ETUDE

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これが、私(romani)の三種の神器です。~

新国立劇場  歌劇「運命の力」

2006-03-21 | オペラの感想
今日、新国立劇場の「運命の力」を観てきました。

<日時>2006年3月21日(火)
<場所>新国立劇場
<曲目>ヴェルディ:歌劇『運命の力』
<演奏、歌手>
■レオノーラ     : アンナ・シャファジンスカヤ
■ドン・アルヴァーロ : ロバート・ディーン・スミス
■ドン・カルロ    : クリストファー・ロバートソン
■プレツィオジッラ  : 坂本 朱
■グァルディアーノ神父 :ユルキ・コルホーネン
■フラ・メリトーネ  : 晴 雅彦 
■カラトラーヴァ侯爵 : 妻屋 秀和

■指 揮 : 井上 道義
■演 出 : エミリオ・サージ
■合 唱 : 新国立劇場合唱団
■管弦楽 : 東京交響楽団

開演前の2時半ごろオペラ劇場に入ると、2階へ上がる階段付近に人だかりができています。
一体なんだ?
近寄ってみると、人だかりの原因はWBCの中継でした。
私も内心気が気でなかったのですが、まさか新国立劇場の中で実況を見れるとは・・・。
9回表のJAPANの攻撃、決定的な10点めが入ったところでした。
奇しくも沸き起こる拍手と大歓声。とてもオペラ開演前の厳粛な雰囲気とはいえませんが、良いですねぇ。私も嬉しくって嬉しくって・・・。
そのままJAPANは9回裏最後の守備につきます。
守護神大塚が2塁打を打たれて、その後1アウト3塁になったところでタイムアップ。開演まではもう少し時間があったのですが、あまりぎりぎりになると着席時に他のお客さんに迷惑をかけるので、後ろ髪を引かれる思いで席に着きました。
(「大塚頼んだよ」と心の中で念じたことは言うまでもありません)

今日の席は、2階3列目正面という願ってもない良席。舞台も観やすいし、何よりも音が素晴らしかった。
そんななか、序曲が始まりました。
実に充実した響きがします。決して奇をてらったところはなく、これから起こる悲劇を真正面に見据えた素晴らしい序曲でした。はやくも名演の予感が・・・。

このオペラは、主役の3人にドラマティックな歌唱力が求められており、なかなかキャスティング泣かせと聞きますが、今日の3人の主役は揃って素晴らしい出来栄えでした。グァルディアーノ神父もプレツィオジッラも良かったし、メリトーネも演技力も含め出色。合唱も見事で、これだけ粒の揃った公演は、新国立劇場の演目としてもそうはないと思います。
特にレオノーラ役のシャファジンスカヤ は、幕が進むにつれて歌・演技共にどんどん迫真性を増していき、聴衆に大きな感動を与えてくれました。
声が立派なうえに表現力があるので、レオノーラ役にはうってつけの人ですね。
聴衆のブラヴォーも凄かった。

そのほか、とりわけ印象にのこった場面をご紹介すると、
第2幕第2場の後半、グァルディアーノ神父が修道士全員を集めて「聖なる洞穴には決して近づいてはならぬ」と厳命する場面、歌手達・オーケストラ・舞台が三位一体となって、類をみないくらいの崇高な雰囲気を生み出していました。
それから何と言っても第4幕のラストで、レオノーラ・アルヴァーロ・グァルディアーノ神父が「誰も呪ってはいけない」と歌う3重唱の場面、胸がいっぱいになって息もできないくらい感動しました。キリスト教の信者ではない私でも、「救済」という意味が分かるような気がしました。
そして、レオノーラが息をひきとったあと、最後にオーケストラだけで奏でるピアニシモの凄さ。オペラでこんな見事な弱音を聴いたことは、過去あったかしら。
井上道義さんと東京交響楽団に対して心からブラヴォーです。

そして、今日の舞台は本当に素晴らしかったと思います。
演出も素晴らしかったし、何よりも照明が斬新。あまり詳しくないので上手に書けないのですが、こんなに印象に残った舞台はあまり記憶にありません。
今回は、事前にゲルギエフが指揮した初演版(1998年キーロフオペラ)で予習をしていったのですが、冒頭の序曲は初演版では前奏曲になっていて音楽も少し違いがあるし、何よりも最後の場面(初演版では何とアルヴァーロも死んでしまうのです!)が決定的に違います。
このあたりも比べると本当に興味深いです。

歌手・合唱・オケ・指揮者・演出等、全ての関係者の方にブラヴォーを贈りたくなる素晴らしく感動的な公演でした。




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14 コメント

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ブラヴォー (OMARU)
2006-03-23 00:02:10
TBを拝見させていただきました。

オペラ劇場に入場したときに、あの人ごみはなんだろうと思っていましたが、WBCの日本VSキューバだったので、オペラを見る人も普通の日本人なんだと妙な感心をしました(^▽^)。



それにしても、この公演最高でしたよね。

聴衆のブラヴォーもどこかの引越し公演でも聴けないくらい凄かったですよね。



シャファジンスカヤは、すごかったですよね。あんなに、心地よい高音は聞いたことがなかったです。



初演版では何とアルヴァーロも死んでしまうのですか。よい情報をいただきました。一度、拝見させていただきたいと思います。



今後も、新国立のよい公演を期待したいですね。
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ピアニッシモの美しさ (josquin)
2006-03-23 00:55:59
私も18日に聞いてきました。



> 最後にオーケストラだけで奏でるピアニシモの凄さ。



幕切れもそうでしたが、全体にピアニッシモの美しさの際立った演奏でとっても感心しました。演出も印象的でしたし、シャファジンスカヤのレオノーラも良かったですね。



ゲルギエフの初演版、日本で上演したときに聞いたのですが、もう一度接してみたくなってきました(笑)。
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Unknown (opendoor)
2006-03-23 22:05:08
TBありがとうございます。

私が会場に入ったときには、テレビの周囲に黒山のひとだかり。野球だとは分かりましたが、ちゃんと見えないのであきらめて席に着きました。

勝ってよかったですよね。
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>OMARUさま ( romani)
2006-03-25 00:29:21
こんばんは。

出張でお礼のコメントが遅くなり申しわけありません。



「今年一番じゃないか」というOMARUさまの意見に、私も全面的に賛成いたします。

ただただ素晴らしかったです。



シャファジンスカヤ! 素晴らしいソプラノに出会ったことに感謝しております。

これからも新国立は楽しみですね。

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>josquinさま ( romani)
2006-03-25 00:36:22
こんばんは。

「運命の力」の後、出張に出てしまったためお礼のコメントが遅くなり申し訳ありません。



josquinさまもご覧になっていたのですね。

今回の公演は、オケも緊張感がずっと持続する素晴らしい出来栄えでした。

また、シャファジンスカヤのレオノーラは、今後彼女の当たり役になるような気もするくらい素敵でしたね。



来年は、指揮者もキャストも変えて「運命の力」を再演するようですが、さてどのようになるか今から楽しみです。
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>opendoorさま ( romani)
2006-03-25 00:39:25
こんばんは。

ご丁寧にコメントいただき、ありがとうございました。

まさか新国立劇場で野球が観れるとは夢にも思っていませんでしたが、こちらも勝って良かったし、肝心の公演も素晴らしい演奏だったので、想い出に残る一日になりました。

今後ともよろしくお願い致します。
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「運命の力」 (home-9)
2006-03-25 10:44:55
romani様

コメント有難うございます。

元々は寄席のファンで、オペラは年に2-3回観劇する程度ですが、今回の「運命の力」はとても良い舞台であったと思います。

主役クラスが揃って出来が良いというのは、私の中では珍しいことです。特にレオノーラ役のシャファジンスカヤの歌唱は素晴らしかった。声量、声音、表現力、どれを採っても1級でした。

演者、演奏、舞台装置、照明が一体となって、ヴェルディの世界を表現していました。

こういう舞台を見ると、又オペラに行きたくなりますね。
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>home-9さま ( romani)
2006-03-25 14:25:23
ご丁寧にありがとうございました。



>演者、演奏、舞台装置、照明が一体となって、ヴェルディの世界を表現していました

本当にそうでしたね。全く同感です。

今回の「運命の力」はレベルが高そうだと噂を聞いていたのですが、予想以上の素晴らしさでした。



>こういう舞台を見ると、又オペラに行きたくなりますね。

これまた同感です。新国立というひとつのブランドを確立して欲しいものです。
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TBありがとうございます。 (snow_drop)
2006-03-26 23:14:02
romaniさん、こんばんは。

こちらこそお久しぶりです。



とても舞台美術の美しい舞台でしたね。

照明と斜幕の使い方も、とても斬新でした。



「礼拝堂のイメージを幕を追うごとに小さくするようにした」とのこと。

私、プログラムを買わなかったので、演出家の狙いは何だったのか、よろしかったら、もう少し詳しく教えていただけますか?
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>snow_dropさま ( romani)
2006-03-27 23:12:39
こんばんは。

コメントありがとうございました。

いい音楽、いい舞台、ほんとに素晴らしかったですね。



>「礼拝堂のイメージを幕を追うごとに小さくするようにした」

この部分ですが、エミリオ・サージの言を借りると、

ドン・アルヴァーロの「希望」を表しているそうです。少し長いですがその箇所を引用しますね。

「劇中の彼は、愛する人と一緒になれず、友情を得たと思ったとたんにそれを失い、教会に救いを求めても得られないという絶望的な境地に追い詰められていくのです。そのような彼の運命を視覚化するべく、今回の舞台装置では幕を追うごとに教会のサイズを小さくしていきます。

また、壁にかかる絵画の類も古びていくことで、彼の心が蝕まれてしまう様子を暗示したりもしています」
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