『霧に棲む悪魔』、圭以(入山法子さん)と御田園(戸次重幸さん)が今週アタマにめでたく(めでたいのか)結婚し、横浜の新居に主舞台がしばし移っているので、最近出番が少ないですが、キャストの中で一度は特筆しておくべきひとりが、龍村ファーム御用達の運送業者=小鹿運送の鹿野役、「(山﨑)邦正ちゃうわー!!」でおなじみ本村健太郎さんです。
放送前番宣の頃、キャスト情報を聞いたときには、本業弁護士さん(ご本人は「役者がメイン」と力説されていますが)が弁護士役で出るんじゃ何のひねりもないし、役作りのしようもなくて本人も逆に演りづらいだろうと思っていたら運送屋さん。出るたびいつもユニホらしきカラフルな切り替えのジャンパーなので、衣装に予算を食わない役。それは別にいいんですけど、こんなにセリフもシーンも多いご出演とは予想外でした。
本村さんキャスティングを聞いたとき、即思い出したのが、メガネつながりってわけじゃないけど、『白と黒』のクリーニング屋仲本工事さん。てっきりあんな感じで、週5話の中で1回か2回玄関先に顔を出して、謎の手がかりになることや、逆に疑念を撒き散らすようなことをクチにしては「毎度ぉー」と去って行くぐらいの役回りだと思っていたのですが、結構、主役とからむし、異物混入事件の犯人呼ばわりされてキレてあわや乱闘とか、事務所に侵入してきた白い女(入山さん二役)とニアミスとか、展開ポイントにもたまさかなっています。
このドラマ、龍村家の顧問弁護士木島(鶴田忍さん)と、ロータス女主人依子(中田喜子さん)の愛人にして御田園の代理人影山(大沢樹生さん)、あ、それから木島のパシリの唐木田(石井智也さん)もと、都合3人も弁護士が出てきて、相続だ遺産分割だ、株式だ契約だとやり合う場面も多いので、本村さん、スタッフとして脚本上の法律監修もお手伝いしてくれているのかも。となると、あまりにチョイ役では失礼ですもんね。『行列のできる~』その他のバラエティでもスベりトーク(だよね)でおなじみの滑舌には当然ながら安定感があるし、まあ、キャストらしい仕事はしてくれていると言ってあげましょう。
もうひとり、もっと特筆すべきは、龍村ファームの“使用人頭(がしら)”と公式設定ではなっているけど、チーズ職人であり牧場マネージャーでもあり生産現場チーフでもありと、実質“支配人心得”な克次役・逢坂じゅんさん。「じゅんでーす」「長作でーす」「三波春夫でございます」のレツゴー三匹のじゅんさんとわかるまで個人的にちょっと間がありましたが、ここまで笑い取りに来ない役とはまったく思わなかった。毎回、克次さんの登場場面のたび、いつボケるかいつボケるかと思って見ていたけど、3週めぐらいで完全にあきらめました。こういうあきらめはポジティヴなあきらめです。
関西発の番組や舞台は観る機会が昔からほとんどないので、じゅんさんたちレツゴーをいちばん多く見たのは1980年前後に、故・山城新伍さんと、当時テレビ朝日局アナの南美希子さんによる司会で日曜午後のタルめな時間にやっていた『笑アップ歌謡大作戦』でした。
まだ、いまのバラエティ界のようなおネエキャラとかカマキャラとかは市民権を得ていない時代に、炸裂してましたねーじゅん師匠。山城さんに「(下ネタカマネタばっかりで)オマエら末期症状や」と言われて「末期末期と言われて10年!」と開き直る、お約束やりとりが好きでした。開き直る担当はじゅん師匠じゃなく三波…もとい正児師匠だったかな。
喜劇以外の芝居でもご活躍とはなんとなく聞き知ってはいましたが、数年前、TVの『浅見光彦』シリーズのゲストでお見かけしたときは、例の「刑事局長殿のオトウトギミさま」と手の裏かえすお約束担当の地元刑事役でコメディリリーフだったような。“弟ぎみ”が榎木孝明さんだった頃の作でしたが、今回はまだ榎木さん演じる引きこもり玄洋伯父さまとの本格的からみはありませんな。
笑い取りに来ないどころか、発声もぐっと低音で、昔カマキャラで末期とかツッコまれてたのと同じ人とは思えません(頭髪具合は当時ときれいに連続している)。こだわりの味を追及する頑固な職人肌、あくまで主家の龍村姉妹を立てて尽くす忠義者、でも財産問題には「金持ちには金持ちの苦労がある」と距離をおいて、金銭や出世にも恬淡としているところ、実は同家の過去の秘密のいきさつについても知っていて、あえてクチを閉じているらしいふしなど、この手の“富豪もの”に欠かせない年長脇役としてじゅうぶん過ぎるくらい機能しています。
出戻り娘で龍村家家事担当でもある娘・美知子役の広岡由里子さん、前述の運送屋本村さんのカン高いトーンともナイスコンビネーション。目立ちませんが、登場場面の作業服や、作業所でのプライベートシーンで着ているジャンパー、お帽子などのカラーコーディネートもなにげに洒落ている。
脇役さんたちが過不足ない良い仕事をしてくれているので、主役2人(圭以=入山さん、弓月=姜暢雄さん)にも、演技力ウンヌンではなくいま少しキャラ立ちがほしいところですが、4週めを終えて、まだ“状況に流されているだけ”感が強いですね。もっと自己主張というか、譲れないものを一本しっかり持って、戦ってもらいたいけれど、いまのところそういう脚本なのだから仕方がないか。