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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

近ごろとても恥ずかしく思ったこと

2015-03-11 11:46:09 | 歴史を考える
    

 ドイツ首相のメルケルさんが来日した。
 首脳同士ということで安倍首相と同席する機会が多かった。
 対談もし、共同声明も出した。
 儀礼的な面ではそれらは完全に一致したかのように伝えられた。

 しかし、彼我の相違は心ある人には明らかだった。
 なかには私のように幾分恥ずかしい思いをした人もいるだろう。
 その論理的倫理的な面、また人格においてあまりにも違いすぎる。

 私はメルケルさんを無条件に礼賛しているわけでもない。
 彼女は西洋的、ドイツ的、キリスト教民主同盟(CDU)的限界を背負ってはいる。
 にもかかわらず、安倍氏とは格が違うのだ。
 どこが違うのかというと、哲学の有無とでもいうべきだろう。

 私たちは生きている以上、この世界の対して責任を持たねばならない。
 それは歴史的なものであったり、地政学的なものであったりする。
 責任=応答可能性(レスポンシビリティ)をどう設定するのかが問われる。
 哲学なき者はそれを「自己中」な範囲に限定したがる。
 その時自分は生まれていなかった。
 そんな遠いところでの事態には思いが及ばなかった。
 自分にはその事態については権限がなかった。
 などなどという次第である。

 この論理のもと、日本の戦争責任はことごとく曖昧にされた。
 一部の戦犯が処刑されはした。
 しかし、それをスケープゴートにして多くが責任を逃れた。
 A級戦犯に問われながら政治の場に復帰した者さえいる。
 安倍氏の祖父、岸信介氏である。

 ドイツで600万人を殺したホロコーストがあった。
 それに直接関わったアイヒマンが行った弁明もそうだった。
 「私には権限がなかった。上からに命令に従ったまでだ」
 これらが責任=応答可能性を無視する哲学の末路だ。

 しかし、メルケルさんは違うようだ。
 彼女はヴァイツゼッカー元大統領の遺訓を踏襲している。
 ヴァイツゼッカー元大統領は明確に語っている。
 「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」と。
 メルケルさんは抽象的にこれを継承しているだけではない。
 70年前のドイツの被害者である各地へと積極的に出かけている。
 そして、率直に反省と謝罪を述べる。

 圧巻は2008年のイスラエル議会での演説だった。
 歴代ドイツ首相で初めてのそれは、野次と怒号、退席者もでた。
 しかし彼女は反省と謝罪をきちんと述べた。
 その結末は拍手の嵐であったという。

 安倍氏にそれだけの度量があるだろうか。
 彼のお友達たちは、ネウヨ同様の言辞をまき散らしている。
 曰く、従軍慰安婦はなかった。南京虐殺もなかった。
 過ぐる戦争は日本が植民地解放のために戦ったのだ。
 中国や韓国のインフラは日本が整えてやったのだ。
 それにもかかわらず、恩知らずな連中は・・・・。
 と、嫌韓嫌中の言辞が尽きることなく吐露される。

 これこそまさに責任を自己中的に棚上げした言辞である。
 安倍氏は直接にはそこまで語らない。
 しかし、彼が集めたお仲間たちがそれを臆面もなく語る。
 類は友を呼ぶだ。

 中国は、戦勝70年記念式典に安倍氏を招待するかもしれないという。
 彼はそれに出るだろうか。
 メルケルさんと同様に、歴史を直視したコメントを出せるだろうか。
 世界が注目するなか、数カ月先には「談話」なるものが出る。
 しかし、その魂胆は透けて見える。
 自分の「独自色」を出し、これまでのものから後退しながら、
 どれだけ中韓などからの抵抗を避けるかの政治力学的配慮だ。

 しかし、それは単なるレトリックの問題であり、哲学ではない。
 安倍氏が真に哲学を持つならば、無限責任の立場に立ちながら、
 そこから自らの具体的な責任を語るべきなのだ。
 メルケルさんの言辞はそのようにして紡ぎだされている。

 最後に、安倍氏を選んだのが私たちであるとしたら、
 私たちもまた、その責任を負わねばならないことを肝に銘じたい。

 
彼我の相違が明確になったもう一つに原発問題がある。
 メルケルさんはもともと原発推進派であった。
 しかし、フクシマを知ると直ちにその方針を改めた。
 しかし、安倍氏は当事国なのに推進を断固として行うという。
 その理由は再生エネルギーの利用は困難だからというものだ。
 ここにも哲学の相違がある。
 メルケルさんの思考は危険なものは即やめる。
 その上でその代替を必死になって追求する。
 安倍氏は現状に拘泥することしか知らない。
 もっともその影には、原子力村の重い影があるのだが。
 いずれにしてもそれをかなぐり捨てる決意は彼にはできない。
 
 
コメント (4)
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