真夏ダイアリー・23
大洗の駅前は『ガールズ&パンツァー』一色だった。
『ガルパン』は乃木坂学院の文芸部でも聞かされ、ネットでも検索していたので、かなり詳しく知っているつもりだったけど、こんなに賑わっているとは思わなかった。
「これが休暇を取れた理由よ」
「ああ、取材にかこつけて……」
電車から降りると、たちまち変装用のメガネが曇ってしまい、外してハンカチで拭いた。
「早くしなさいよ。あんた、ほんとのアイドルになっちゃったんだから、目に付くわよ」
「大丈夫、ニット帽も被ってるし、眉を描いてきたから、ちょっと目には分からないわよ」
「プ……なに、その眉。ちょっと描きすぎじゃない?」
「でも、自然でしょ。『プリティープリンセス』のアン・ハサウェー参考にしてきたの」
わたしは、メガネをかけ直して、エッヘンポーズをとった。
「それって嫌み?」
「どうして?」
「主人公のミアのお母さんて、ちょっと変わったアーティストで離婚歴あり。で、その離婚が原因でストーリーが始まるのよね」
「でも、お父さんは国王じゃないわ。さ、まずはお仕事」
そう言うと、お母さんは、そこいらにいるガルパンファンにインタビューに行った。カバンが大きいと思ったら、小型のプロ用カメラが入っていた。
「真夏、カメラ頼むわ。わたしインタビューするから」
臨時のカメラマンにされてしまった。でも、カメラを構えてると、顔のほとんどが隠れてしまい、わたしにとっても都合が良い。
まずは、実物大のⅣ号戦車のパネルの前にいる大学生風の男の子たちから始めた。
「ガルパンのどういうとこがすきなんですか?」
「わ、放送局っすか!?」
「まあ、いちおう」
お母さんは、適当に答える。
「で、どういうとこが?」
「一口で言うと……なんでもありってとこですよね」
「そうそう、戦車と萌えなんか普通考えないっすよ」
「そのわりに、戦車の細かいトコなんかすごくリアルだし、ロケーションを大洗に持ってきたトコなんか突いてるって感じです」
わたしより年上なんだろうけど、言葉は高校生並み。でも、ガルパンの核心はついている。わたしも含めて、今の若者って、鋭いのか、大ざっぱなのかよく分からない。ただ心理的にちょっと複雑という点では自信がある。
それから、会場であるマリンタワーが見える広場では、主に展示物や、それに群がるガルパンファンを撮影。
そして、お昼を食べてからは、ファンたちには聖地と呼ばれる町の風景を撮りにいった。
キャラたちが五両の戦車に乗ってカタキの学校の戦車を撃破したところだ。案の定ファンたちで一杯。取材のネタには事欠かなかった。
「わたし、渋谷で、Ⅳ号戦車見たんだよ」
「え?」
キャラたちが、敵のイギリスのクロムウェルを撃破し、からくも勝利した「聖地」の取材中にお母さんに言った。
「うん、ハチ公前の路上販売のおじさんから、クリスマスパーティー用のグッズ買ったら、頭がクラっとして。そうしたら道玄坂の方から走ってきた……」
「渋谷怪談って映画ができたぐらいのとこだからね。そういう話の一つや二つはあるかもね。だいたいハチ公にしたって、なんか都市伝説の走りって感じじゃん」
「……お母さん」
「うん?」
一見無防備でノリノリのお母さん。これはお母さんのバリアーだ。このまま話しても、のった振りしてかわされる。
「ううん、なんでもない」
「変なの……ちょっとそこのディープなファンの人!」
お母さんは、ファンの一群に突撃していった。
旅館の夕食のアンコウ鍋が、半分がとこお腹に収まったところで、聞いてみた。
「お母さん……」
「なあに?」
「お母さん、どうしてお父さんと結婚したの? で、どうして別れちゃったの?」
「ゲホゲホ……」
予想通り、お母さんは虚を突かれたようにむせかえった。そしてむせかえりながらも用意していた母親の仮面を被り始めているのが分かった。
「シナリオ通りの答えなんかしないでね。そんな答え、お互いの距離を広げるだけだから」
わたしの真顔に、お母さんは明らかに動揺していた。
旅館の窓の外は、粉雪が降り始めていた。雪が全てを覆い尽くす前に聞き出さなくっちゃ……。
「わたし、渋谷で、Ⅳ号戦車見たんだよ」
「え?」
キャラたちが、敵のイギリスのクロムウェルを撃破し、からくも勝利した「聖地」の取材中にお母さんに言った。
「うん、ハチ公前の路上販売のおじさんから、クリスマスパーティー用のグッズ買ったら、頭がクラっとして。そうしたら道玄坂の方から走ってきた……」
「渋谷怪談って映画ができたぐらいのとこだからね。そういう話の一つや二つはあるかもね。だいたいハチ公にしたって、なんか都市伝説の走りって感じじゃん」
「……お母さん」
「うん?」
一見無防備でノリノリのお母さん。これはお母さんのバリアーだ。このまま話しても、のった振りしてかわされる。
「ううん、なんでもない」
「変なの……ちょっとそこのディープなファンの人!」
お母さんは、ファンの一群に突撃していった。
旅館の夕食のアンコウ鍋が、半分がとこお腹に収まったところで、聞いてみた。
「お母さん……」
「なあに?」
「お母さん、どうしてお父さんと結婚したの? で、どうして別れちゃったの?」
「ゲホゲホ……」
予想通り、お母さんは虚を突かれたようにむせかえった。そしてむせかえりながらも用意していた母親の仮面を被り始めているのが分かった。
「シナリオ通りの答えなんかしないでね。そんな答え、お互いの距離を広げるだけだから」
わたしの真顔に、お母さんは明らかに動揺していた。
旅館の窓の外は、粉雪が降り始めていた。雪が全てを覆い尽くす前に聞き出さなくっちゃ……。