大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『わたしの吸血鬼・2』

2021-12-15 05:38:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『わたしの吸血鬼・2』  



 

 わたしは間の悪い女だ。

「なんでアイドルになりたいの?」

 オーディションで聞かれた。

「え、あ、自信があるんです!」

 と、ピントの外れた答えをした。でも、これがプロディユーサーの白羽さんの気に入ったのだから世の中わからない。

「とっさの答だろうけど、キミは本質をついているよ」

 そう褒められた。

 でもそれはまぐれで、他は間の悪いことが多い。選抜のハシクレになったころ、スタジオの様子がわからないので、せっぱ詰まって入ったトイレ。用を足してるうちに間違いに気づいた。だって、男の人の声が五人分ぐらい聞こえたから。

―― やばい! ――

 息をひそめていたら、いきなりドアを開けられた。

 わたしってば、ロックするのを忘れてた。

「あ、ごめん」

「い、いいえ……」

「いま、女の声しなかったか?」

「いや、ADの新人。悪いことした」

 その人は、うまく誤魔化してくれたけど、トイレの出口で他の子に見つかった。で、しばらく「XXは男だ!」という噂が立てられ、しばらくシアターのMCなんかにイジラレ、二週間ぐらいは人気者になれた。

 でも、さえないバラエティーキャラというイメージになって、狙いの「清純」からは遠くなった。

「待ってえ~」の声で、センターの潤ちゃんが、ドア開放のボタンを押してくれた。

「持つべきものは、センター……」

 ブーーーーー

 定員オーバーのブザー。

 仕方なく、わたしは次のを待った。

 やっと次のがやってきて「閉め」のボタンを押そうとしたら、スルリとイケメンが入ってきた。

 ボタンは、地下の駐車場しかついていなかった。数十秒間、イケメンといっしょだった。

「オレのこと分からない?」

「え……?」

「S・アルカードのアルカードだよ。スッピンだと分からないよね」

「あ、そ」

 わたしは、本番中に居中に振られて「小野寺潤さんが好みです」という、彼の言葉にこだわっていた。

「あれは、立場上、ああ言うしかなかったからだよ。本当に好きなのはキミだ……」

 語尾のところで、振り返ったら、アルカードの顔が真ん前にあって、自然にキスになってしまった。

「ごめん……勝手に言い訳して、でも、本当の気持ちだから……ハハ、言っちゃった」

「う、うん……」

「その『うん』は、本気にしていいのかな?」

「あ、あの、その……」

「困らせるつもりはないよ。ほんのちょっとだけ、一分もないくらいキミの部屋のベランダに行っていいかな? 今夜十二時ごろ」

「え、あ……困ります」

「大丈夫、スマホの履歴だって消せるんだ。分からないように行く。それに部屋の中には絶対入らないから」

「でも……」

「あ、いけねえ、おれ一階なんだ。まだ駆けだしだから、帰りは地下鉄なんだ」

 そう言って、アルカードは一階のボタンを押した。

 チーン

 エレベーターは一階に着いた。

 一階には、アルカードによく似た十人ちょっとが佇んでいた。わたしを見ると、そろって軽く頭を下げた。

「じゃ、おつかれさまでした」

 仲間も同じことを言ってドアが閉まった。

 地下に降りると、みんながマイクロバスで待っている。

「どうした、なんだかボンヤリしてるわよ」

「え、あ、そう?」

「XXはタイミング悪いのよね」

「でも、あのエレベーターって、十八人まで乗れるんだよ。それが十七人でオーバーになる?」

「あ、それって、だれかが二人分重さあるってこと!?」

「それはね!」「つまりよね!」「アハハ」「言う前に笑うな」「だって」

「ほら、車出るよ!」

「「「「「「あ、待ってぇ!」」」」」」



 賑やかにマイクロバスは動き出した……。 


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