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【ズンドコ節考・6】 可愛いスーちゃん

2008-02-02 03:44:10 | よしなしごと
 前回まで、ズンドコ節のルーツ「海軍小唄」とその周辺を見てきましたが、海軍に小唄があって陸軍にはなかったのだろうかと「陸軍小唄」でググってみました。
 そうしたら、結構ヒットしたのですが、それは私が別のタイトルで知っていた歌でした。

 それは、「可愛いスーちゃん」、あるいは「初年兵哀歌」の名で記憶していたものだったのです。
 なぜこれが「陸軍小唄」であったかというと、その理由はこれが主に陸軍で唄われたということのみで、確たる根拠はないようです。
 しかし、その意味では、「海軍小唄」も多少歌詞を変えたりして陸軍でも唱われていたようですから、厳密に区分する必要はないのでしょうね。
 何といっても、もともとオフィシャルな歌ではなく俗謡のようなものですから、歌詞や、場合によってはメロディの一部まで変更されていたようです。

 そういえば、以下の「可愛いスーちゃん」を、「海軍小唄=ズンドコ節」のメロディで唱ったという記録もありますし、私もまたそれを聞いたように思うのです。

 

 それではその歌詞を以下に記します。【作詞・作曲】不明

1 お国の為とは言いながら  人の嫌がる軍隊に
  召されて行く身の哀れさよ 可愛いスーちゃんと泣き別れ

2 朝は早よから起こされて  雑巾がけやら掃き掃除
  嫌な上等兵にゃいじめられ  泣く泣く送る日の長さ

3 乾パンかじる暇もなく  消灯ラッパは鳴りひぴく
  五尺の寝台わら布団  ここが我らの夢の床

4 夜の夜中に起こされて  立たなきゃならない不寝番
  もしも居眠りしたならば  ゆかなきゃならない重営倉

5 海山遠く離れては  面会人とてさらに無く
  着いた手紙の嬉しさよ  可愛いスーチャンの筆の跡

 歴然とした「厭戦歌」ですが、これまでのものに比べ、兵隊生活の厳しさが具体的に描写されていることが特徴です。それもかなり否定的な描写です。それがまた、切々とした感じを持ったこのメロディに合っていたのかも知れません。「初年兵哀歌」ともいわれるゆえんです。

 戦前の軍隊は徹底した縦割りの階級社会でしたから、階級が下のものや初年兵にとっては大変でした。私の亡父は、40才近くなってから軍隊にとられたのですが、士官学校を出ただけという自分の息子のような上官に怒鳴られたり屈辱的な言葉をかけられたようです。
 しかし、それに反抗しようものなら、上の歌詞にも出てくる「重営倉」(軍隊内の刑務所のようなところ)へ押し込められてしまうのです。
 軍隊の非人間的なありようを書いた小説などもかつてはかなりありました。私の記憶にあるものでは、野間 宏の『真空地帯』などがそれです。

 

 この歌のレコード版には、冒頭に、上の歌詞の3番にもある「消灯ラッパ」のメロディが出てきます。「起床ラッパ」と違ってオヤスミナサイのラッパですから、どこか哀愁に満ちています。
 そのメロディに合わせて、こんな文句が付けられたりしました。

  ドドドドドミドミソー、ミドミドドミレドミー
  新兵さんはつらいよねー、また寝て泣くのかよー

 また、この歌の1番は、下のような別の歌詞でも唱われていたともいわれます。

1’お国の為とは言いながら 人の嫌がる軍隊に
  志願で出てくる馬鹿もある 可愛いスーちゃんと泣き別れ

 「ズンドコ節」が、戦後、何度もリメイクされてきたことはすでに見たとおりですが、この歌にも戦後版があります。ただし、この歌の切々たるメロディからして恋の歌には不向きだったようで、いわゆる不良少年を収容する練馬にあった東京少年鑑別所の歌(「練鑑ブルース」)として甦ることとなりました。

 そうした経緯ですから、もちろんいつ頃、誰が作詞したのか分かりませんし、歌詞の違うものも沢山あり、また、例えば「大阪少年鑑別所」の歌のようにその地域に応じてアレンジされたものもありました。
 歌手としては、守屋 浩や小林 旭によってレコーディングされたようですが、放送禁止に指定されたため、電波媒体に乗ることはなかったようです。

 

 ここでは、割合初期の頃の、スタンダードなものを掲げます。

 練鑑ブルース  【作詞・作曲】 不明

 人里離れた塀の中 この世に地獄があろうとは
 夢にも知らない娑婆の人 知らなきゃおいらが教えようか

 身から出ました錆びゆえに 厭なポリ公にぱくられて
 手錠かけられ意見され 着いた所は裁判所

 鬼の検事に蛇の判事 付いた罪名は傷害罪
 廊下に聞こえる足音は 地獄極楽分かれ道

 青いバスに乗せられて 揺られ揺られて行く先は
 その名も高き練馬区の 東京少年鑑別所

 薄い青テン着せられて 硬いベッドに寝かされて
 三度の飯も麦しゃりで 食っちゃ寝、食っちゃ寝の鑑別所

 格子の窓から空見れば 鳥はさえずり花さえも
 二度とここへは来るなよと 俺に言うように論すように

 新入り新入りと馬鹿にされ 便所掃除や床掃除
 三度の食事も二度、一度 夜は涙で頬濡らす

 余りの辛さに耐えかねて ぶくろの駅までずらかれば
 張り込み看守にぱくられて もとの練馬に逆戻り

 一年三月の刑終えて やっとの思いで娑婆に出りゃ
 かわいいスケちゃん人の妻 おいら一人で男泣き

 父さん母さん許してね これからまじめになりますと
 誓った言葉も上の空 またも踏み入る馬鹿の道
 
 やはり、この歌のメロディは、閉塞された場所に似合っているようです。
 鑑別所の中での収容者の上下関係、いじめ、などなど、軍隊との共通点から転用されたのでしょうが、やはりその想像力には脱帽です。


おまけのトリビア
 
 この歌は、更に全共闘時代にバリケードの中で替え歌として唱われたとのことで、いささか不十分ながら以下の歌詞を見つけました。
 やはりこの歌、閉塞された場所が似合うようです。

 身から出ました錆ゆえに 中央は法科に落ちぶれて
 よせばいいのにデモ暮らし 落ち行く先は全中闘

 ガリ切り3年アジ1年 やっとダラ幹になったけど
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(不明)

 右におわすは委員長 左におわすは書記長で
 次から次へと査問され 泣く泣く書いた自己批判


  全中闘 中央大学全共闘のことか。




コメント (2)
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