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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

笑ってから考えるか、笑いながら考えるか 映画『はじめてのおもてなし』

2018-01-24 15:24:27 | 映画評論
 もともとのタイトルは『WELCOME TO GERMANY』、ドイツの映画である。
 喜劇である。その展開の一部始終が面白く笑える。館内でこれほど笑いの起きた映画に出会ったのは久しぶりだ。
 
 映画のシュチュエーションを明かしてしまえば、定年すぎだが未だにポストに君臨しているエリートの外科医。彼は家でも家父長的な姿勢をなにがしか保っている。
 そんな夫のもとで裕福に暮らしながら、どこかで社会的な役割にコミットしたいその妻。
 国際社会をまたにかけて活躍する超多忙な企業弁護士の息子。彼は妻に去られていて、一人息子を引き取っている。
 30歳近くても、自分の進路が見えなくて学生を続ける娘。

              

 ことの始まりは、妻・アンジェリカが亡命申請中で収容所にいる難民を支援するため、その一人を自宅へ引き取りたいと決意するところから始まる。
 その顛末が映画の内容なのだが、その詳細はネタバレになるから語らない。

 こう書くと、重くて深刻な問題なのだが、それらが徹頭徹尾、喜劇として、あるいは想像を超えた展開として描かれる。だからハチャメチャに面白い。
 しかし、そこに描かれた問題は今日的にアクチュアルで、たんなる荒唐無稽ではない。だからこそ笑えないものを笑うというひねりをもった喜劇となっている。

          

 やはりストレートな主題は難民をめぐる問題である。EUの中でその先端を切りながら、それが故にいろいろな問題にも直面しているドイツならではの映画ともいえる。
 かなりカリカチャライズされた難民支援派とネオナチ風の連中が登場するが、一方は、過剰な抱擁の使命感によるとしたら、一方はむき出しの憎悪に支配された連中である。後者は、この国の在特会と完全にオーバーラップするような存在である。

          

 もうひとつの問題は家族、並びに世代間ギャップの問題である。
 それはこの三代にわたる家族構成の中でも、過去の栄光にすがる外科医の職場にも顕著に現れる。とりわけこの家族は、崩壊の危機すらはらんでいる。もちろん映画はそれらをも笑いのネタとして容赦なく直撃する。

          

 この映画の最大の特徴は、そうしたギャップのなかに投げ込まれた難民の青年が、それら家族の抱える問題と極めて有機的に関わるところにある。異文化から来たこの青年の発する言葉は、しばしば機能本位の合理主義を超えて不思議な説得力をもつ。
 ここへきて、難民問題と家族の問題が見事に絡み合いこのストーリに厚みをますこととなる。

            

 結末は言うまい。
 ただし、監督のサイモン・バーホーベンは、最後まで訓戒めいた展開を避け、喜劇として語りきっていることを付け加えよう。
 もうひとつ付け加える点がある。それは映画の舞台がミュンヘンだということだ。このミュンヘンこそ、かつてヒトラーが政治的にデビューしたところでもある。監督はそれを完全に意識している。父親が激してきて語る口調は完全にヒトラーのカリカチュアだし、おそらくドイツではそこで多くの笑いを誘ったことだろうと思う。日本人でそこに気づいた人は少ないだろう(と、ちょっと自慢する)。

          
 
 「面白うて やがて・・・・」という芭蕉の句ではないが、さんざん笑って、なおかつ考えさせる映画であった。

なお、1月13日に掲載した、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』は、同様に難民の受け入れを扱ったものとして類似の主題を持つ。そのタッチに喜劇的要素をもたせたりする点でも似通っている。にもかかわらず、まったく違った味付けになっているのはいうまでもない。両方観てよかった。
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