イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

アタス

2011-05-14 23:43:06 | 朝ドラマ

『おひさま』13日(金)はまさかの(まさかかよ)タケオ(柄本時生さん)大活躍。

…と言ってもちょっと時間稼いだだけだけど。タケオ家と須藤家って、どれくらいの距離感なのか、夜半、玄関先で言い合い小競り合いがあった程度で、タケオ家の耳に飛び込む程度の近さなのかわかりませんが、「おじさん、どうしただ!?」と駆けつけてきて、相馬(平泉成さん)のお付きの若い衆に組みついて陽子パパ良一さん(寺脇康文さん)を解放させると「お父さん、早く(須藤家の中の)陽子を!」と、ドサクサにまぎれて婿気分。まあ、お手柄はお手柄ですが、良一パパが「わかった!……ってオレはキミのお父さんじゃないぞ!」Uターンノリツッコミするんじゃないかと気が気じゃなかった。

 “奇襲”上京する育子(満島ひかりさん)が乗る最終列車が出るまでは心の中で一緒に見送りたいと訪れた真知子(マイコさん)は、父が最も嫌うパーマネントをあて、「これが私の独立宣言なの」と、陽子(井上真央さん)とともにお便所に立てこもり。「あの人(=生まれたときからの許婚)とは結婚したくありません、いいえ、結婚しません」「お父さまの言いなりはイヤ、自分の人生は自分で決めたい、私にも気持ちはあるんです」

そんな真知子と「一緒に戦いたかった」「一緒にいたかった」と必死にトイレの扉を押さえる陽子。こうして思い出して書いててもつい脱力笑いになるくらい見事に他愛無いのですが、家出上京という、昭和14年当時の地方の女学生にとっては死地に赴くに匹敵する大冒険に、親友のひとりが敢えて身を投じたことで、音叉が共鳴するように異様なテンションにひととき嵌まっている2人。青春のほんの一時期に、限られた狭い友人関係の間にだけなぜか訪れる、剥き出しの共感性が映し出されていて、他愛無い他愛ないと思いながらつい手に妙な汗かきながら見守ってしまいました。ある種の少女漫画でときどき切り取られる、こういう恥ずかしイタい感覚が、男性の脚本家(=岡田惠和さん)の手で描かれるのはちょっと驚きです。

社会的には、女性の幸せがひたすら“良家に嫁ぐ”しか無いと思われていた時代。傲慢で威圧的な安曇野の帝王・相馬も、自分の財力をかさに着たところはあるけれど、本当に真摯に、あの時代の父親としてひとり娘の真知子に幸せへのレールを敷いてやりたい、敷いてやっているつもりなのかもしれない。良一さんを若い衆に押さえつけさせておいて須藤家に上がり込みしなも「失礼する」と自分で靴を揃えたり(“靴”に関する小さなこだわりの散りばめもこの脚本の不思議なところです)、ここだなと目星をつけたトイレ前で、若い衆に「やれ」とフライパンを渡したり餅つく杵を渡したり、真知子をついに引きずり出し連れ帰る際にも「壊した所は弁償してやる!」と言い捨てたり、旧弊ながらも妙に義理堅いところも見えました。

最近ではNHK地デジPRミニドラマ『いちごとせんべい』の綾さん(松下奈緒さん)パパのイメージが強い平泉さんが扮しているからかもしれないし、そもそも観ているほうに“戦前の農村大地主なら、戦後は農地改革で没落するから威張っていられるのもいまのうちだけ”という知識があるので、いくら傲慢に振る舞っていてもどこかツッコみどころというか、哀愁や、可笑し味がにじみ出る。

連れ戻された早々、決意のパーマネントも伸ばされて、拒否した許婚と結局婚約させられ新聞の経済面に写真が載っていた真知子さんでしたが、今週お見合いシーンで初めて顔出しがあった許婚・中西さんは『牡丹と薔薇』で唯一の常識人キャラ=牡丹弟役だった萬雅之さん。ってことはなんか、それほど不幸な結婚にならないような気もする。神戸の資産家で欧州に鉄道事業の視察に行くということは、阪急電鉄グループとかそのへんのローカル財閥をイメージしているのかしら。

13日にはドラマ終了後の815から、ヒロインの井上真央さんが『あさイチ』プレミアムトークゲストイン。女学生時代を収録してから何ヶ月も経っていると思われ、それこそパーマヘアでいま風の井上さんでした。

名(めい)子役で鳴らした井上さんですが、特に幼くして芸ごとにひいでたお子さんだったというわけではなく、むしろおとなしく籠もりがちで「ネクラなほう」だったそうで、あまりにおとなしいので心配したお母さんが子役劇団を勧めたとのこと。劇団でのセリフ言いや発声のレッスンは「苦手でした」と正直。8歳のとき『藏』で共演した檀ふみさんが女優先輩としてのリスペクトをこめて振り返っておられたように「よく言う、“天才子役”さんっぽい感じではなかった」ところが、むしろ子役年齢を過ぎてから伸びしろがあった、まさに理由でしょう。

醸し出す雰囲気が24歳という実年齢以上に落ち着いておられる。ちょうどこのプレミアムトークの数日前、2007年のSPドラマ『花いくさ』再放送で京都祗園の、伝説の芸妓を演じる20歳の井上さんをちょっと見かけたのですが、今作『おひさま』で、むしろ女学生役最適年齢からは遠ざかっているにもかかわらず、20歳時よりずっと肩の力が抜けてまろやかにナチュラルになっているのがわかる。

子役から長じて大人の役で使える、活きる俳優さんは実はかなり少ない。もうすでにじゅうぶん成功と言える井上さん、いま見て取れる以上に、女優としてゆっくり大きな晩成型のような気がします。真知子役マイコさんからの暴露トークもあったように、“隠れ天然”さんなのもその証しかもしれません。

何より、“現行放送中の朝ドラヒロイン”として同局の生放送トーク番組、それも、自分が主役で出ずっぱったドラマ本編と連続の時間帯に単独ゲスト来演という、ホット中のホットな立ち位置なのに、井上さん、非常に微妙にテンションが低いんですよ。じゅうぶん若いし、過密な収録は続いているのだろうに肌にも張りはあるし、キラキラしていなくはないんだけど、なんか一歩引いてMCチームや、進行の動きを「ふーん」「なるほど」と眺めているような表情をする。

ある意味老成しているとも言えますが、“朝ドラヒロインはあくまで通過点”という感じ。『おひさま』後、この人はもっともっと大きな作品の大きな役が、黙っていても回ってくるでしょう。ゆえにちょっと“一期一会感”“好ましい儚さ”に欠けるのが、ヒロインとしての“陽子”のツラいところでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする