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アリス・紗良・オット&P・ヤルヴィ(6/6) @サントリーホール マーラー:交響曲第5番他

2012-06-09 | コンサートの感想
今週は、2日続けてパーヴォ・ヤルヴィ率いるフランクフルト放送響の来日公演を聴いた。
2日続けて平日のコンサートというのは、仕事のやりくりという点でもさすがに大変。
でも一昨年のブルックナーの7番があまりによかったので、「夢よもう一度」という気持ちでチケットを入手した。
一日目はマーラーの5番、二日目はブルックナーの8番という大曲をメインに据えたプログラムは、ボリューム満点。
しかも、メインの曲の前に、それぞれアリス・紗良・オット、ヒラリー・ハーンという若き人気ソリストを立てたコンチェルトがあったので、文字通りのフルコースを味わうことに・・・。

まず第一日目の感想から。
この日前半のソリストは、アリス・紗良・オット。
彼女のピアノは、目指すものが非常にはっきりしている。
その実現のためには絶対妥協しないし、「自分の今の技量の範囲内でベストを」なんて発想は、そもそも彼女の辞書に存在しない。
自分の信じた道を、ひたすら突っ走る。(ひたすら歩くのではない!)
そして、その目指すものが、聴衆にもちゃんと伝わる。
これは簡単そうで、実は大変難しいことだ。
そんな彼女の資質が最もよく表れていたのが、アンコールで弾いた「ラ・カンパネラ」。
この曲で見せてくれたテンペラメントは、若い頃のアルゲリッチに似ていなくもない。
さすがに音楽のスケール感や凄みという点では大先輩に及ばないが、私は、彼女の潔さ、気風のよさが大いに気に入った。
リストのコンチェルトのほうは、さすがに少し主張を抑えていたようにも感じるが、それでもヤルヴィとフランクフルト放送響の温かいサポートの中で十分に羽ばたいていたと思う。
ただ、この日アリスは例によって裸足だったようだが、私の座っている席からはよく見えなくて、その点だけが残念(笑)

そして休憩を挟んで、後半はいよいよメインのマーラー。
チューニングが始まろうとしているのに、管楽器のメンバーの何人かがいない。
おいっ、大丈夫か?
そんな心配をしはじめた途端、遅れたメンバーが慌ててステージに登場。
間に合って良かった。

「パパパパーン (休) パパパパーン (休) パパパパーン・・・」
この第1楽章冒頭の有名なフレーズを、首席トランペット奏者が緊張感を保ちながら見事に吹いてくれた。
とくに素晴らしかったのが、パパパ・パーンという音型に挟まれた四分休符。
どこに感心しているんだと言われそうだけど、これほど弾力性をもった音楽的な休符の表現は聴いたことがない。
故吉田秀和氏が名著「世界の指揮者」の中でお書きになっていた、ライナー&シカゴ響の「運命」のスケルツォを、目の当たりにしたような感じがした。
この首席奏者の腕前も勿論だが、パーヴォ・ヤルヴィのリズム感の良さとオーラが成せる技だと思う。
そして第2楽章を聴く頃には、私はもうすっかり彼らのマーラーの音楽に酔っていた。
中でも印象に残っているのが、展開部の最初の方でティンパニの最弱音のトレモロをバックにチェロがユニゾンで奏でる部分。
このトリスタンとイゾルデを思い出させるような哀愁に満ちた旋律を、彼らは何と温かく表現してくれたことか。
ラストのハープ~チェロ&コンバス~ティンパニと受け継がれる最弱音の音もきわめて鮮烈。

第3楽章では、コントラバスの横に移動して、その場所で立ったまま吹いたホルンのソロが絶品。
トュッティのホルン、トランペット、トロンボーン等の金管も輝かしく、管楽器は繊細でかつ華麗。
既にフィナーレの高揚感を先取りしているような、実に見事な演奏だった。
アダージェットは、弱音の美しさが際立っていた。
また、これだけ息の長いディミヌエンドが上手く表現できるオケも珍しいだろう。
そして前述した休符の雄弁さは、この楽章でも健在だった。
ということは、やはりパーヴォの力か・・・。

呼吸することもためらわれるような最弱音・沈黙から、「目を覚ませ」とばかりに、ホルンがファゴットがそしてオーボエが、それぞれのモティーフを奏でてフィナーレが始まった。
この楽章でも、パーヴォの設計の見事さに驚かされる。
オーケストラが完璧に鳴り切った爽快感、すべての音が聞こえてくるかのようなバランスのよさが心地よい。
それでいて、サウンドは決して冷たくない。
聴いている自分がふっと浮き上がって、気がつくと音楽の大きなうねりの中に身を委ねていた。
こんなマーラーを体験したのは、ひょっとするとアバド&ルツェルンの来日公演以来かもしれない。

終演後、楽員全員が舞台から退場するまで、いや退場しても聴衆からの大きな拍手は鳴りやまなかった。
そして、鳴りやまない拍手に応えるようにマエストロが再登場すると、ブラーヴォの声とともに一段と大きな拍手が起こる。
決して誰かが煽ったわけではなく、自然発生的にそんな状況になったところが何とも素晴らしい。
それほど、感動的なマーラーだった。

P.S
アンコールは、ブラームスのハンガリアンダンスの5番と6番。
中でもヴィブラートを極力排した6番の表現が面白かった。
まるでドイツカンマーフィルの大編成版みたい。
パーヴォは、本当にどんなアプローチも出来る人です!

<日時>2012年6月6日(水)19:00開演
<会場>サントリーホール
<曲目>
■リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調
■マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
(アンコール)
■リスト:「ラ・カンパネラ」
■ブラームス:ワルツ第3番
■ブラームス:ハンガリー舞曲第5番、第6番
<演奏>
■アリス=紗良・オット(Pf)
■パーヴォ・ヤルヴィ指揮
■フランクフルト放送交響楽団

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