「きみ、ちょっと待ち」
必殺の中村主水(藤田まこと)みたいな刑事さんがO先輩に声を掛けた。
O先輩は、こないだの『拉致事件』で世間を騒がせ、警察にも多大の迷惑をかけたので、彼女と、仲間四人を連れてF署まで、雁首揃えて地域安全課の課長さんに詫びを入れにきたところ。
白昼、五人乗りのセダンに六人、それも一人がトランクに入ったら、今日日だれでも拉致だと思う。警察はヘリコプター出してまでの大騒ぎになった。それが単なるおふざけやったんやから、絞られて当たり前。
匿名にはなってたけど、三面記事のトップにもなったし、今日もS署にはO先輩らが詫びを入れるというので、マスコミが何社も来ている。
これで、少しは懲りるやろ。
そう思ったとたんの中村主水。
「きみ、任意やけど、尿検査させてもらえへんか」
「え、ああ、いいっすよ」
と気楽に答えたけど、全員が危険ドラッグ服用の結果が出た。
「そんなん、オレ、覚えないですよ!」
言うても後の祭り。そこからは強制捜査。
まず車の中から、動かぬ証拠のビニール袋。簡易鑑定で危険ドラッグの痕跡発見。
以上のことが、テレビではなくてSNSで流れた。テレビがテロップで流す前に、わたしはO先輩の家にチャリで直行。
心配やからと違います、面白そうやから。
大阪だけじゃないと思うけど、女子高生の行動原理は、面白いかどうかだけ。
O先輩の家に行くと、もう警察が入っていた。
青いシートで目隠ししてるけど、向かいのマンションの二階への階段からは丸見え。
「なんや、あんたらも来てたん?」
直美をはじめ演劇部の面々。普段は仲の悪い演劇部の子らやけど、面白いもの見る時は、お仲間になる。これも大阪の女子高生の特徴。
段ボールの箱が、いくつも運び出される。中には蓋が開きっぱなしというか、閉められないぐらいパンパンのやつも。
「O先輩の本て、マンガとラノベと……エロ本ばっかりやな」
演劇部のFがため息つきながら肩を落とす。
「箱の中で見えへんけど、DVDとかも怪しげなもんばっかりや……多分」
余計なひと言やった。Fは本気でがっくりきてる。
「いや、男の大学生て、こんなもんやで。探したらええとこもあるんとちゃう?」
「探さんとないんかいな……」
逆効果だったみたい。
まあ、自分らで勝手に偉い先輩だと思ってきたんだから自業自得。それに、これ以上の慰めは逆効果と思って、わたしはマンションから出た。
「あ、加藤奈菜ちゃんと違うの?」
取材の新聞記者から、声をかけられる。
「はい、そうですけど……」
「あは、やっぱり。あなたってちっとも変わらない。忘れた? あたしよ、あたし!」
記憶の底から蘇ってきた。その女性記者の髪をボブに置き換えると、当時の面影が浮かんできた。
その女性記者さんは、中学生のころお菓子のCMのスタッフやってたオネエサンだ!
カメラがわたしを撮っているのに気がつかなかった……。
奈菜……♡