イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

良識とちょいワルと

2011-05-22 20:38:33 | ニュース

東京発・本州重心のニュース映像で街行く人たちの服装など見るにつけ、今年は震災後一気に春が“通過”してしまったようで、暑さの到来が意地悪く早いせいでしょうか、「そんなご高齢ではなかったはず」「そんなに体調が悪かったのか」と驚くようなかたの訃報が続いています。

先般の児玉清さん、長門裕之さんの相次ぐ死去も、ついこの間までTVで頻繁にお見かけしていただけに衝撃でしたが、何が驚いたってこのおふた方、年齢まったく同い年なのね。ともに77才。長門さん193312月生まれ、児玉さん翌341月生まれで、お誕生日も2週間ほどしか違わない。

亡くなられたかた、それも数々の出演作で楽しませてくれた名優さんたちをつかまえてこんな失礼なものの言い方もないもんで、絶対なんらかのバチが当たるだろうなと覚悟決めて書きますけど(それほどでもないか)、俳優・タレントさんにおける年齢イメージと実年齢とのギャップの絶好例が、期せずして“2個セット”で出現した思いです。

児玉さんはまだかなりお若い頃から“現役世代の上司”然としていて、“リタイア年齢前後”に見えるようになってからはほぼその位置で足踏みしていた感じだし、かたや長門さんは、1995年の大河『八代将軍吉宗』で水戸光圀を演じた頃から“立派な老爺”に見えましたが、実はまだこの頃は60代になられたばかりでした。要するに、若見えさんと老け見えさんの代表選手が、期せずして同い年だった。うんとお若い、俳優人生スタートの時期ぐらいまで遡るとわからないけれど、2人とも、結構、同年代の人たちがまだちゃらちゃらしていた頃から、早めに大人っぽく老成されたタイプだったのではないでしょうかね。こういうタイプは、年齢イメージが一度固定すると長続きすることが多い。最晩年はご自身や、長門さんは奥様の患いもあって、ちょっと老化が巻き入ったかもしれませんが。

児玉さんと言えば最近は、『アタック25』やNHKBS『週刊ブックレビュー』司会がある意味ライフワークとなっておられて、俳優さんとして新作ドラマでは拝見する機会がなかったのですが、1978年の『白い巨塔』での、田宮二郎さんの財前を訴える原告側の関口弁護士役を筆頭に“知性”“良識”“清廉”担当をつとめることが多かったように思います。70年代初期の、石井ふく子Pによる一連のホームドラマでも、“良き夫”キャラだった記憶はうっすらある。

そんな中で記憶に鮮烈なのは、笹沢佐保さん原作の『人喰い』での、十朱幸代さんを、強い味方の振りして騙す凶悪知能犯役。本放送はたぶん1970年頃で、子供には手の届かない夜10時台の放送だったと思うのですが、終了後1年ぐらいたってから、午後4時頃、ちょうど学校が終わって帰宅すると観られる時間帯に再放送枠があったのですね。夜やってたけど子供の身の悲しさ(大袈裟だ)で観られなかったドラマをこの時間帯に観るのは小学生坊主時代の月河にとって最大の楽しみだったのです。

逮捕された後も「後悔はしていない。(完全犯罪計画成就寸前で)失敗したのが残念なだけだ」と嘯く児玉さんの犯人役は、石井Pワールドの理想の夫イメージが同時進行だっただけに新鮮以上のものがありました。

小坊の月河同様この再放送枠ドラマを家事の合間の楽しみにしていた実家母は、『人喰い』最終回放送日に歯医者か何かで不在で、帰ってきてから月河に「人喰いどうなった?」と当然訊くので、月河がこれも当然「コダマキヨシが犯人だったよ」と答えると、「え゛ーーーーッんなまさかぁぁ!!」と目を剥いて、しばらく信用しませんでした。5話か6話の連続もので、最終話の、それもかなり後半になってからでないと児玉さん真犯人とわからず、十朱さん扮するヒロインが驚愕の真相を知ってからの叙述演出もかなりさくさくと優秀なドラマだったと思います。

児玉さんも役者としては良識清廉以外の、もっと黒い役なども演ってみたいと思った時期があったでしょうし、演れば『人喰い』のように意外に嵌まった可能性もある。ただ稀代の読書家、とりわけミステリ通で知られるように、どこか“俳優業は人生の一部”と割り切っておられるようなふしも垣間見えました。

近年、画像診断の技術が進み癌の中でも早期発見しやすい胃がんは肺がんや肝臓がん等に比べて致命率は下がっており、治療法の選択肢も増え予後は向上していると聞きます。児玉さんのような博覧強記で知的な人が早期発見の重要性、有効性を未知だったはずはない。聞けば最愛の娘さんも胃がんを患われ、在宅医療でご家族となるべく長く過ごす道を選んで、36歳の若さで亡くなっており、児玉さんもどこかで現代医療を相対視して「生死・死期や余命のつかい方を、医療主導で制御されたくない」思いをお持ちだったのかもしれません。

一方長門裕之さんと言えば言わずと知れた、そう言う月河が大幅に知らないかもしれない、日本を代表する芸能一族のご出身で、これという一本なんか挙げたらかえって失礼に輪をかけちゃうようなもんですが、やはり最近は中村吉右衛門さん版『鬼平犯科帳』の相模の彦十でしょうかねえ。

故・江戸家猫八さんが長年築いて来たイメージのあるキャラだけに、さすがの長門さんもいろいろ演じにくかったのではないかと拝察するのですが、この彦十、いまはお頭(かしら)長谷川さまの忠実で機転の利く頼もしい密偵ですが、かつては若き平蔵のやさぐれ時代につるんで、ともに盛り場をのして歩いたこともあるツワモノ。“昔はワルかったが、いまは忠実で気のきく人情派”というこの設定の中の、おもに前半に重心おいた感じが長門彦十の真髄でした。猫八師匠の彦十は、どっちかというと後半メインでしたから。長門さんが演じると、“昔ワルかったがいまも結構ワルい、けど忠実な(以下略)”になるんですよね。

『相棒』の、特命係創設のそもそもの功労者とも言える“閣下”=北條晴臣の再逮捕収監後の話も作れなくなりましたねぇ。繭子(高橋かおりさん)のひとり勝ちか。

長く続いているシリーズだと、作中でキャラとして退場させる前に、演じる役者さんのほうがリアル人生の幕を下ろしてしまうこともある。Season 4“閣下の城”にゲスト出演されていた田中実さんも気がつけば故人です。

先日放送された『どんど晴れ』新撮SPでお顔が見えなかったようだったので、長門さんが扮した南部鉄器職人さんの出番はないホンだったのかなと思ったら、別の俳優さんがその老職人役を演じていたそうです。映像を見ていると息の白くなる寒中の撮影が相当含まれており、やはりすでに体調を考えて交代せざるを得なかったのかもしれません。

児玉さんの『アタック25』もそうですが、長く続いた番組から“いつもの顔”が永遠に消えるというのは、TV視聴者として単純に淋しいだけでなく、生の無常のようなものをも感じさせます。それでも地球は回る。ショーは続く。

閣下の末路は、収監中の瀬戸内米蔵元・法務大臣(津川雅彦さん)にでもしっかり拾ってほしいし、『アタック』もこうなったら地球が滅びるまで続いてほしいですね。ショーマストゴーオン。

コメント
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