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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

「もう飛ぶまいぞこの蝶々」

2016-05-31 17:39:38 | ひとを弔う
          

 見なくともいいものを見てしまった。
 庭の草木に水をやろうとしてフト足元を見ると、何かがうごめいている。片翅のアゲハだ。この断面などから見ると、どうやら鳥にでも襲われたようだ。

 胴体と片翅は大丈夫なので、必死にもがいているのだが、もちろん飛ぶことも逃げることもできない。
 自然の摂理の中ではこのまま生き延びるすべは全くないはずだ。可哀想だが、なんともしてやることはできない。
 
 写真を撮ったあと、隠すように草むらに入れてやった。
 その真上ではちょうどナンテンの花が開こうとしている。
 彼か彼女かは分からないが、その息を引き取る最後に、この花が目に入るとしたら、幾分でも幸せな気分でその生涯を終えることができるかもしれない。

          

 この過程で、私の頭を渦巻いていたのは「もう飛ぶまいぞこの蝶々」というオペラのアリアだ。
 ポーマルシェの戯曲に基づき、ダ・ポンテが書いた台本にモーツァルトが曲をつけた歌劇『フィガロの結婚』の第一幕でフィガロ役(バリトン)が歌うアリアだ。

 恋に恋する美少年、ケルビーノは、誰彼なく女性を口説き歩くため伯爵の怒りに触れて、軍隊行きを命じられてしまう。
 そのケルビーノをからかいつつ、なお激励するフィガロのアリアが「もう飛ぶまいぞこの蝶々」という曲だ。

 このケルビーノは、兵役に就いても無事に帰還するようだが、冒頭にみたアゲハはもはや死を待つのみだと思う。
 にもかかわらず、いくどもいくども、このアリアがリフレインしながら渦巻いている。
 葬送の歌にしてはいささか陽気なこの曲が・・・。

   https://www.youtube.com/watch?v=rTdcfc7ugrg



コメント (2)
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