり、部屋の掃除の手が止まる。

 下の部屋から香るお線香、その分男臭さが抜けていく。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 

 セラは、手紙を暗記していた。暗記していたから、自然に胸を張って、仮の慰霊碑に向かい、自分の言葉として語ることができた。

 語り終え、セラは一礼すると「代読、世良セラ」と言うのを言い忘れて席に戻った。

「鎮魂の言葉は佐藤良子さん。代読は世良セラさんでした」

 MCの春美がフォローした。

 この様子は、昼のワイドショーで取り上げられたほか、YouTubeなどではセラの語りの全編が流れた。アクセスは10万近くいき、大勢の人たちが感動した。

 作曲家の大木功は、気が付いたら、この手紙と言うよりは詩とよんでいい、それに音符を付けていた。

 兄の竜介はただただ感動していたが、妹に対するそれではないことには、まだ気づいてはいなかった。

 

 

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