ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

庄司紗矢香&カシオーリ デュオ・リサイタル(10/7) @彩の国さいたま芸術劇場

2012-10-08 | コンサートの感想
先週後半は大阪出張だった。
今回ほど悪い体調で臨んだ出張は、ほとんど記憶にない。
前兆らしきものはあったのだけど、次第に頭痛と喉の痛みが激しくなり、熱も相当あったと思う。
絶対外せない出張だったので無理を覚悟で決行したものの、肝心の金曜日の行政折衝のときには、ほとんど声が掠れてでない最悪の状態に。
しかし、何が幸いするかわからない。
熱のせいで目も据わっていたと思うし、きっとどすの利いた声に聴こえたことだろう。
「○○という解釈で、何とか△△の取り扱いを認めていただけないか」と出ない声を振り絞って懇請した私をみて、「よくわかりました。私の権限で認めます」と即答してくれたのだ。
相当難度の高い案件だったので、本当に嬉しかった。
ただ、その一瞬で体が燃え尽きてしまったらしく、帰りの新幹線では爆睡。
帰宅後も体調は一向に回復せず、6日の朴葵姫さんのギターリサイタルは涙を飲んでキャンセル。
とても楽しみにしていただけに、本当に残念。

そんな体調だったけど、このコンサートだけは何としても聴きたいと思って出かけたのが、昨日の庄司さんのリサイタル。
当初オール・ベートーヴェンプロの予定だったが、かなり大胆に曲目変更されている。
たしかにベートーヴェンを集中的に聴いてみたい気持ちもあるが、このプログラムなら私的には満足だ。

この日、庄司さんは、淡いピンクの衣装でステージに登場。
日本一の庄司さんファンを自認されているM氏のお話によると、新しいドレスらしい。
会場は休日の午後ということもあって満員。
やはり庄司さんの人気は凄い。

冒頭におかれた曲はヤナーチェクのソナタ。
村上春樹さんの「1Q84」ですっかり有名になったヤナーチェクだが、7~8年前まで私にとってどうもしっくりこない作曲家だった。
それが、当時読響のシェフをしていたアルブレヒトの一言で理解できた。
アルブレヒトは、あるレクチャーコンサートで、聴衆にこう説明したのだ。
「ヤナーチェクの音楽は、ビター味のチョコレートのようなものです」
私は思い切り腹落ちした。ヤナーチェクの音楽を素直な気持ちで楽しめるようになったのは、このときからだ。
庄司さんの演奏は、アルブレヒトの言葉を体現するものだった。
とくに終楽章が、ガラス細工のような繊細な美しさと、それを否定するかのような苦みの両面を鮮やかに使い分けていて、実に見事だった。
ベートーヴェンは、立派な演奏だったが、正直あまり印象に残っていない。

後半は、ドビュッシーで始まった。
庄司さんお得意の意外性が随所に発揮されていて、興味深かった。
ここは歌わせるはずだと思う箇所であっさり系の表現をしたかと思えば、思い切ったアーティキュレーションで驚かせてくれた。
またカシオーリのピアノが素晴らしい。
前半では音の粒立ちのよさが際立っていたが、後半のドビュッシーでは色彩感が何とも見事だ。
庄司さんの意図と上手くマッチしていたのではないだろうか。

そして、この日最も素晴らしかったのが、最後のシューマン。
以前トリフォニーホールで、ルノー・カプソンとアルゲリッチの協演を聴いたことがあるが、そのときはあまりにピアノの存在感が大きすぎて、いささか異質なシューマンだと思った。
その点、庄司さんとカシオーリのコンビでは、まったくそんな懸念はない。
緊密なアンサンブルを基軸にしながら、意外なくらい情感豊かに奏でられたシューマンだった。
シューマンはこのくらい濃密にやってもらわないと、欲求不満が残る。
終楽章だけは、もう少しスリリングな演奏が好きなんだけど・・・

鳴りやまない拍手に応えて、アンコールは2曲聴かせてくれた。
とくに2曲目に弾かれたシュニトケのパントマイムが印象に残っている。
全力を出し切って泳いだスイマーが、最後にクロールでゆっくりゆっくり流しているかのような音楽。
あのシュニトケの音楽とは、ちょっと聴いただけではわからないだろう。
途中ヴァイオリンがお約束の不協和音を奏でても、まったく違和感を感じない。
「この日のコンサート、お楽しみいただけたでしょうか」と庄司さんたちからのメッセージのように私には感じられた。
そして、そのメッセージは確実にこの日の聴衆に伝わっていたと思う。
だって、終演後のサイン会の行列が半端じゃなかったから・・・

この日は生憎の体調だったので、会場でminaminaさんはるりんさんにお目にかかったが、挨拶しようにも肝心の声が出てこない。
大変失礼しました。
本当はサイン会も打ち上げもご一緒したかったのだけど、果たせず早々に帰宅することに。
返す返すも残念。
次回は是非とも・・・

<日時>2012年10月7日(日)15:00開演
<会場>彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
<曲目>
■ヤナーチェク: ヴァイオリン・ソナタ
■ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調 作品96
■ドビュッシー: ヴァイオリン・ソナタ ト短調
■シューマン: ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調 作品121
(アンコール)
■バッハ:「音楽の捧げもの」からカノン風フーガ
■シュニトケ:「古典様式による組曲」からパントマイム
<演奏>
■庄司紗矢香(ヴァイオリン)
■ジャンルカ・カシオーリ(ピアノ)

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4 コメント

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お疲れ様でした! (minamina)
2012-10-08 19:51:47
昨日は、ありがとうございました!体調がお悪い中でしたが、お会いできてよかったです。
ピンクのドレスは、たぶん新調だと思うんですけど・・・
前に1回見たかな?いやたぶん新調・・・。
なんだか不安になってきました?!
やはりいつもどおり?素晴らしいお二人の演奏でありました。
シュニトケ、面白い選択でしたねぇ。
私も「こんな曲を最後に持ってくるとは!」とニヤニヤしながら聴いておりました。
シューマンはあのお方も随分と褒めていらっしゃったので、私も一安心でございます・・・。
今回は打ち上げ残念でしたが、ぜひ近いうちにまた一杯やりましょう!
返信する
>minaminaさま (romani)
2012-10-08 22:19:05
昨日は最後までお付き合い出来なくて、本当に申し訳ありませんでした。
次回は体調を整えておきますので、是非宜しくお願い致します。

この日のコンサート、オール・ベートーヴェンプロから激変した選曲でしたが、実によく考えられたものでしたね。
庄司さんとカシオーリのデュオは、自分たちのスタイルに楽曲を合わせるのではなく、音楽に対して常に真摯な姿勢で臨んでいるところが素晴らしいと思います。
来年は、そろそろブラームスあたり
を聴いてみたいです。
返信する
お疲れさまです (はるりん)
2012-10-09 23:04:20
ホール入口でお会いした時にお顔色が悪いなと思って心配しておりました。
でも演奏はわたしよりしっかり聴こえていらっしゃるし、さすがです!

この演奏会の記事をアップしたのですが後半の中盤以降のだいじなところからあとがすべて消えていて((((;゜Д゜)))))))
今現在腐って寝ています。
たちなおりましたらまたアップしますので、その時はトラバよろしくお願いします。。

すんごいシューマンでした。
これはまちがいありませんね。
またよろしくお願いします。
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>はるりんさま (romani)
2012-10-10 22:45:46
こんばんは。
日曜日はせっかく素晴らしいシューマンが聴けたのに、その後のアフターにお付き合い出来なくて、本当に申し訳ありません。
私自身、残念でなりません。
次回こそ・・・と、今日も気合いを入れております(汗)

>後半の中盤以降のだいじなところからあとがすべて消えていて・・・
これって、本当にショックですよね。お気持ちお察しします。
私も何回か経験しましたが、そのときの脱力感は大変なものでした。
それも「よーし」と思ったときに限って起こるのが、憎たらしいです。
でも、日が経つと、本当に印象に残ったところだけがより純度の高い状態で甦ってきますから、はるりんさんのエントリー、心待ちにしております。
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