ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ヒラリー・ハーン&P・ヤルヴィ(6/7) @サントリーホール ブルックナー:交響曲第8番他

2012-06-10 | コンサートの感想
村上春樹のべストセラー小説「IQ84」が文庫化されたので、遅まきながら読んでいる。
ようやくBook3の前篇まで読み終えた。
残すところ、あと1巻だ。
今すぐにでも読みたいけど、じっと我慢して明日からの愉しみに残しておこう。

さて、昨日に続いてパーヴォ&フランクフルト放送響のコンサートの感想を。
二日目となる7日のメインは、ブルックナーの8番。
私はこのシンフォニーが心底大好きなんだけど、実演ではなかなか震えるような感動に出会わない。
私がこのブルックナー畢生の大作で大事にしたいポイントは大きく3つある。
ひとつは、ブルックナーの生命線ともいえるオルガンのような響きが感じられるか、
二つめは第一楽章冒頭の「タターン」というモティーフが全曲を通して貫かれているか、
そして最も大切にしたいのは全体のバランス。
バランスと書いてしまうと、各楽器間の音量のことだけのように思われるかもしれないが、勿論それだけではない。
私が大切にしたいのは、全4楽章を通した音楽の設計だ。全体の見通しという方が適切かもしれない。
部分部分に感情移入し過ぎて前後のつながりが不自然になってもらっては困るし、何よりも音が団子になってほしくない。
だからと言ってドライな演奏は大嫌い。絶対に血の通った温かい音楽であってほしい。
こんな気難しい注文をつけるので、なかなか心を揺さぶられる演奏に出会わないのかもしれない。

さて前置きが長くなってしまったが、この日のパーヴォたちの演奏は、先述の3条件を当然のことのようにクリアしていた。
横浜公演では不調を伝えられたブラスも、この日は快調。木管もとても上手い。
弦もウィーンフィルやコンセルトヘボウのような際立った個性こそないものの、その力強く暖かい音色はいかにもブルックナーに相応しかった。
加えてマーラーの感想でも書いたように、音楽を大きなうねりの中で見事に構築していくパーヴォのシェフとしての腕前は、ブルックナーでも健在。
これだけ揃えば、「今回はさぞかし大感動だったでしょう」と言われそうだけど、実は心震えるようなブルックナーとまでは行かなかった。
何故なんだろう。
ラストの余韻が残っているにも関わらず、全てをぶち壊すような拍手があったことも一因かもしれない。
でもそれだけじゃないような気がする。正直自分でもまだ分からない。
私自身の音楽の感じ方の問題かもしれないので、もう少し考えてみたい。
ただ、ホールを埋めつくした聴衆の反応も、前日のマーラーの時とは異なり、いささか醒めていたように思われた。

一方、前半のヒラリー・ハーンは、文句なく素晴らしかった。
この人のコンサートで裏切られたことは、ただの一度もないのだけど、この日もひたすら感動的な演奏を聴かせてくれた。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が、これほど儚くも美しく感じたことはなかった。
どんなフレーズも、いかなるパッセージも、彼女の手にかかるときわめて自然にかつ誠実に響く。
この自然さこそがヒラリーの最高の美質だと私は確信しているが、それが最高の形で結実したのが、アンコールで聴かせてくれた2曲のバッハだった。
このバッハを聴いて、心動かされなかった人はいないと思う。
音の美しさ、サントリーホールの隅々にまで響きわたる遠達性という点において、彼女のヴァイオリンは既に比類ないレベルに達している。
加えて、ウェットな質感を保ちながら自然に淡々と弾かれるスタイルの中で、バッハの神々しさが一層はっきりと見えてくるといったら言い過ぎだろうか。
高貴にしてピュア、しかも自然な形で奏でられる彼女のヴァイオリンを聴けることは、私にとって最高の贈り物だ。
ヒラリーさん、今年も素晴らしい演奏を聴かせてくれて本当にありがとう。

終演後、先輩と聴きに来られていたminaminaさんと軽く一杯。
感動的な演奏の後で飲むビールは、やはり最高です。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

<日時>2012年6月7日(木)19時開演
<会場> サントリーホール
<曲目> 
■メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
■ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 
(アンコール)
■バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より「グラーヴェ」
■バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より「アレグロ」
<演奏>
■ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
■パーヴォ・ヤルヴィ指揮
■フランクフルト放送交響楽団

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アリス・紗良・オット&P・... | トップ | 庄司紗矢香&大野和士/都響... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (リベラ33)
2012-06-11 01:43:06
私もブル八が大好きです。私のベスト盤は朝比奈/N響のライヴですねぇ。あれはすごい。
実は当日私は会場で聴いていたのですが、独特の深みのあるサウンドが本当に素晴らしかったすよ。朝比奈のブル八は都響や大フィルでも聴きましたがN響が一番良かったと思います。
返信する
>リベラ33さま (romani)
2012-06-11 21:44:04
いつもありがとうございます。
朝比奈さんのN響ライブですか・・・。
N響って、おそろしくそっけない演奏をするかと思えば、演奏の芯に炎がついたような凄い演奏をすることがあります。
朝比奈さんとのブル8は、まさに後者の典型なんでしょうね。
オルガン的な表現と内面から吹き上げてくる巨大な力の描写という点で、圧倒的だと思います。
その伝説の名演奏を生で聴かれたとは、本当に羨ましい!
あと、私のべストディスクは、実はセルのディスクなんです。
ブログの本文で書いた3条件は、ひょっとしたらセルから教わったものかもしれません。
いずれにしても、この曲は本当に偉大な音楽だとつくづく思います。
返信する

コメントを投稿

コンサートの感想」カテゴリの最新記事