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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

昼と、そして、『夜のプラットフォーム』

2007-01-26 17:32:03 | よしなしごと
 プラットフォームはもちろん、人が発ち、帰るところです。
 それは即、様々な人生がクロスするところとして、歌や詩になってきました。


 

 私には、プラットフォームで切ない別れをしたという艶っぽい話はないのですが、ただ、胸キュンものを経験したことは二度ほどあります。
 
 ひとつは、昭和19年、もう逢えぬかもしれない父の入営を駅頭に見送った時です。入営後の父は即、当時の満州へと送られました。
 もうひとつは、生死不明であったその父が、シベリア抑留を終えて昭和23年の春、帰還することとなり、深夜のプラットフォームへ出迎えたことです。


 
 そんなことがあったせいか、『夜のプラットフォーム』というのは私の好きな歌なのですが、最近は余り聴くことがありません。

 この歌、最初は昭和14年に、作詞:奥野椰子夫、作曲:服部良一、唄:淡谷のり子でレコーディングされましたが、そのメロディの哀愁感と歌詞の切なさが既に非常時体制に入りつつある中、厭戦気分をかき立てると言うことで、即、発売禁止になりました。

 とくに、出征する兵士にとっては、生還を意味する「いってまいります」も許されず、「行きます」(往きます、逝きます)しかなかった時代にあって、「君いつ帰る」は禁句だったのです。
 以下がその歌詞です。


1 星はままたき 夜ふかく
  なりわたる なりわたる
  プラットホームの 別れのベルよ
  さよなら さようなら
  君いつ帰る

2 ひとはちりはて ただひとり
  いつまでも いつまでも
  柱に寄りそい たたずむわたし
  さよなら さようなら
  君いつ帰る


3 窓に残した あのことば
  泣かないで 泣かないで
  瞼(まぶた)にやきつく さみしい笑顔
  さよなら さようなら
  君いつ帰る


 
 メロディを知りたい方はGoogleかYahoo!で検索していただくと、それが付いたものが結構あるはずです。


 戦争が終わり、この歌が甦ったのは昭和22年2月のことでした。その折り、歌手は、淡谷のり子から二葉あき子に変わりました。

 ここまでは、私は以前から知っていたのですが、今回ネットで調べているうちに、面白いことが分かりました。




 というのは、昭和14年の折り、発売禁止にされた服部良一はどうしても諦めきれず、それに英語の詩を付けて、洋楽として発売にこぎつけたのでした。
 当時はまだ、日米開戦以前でしたから、英語の歌もかろうじて許されたのです。
 その折りの英訳の歌詞は以下の通りです。

  I'm waiting

Soon, I will be all alone.
Soon, you will be gone.
How sad each long day !
How dark each long night !
I will be waiting you,
Counting the hours you are away.
Good-bye, my lover, though we part now.
Soon be back to me, certainly !

 最後の方は「必ず帰ってこい」で、日本語の詩(「君いつ帰る」)よりも強烈なのに、軍部の目をよくかいくぐることが出来たものだと思います。

 しかし、折角のこの英語版も、昭和16年の日米開戦を持って、敵性歌謡として葬り去られたのでした。

 この話に、余分な注解は付けません。敢えて、冬の陽射しの明るいプラットフォームを載せたことをもってお察し下さい。
コメント (2)
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