六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

「拉致問題は最重要課題」って本当ですか?

2022-10-14 00:49:16 | 社会評論

 ここのところ、朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北」と略記)によるミサイル発射が相次いでいる。
 最初に断っておくが、そのミサイル発射や核実験を擁護するものではない。
 しかし、先般のミサイルについての過剰反応には驚いた。青森の友人によれば、アラームと同時に家に入り地下室へとのアナウンスがあったという。今どき、地下室のある民家はさほどあるまい。思わず、戦時中の防空壕を思い出してしまった。
 学校を休校にしたところもあったという。しかし、ミサイルが学校を狙っているのではない限り、下校すれば安全だという根拠がわからない。
 それとほぼ同様のアラームやアナウンスが東京でも流れたという。これはどうもミスだたようだ。また、愛知県は緊急危機管理委員会を開催したという。何を決めたんだろう。県民に防空頭巾でも配布するつもりだろうか。

 なぜこうした危機意識を煽るような過剰反応が気になるかというと、ひとつにはこれを強調することによってこの国の軍備強化につなげようとする勢力が確実にいるからだ。防衛予算の倍増、敵とみなされる国の基地への先制攻撃、アメリカとの核共有などが目指されている。
 もっと卑近なところでは、いま政権が陥っている危機から目をそらすという動機も混じっていそうだ。

 また、この国は、北が核やミサイルで動きを見せる度、率先して経済制裁などの「懲罰的な」行動に出ているし、日韓米で、北を「仮想敵国」とした軍事訓練も繰り返しているのは周知の事実だ。
  

 しかし、私がもっと気にしているのは、歴代内閣が、「拉致問題は最重要課題」と繰り返しながら、上のような事態とどう整合性を保とうとしているのかということだ。
 こうした動きと、拉致問題解決はどう関連するのだろうか。北を経済的、軍事的に締め上げたら「すみませんでした」と拉致被害者を返してくれるのだろうか。それとも、一時、極論として語られたゲリラ部隊の奇襲により拉致被害者を奪還してくるのか。

 どうも、北との回路を米国などとともに遮断しながら(もっともその米国すら、トランプは会談をしたのだが)、なおかつ拉致被害者をどう取り戻そうとしているのかがわからない。現行の徹底的な制裁措置と、拉致被害者の帰還交渉の両立はできっこないのではないか。
 そして、できっこないままに放置しながら「最重要課題」などと繰り返すのは被害者家族へのリップサービスのみで、実際には何もしていない、というより、むしろ拉致問題解決を遠ざける道を歩んでいるのではないかとすら思える。

 何も米韓に歩調を合わせる必要はあるまい。それら両国が、核やミサイルに「懲罰的な制裁」を行うなら、この国は「説得的な反対意見の表明」を行い、軍事演習などの力を誇示する行為には加わらず、ひたすら話し合いの窓口を探るべきではないのか。
 それらへの国際的な批判もあるかもしれない。しかし、「最重要課題」のためならそれは副次作用に過ぎまい。

 「最重要課題をどう進展させているのか」との問いへの最近の岸田の返答は、「それは、各方面への影響からして公表できません」だ。そしてこれは、安倍以降、一貫した自公政権の回答だ。
 こんな都合のいい返答はあるまい。結局は無為無策の隠蔽でしかない。

 いずれにしても、完全な敵視政策をとりながら、こちらの要求だけ飲ませることなど不可能だ。
 私たちは北の現体制を支持できないし、それへの批判的立場を堅持するが、ただし、私たちとは体制が異なる国が現実に隣国としてあるという事実は踏まえた上で交渉の窓口は開いておく、それができないならば、「最重要課題」などと白々しく口にするのはやめた方がいい。

 もし今後も同様の方針を続けるのなら、「拉致問題はもはや最重要課題ではありません。それ以前に、北を仮想敵国とした軍備の増強、そのための軍事予算の拡大、専守防衛を転換した攻撃できる軍隊の装備のほうが重要なのです」とはっきりいったほうがいい。
 現実に、事態はそのように進んでいるのだから。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする