10月から始まったNHK朝ドラ『まんぷく』はどうでしょうね。
放送開始のずいぶん前から、日清チキンラーメンの父・安藤百福(ももふく)さん夫妻のお話と聞いていたので、日本におけるインスタント麺の勃興と発展とともに育ってきた世代として、月河も大いに期待していました。『ゲゲゲの女房』と似た動機で、同じくらいの体温でしたね。
11月に入って、いま6週めですが、こんなもんなのかなーという感じですね。安藤サクラさん扮するヒロインの福ちゃん=福子さんと、長谷川博己さんの萬平さん、ここまでいい場面が幾つもあったんですけど、どうしても、見てるだけで自然にウフフッと頬がゆるんできて、この二人の人生をずっと見ていたいと思える“お似合いのふたり”に見えてこないのが惜しい。何というか、“きれいめのオタク中年がゆるキャラマスコットを愛しんでる”みたいなんですな。
長谷川博己さんも安藤サクラさんも演技力の点では何の心配もない、いい役者さんだし、好きか嫌いかで言えば好きなほうなんですけど、組み合わせて夫婦役やカップル役に映えるかどうかは、演出や個々のキャラもあるしなかなかむずかしいですね。
6週めというと同路線の“夫婦もの”朝ドラ『ゲゲゲ』では布美枝さんがしげるさんの漫画のベタ塗りなどのアシを始め、そこへしげるの悪友というか“男のヒモ”みたいなイタチこと浦木が入り込んで「少年戦記の会」なるファンクラブの看板を掲げ、怪しい模型付録つけてちゃっかり便乗小金稼ぎを目論むなんてエピをやっていましたし、『あさが来た』では炭鉱事業に前向きになるあさをよそに新次郎の朝帰りが続き、心配した姑が妾を囲うよう勧めて、あさも「旦那様に跡取りを」と一時はハラをくくったものの「・・やっぱりイヤや!」と本音を訴え、改めて夫婦の深い絆を確かめ合うというくだりがありました。
どちらも毎朝、劇中夫婦のちょっとしたアイコンタクトや2ショット場面の空気感に、ふんわかニマニマしながら、夜、録画を再見、再々見してまで見入っていたものです。
今作『まんぷく』ではヒロインと相手役の幼少時代や遭遇エピを語る“子役パート”がなく、第一話から本役の俳優さんたちが登場して、第1週の最後は実質プロポーズだったし、“夫婦もの”の軌道に乗るのは早かったはずです。
演技力で押す派の安藤さんが、若妻の初々しさや一生懸命さを表現するために、殊更高い声で芝居しているのも一因かもしれません。「あァ~、久しぶりィ~」みたいな、語尾だけどうしてもカタカナで表記したくなる金属音、まさに“ゆるキャラの声優吹き替え”っぽいんですが、特に朝の台所で、背中で音声だけ視聴だと、意外なほど耳障りです。
第1話、昭和13年に高等女学校新卒で大阪東洋ホテルに就職した設定の福ちゃん、現在放送中の昭和21年初夏には二十代半ばのはずで、実年齢32歳のサクラさんがそんなにセリフ言いの面で若作りすることはないと思うんですが。
劇中、“結婚して間もなく戦争が激化し、夫が特高に誤認逮捕されて不当な取り調べを受け健康を損なう”“空襲が迫り、福子の母とともに縁故疎開、終戦後は子だくさんの次姉宅で仮住まいを余儀なくされる”という流れもあって、この夫婦、なかなか夫婦らしい夫婦生活が持てないでいることも一因かもしれない。
仲が良いことはわかる、福ちゃんが萬平さんの才能と人間性を心から信頼している一方、萬平さんは福ちゃんのほんわか笑顔に最初からぞっこんだったというのもとてもよくわかる。んでも、どうも、空気が熟してこないんですよ。
萬平さんのように生活感のない相手役というのは、朝ドラでは珍しくなく、むしろ好感をもって受け入れられることが多いです。家族や肉親との縁がうすく天涯孤独の萬平さん、アイディアや技術は優秀だがカネ勘定や営業に疎く、苦労人なわりには浮き世離れしていて、食糧難の時代でもカスミを食って生きてるような雰囲気があり、“生活担当”のはずの福ちゃんがそれに対して、「萬平さんは立派な発明家です!」「萬平さんだからできることがきっとあります!・・私が見つけます!」と全肯定で、そこに摩擦係数がまったくないのも、逆に、夫婦間の熟しが進まない原因かもしれない。やっぱり、“オタクとゆるキャラ”の自給自足相愛ワールドなんです。
喩えとして適切かわかりませんが、モデルが日清の安藤さんだけに、星野源さんと吉岡里帆さん演じる『どん兵衛』CMどんぎつねシリーズを思い出させるところがある。あれくらいのリアル感の希薄さ。想像上の動物との交流だからリアルに男女関係になる事は100%ない前提のあのしつらえと、誰もが見てわかる分、ふんわかニマニマくすぐったくなる度はこちらのほうが上で、成熟しているとさえ言える。
・・・それもあって、福子母の鈴さんが、顔さえ見れば「なぜ子供をつくらないの、早く孫の顔を見せて」「つくりなさいホラ、私がいるからつくれないなら、私は別の部屋で寝るからホラ」という調子なのも、あの時代には普通なこととは言えドラマとして見てるとやっぱり邪魔くさい。鈴さんを演じる松坂慶子さんが、こちらは演技派臭とは対極の、お若いときから変わらない天衣無縫な感じなので、だいぶしつこさが薄められるとはいえ、これだけ生々しさの希薄な夫婦ものドラマに、露骨な“子作り圧力ぶっ込み”は、女性視聴者の感覚でどう受け止められているのか。
萬平さん≒安藤百福さんが、ふとしたヒントからスープでもどすフライ麺を思いつくところなど是非見たいので、継続視聴するつもりではいますが、朝のBS放送分の録画のアタマと尻尾を編集して、再生して見てからディスクに移す時間が、だんだん後回しになってきました。
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