自転車で家に帰る途中、ちょっと寄り道をすると高校がある。
防犯のためであろうか、夜間の無人のグラウンドに照明がついたままのときがある。
昼の喧噪が嘘みたいでただ茫漠として広がっている。
しかし、しばらくその空間を見つめていると、突如、若いさざめきの残響が聞こえる。
変声期を終えた少年の野太いおらび声、あきらかにコケットリーな少女の嬌声。
それらの間に織りなされる感情の交差、控えめな、あるいはあからさまな恋心と欲情。
昼間、過剰に発散されてそれらの残滓が、夜のグラウンドにはなお息づいているのだ。
だから、夜のグラウンドは、静謐を装ったなまめかしさに満ちている。
昼間、岐阜の街を自転車で走り回り、その後、名古屋の町を徒歩で歩き回ったら、軽い熱中症だろうか、目眩とけだるさに襲われた。
滅多に街頭のペットボトル入りの飲料など買わないのだが、この際、とにかく水分補給とばかりに飲み、しばらく涼しいところでじっとしていた。
その後の映画、『太陽』は、先般の『蟻の兵隊』に引き続き、またまた立ち見であった。この歳にはかなりつらい。
映画を見終わって、知り合いの「りりこ@マタハリ」さんの店へ行く。
久しぶりなのでゆっくりしたかったのだが、やはり疲労のせいかどうも冴えない。
私にしてはややあっさりと引き上げる。
夜のグラウンドのさざめきは、そうした私の疲れた脳細胞に浮かんだ幻聴なのだろうか。
ぁ、でもあそこで、確かに少女が笑った。それもかなりけたたましく・・。
眠っていた声たちを、私が起こしたのかも知れないと思いながら、それらの声を背にペダルを漕いだ。
寝そびれたセミが、キチキチと鳴いて、私の前をよぎった。