イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

いざやいざや見に行かん

2011-03-08 17:18:55 | 昼ドラマ

結局『さくら心中』株を上げたのは、先週惜しまれつつ(?)急逝を遂げた櫛山唯幸社長役・神保悟志さんと、リベンジテンションいよいよアゲアゲな明美役・中澤裕子姉さんだけのような気がしますね。

桜子(笛木優子さん)&比呂人(徳山秀典さん)の主役カップル以下、年長世代の脇を固める皆さん、娘・息子世代の若い衆も、さしたる意外性や味出しを見せるでもなく、このドラマ放送前からの、各人持ち前のイメージのままに背景に沈んでいるようで、いささかもったいない。何を期待しての起用だったのだろうと。

2002年の『新・愛の嵐』以来久しぶりにこの枠参加のかとうかず子さんなど、“9年後”篇以降は煮しめたような色のメイクで、せっかくの衰えぬ美貌も見せ場がなく残念。夫・郁造さん(村井国夫さん)が独走で自滅してしまった“放っとかれ未亡人”に甘んじず、イケメンの恋人のひとりも作って夫に負けじと心中企図ぐらいな展開を期待したのですけれどね。

シャカのコント師・大熊啓誉さんも、期待したわりには“普通に芝居のできる芸人さん”の域にとどまっている気が。2000年前後の、『爆笑オンエアバトル』がいまより元気だった頃を支えたコンビの一角、もっとはっちゃけてくれると思ったのに。劇中ワールド自体の振り幅がコント以上だから、埋没してしまうのも仕方がないかな。タチバナ美容院のレジ奥で、桜子ら主役陣のやり合いを、シャツだけ派手な感じで所在なげに聞き耳立てている見切れっぷりなんかは結構、愛嬌がある。

一方、神保さん扮する櫛山社長は、ドラマが始まる桜子19歳・昭和50年時制においては設定60歳でスタートしたはずなので、お亡くなりになった平成2年時制は七十代半ばにさしかかっていた計算。当初はギラギラ脂ぎって、クチをひらけばカネ、カネ、金儲け、私生活はケチケチしぶちんのゴウツク一代だったはずが、いさみ酒造倒産救済のカタに桜子を息子の嫁にと言い出したのがきっかけでか、徐々に“色”に覚醒。これもまた劇中、桜子が幼女の頃から纏っている千年桜の妖気ということなのか、桜子と比呂人が「心中の前に心おきなく…」とばかり酒造り場の2階でモリアガッテいる最中を覗き見てからというものは、「凄い○○やった」「腰が抜けるほど○○しとった」「ワシの頭蓋骨の底に焼きついて離れん」と(ここらへんは検索除けのために伏せ字にしときますが)あからさまに放言してはばからない、筋金入りの色呆け爺に。

息子の嫁にした桜子の(比呂人との一夜でもうけた愛娘さくらを引き取りたいばかりの)打算結婚をのんで嵌まり、オスとして老いて行く身を儚みつつ桜子の“メス”の匂いに耽溺して「比呂人との仲は認めてやる、比呂人とここで一緒に暮らして、好きなだけ○○したらええんや」「たまにでええ、ワシにも凄い○○をしてくれ」「桜子がしてくれたら、ワシかてまだまだでけるんやぞ」と這いずるように押し倒そうとする第43話の場面は、可笑し味とペーソスに満ちた、このドラマ屈指の名場面でした。設定75歳ですからね。『相棒』の鬼より怖いオールバックの首席監察官・大河内春樹役をはじめ、『仮面ライダー龍騎』以降、『キバ』へのゲストイン時も、どっちかというと硬で冷で徹なイメージの神保さん、これだけ惜しげもなく崩して見せてくれたら、軟で笑で淫な役のオファーもガンガン来るのではないでしょうか。『相棒』ワールドで神戸くんが「ますます結婚が遠のく」と心配してそうですが。

そして忘れちゃならねえ中澤姉さんの明美。心中失敗で逃亡、吊り橋から投身も未遂で記憶を失ってさまよっていた比呂人を看護婦(看護“師”より、やはりこっちのほうが昼帯らしくていいですね)として介抱して以来、ピラニアのように食いついて離れない深情け上等。「比呂人が記憶を取り戻すためには此処でないと」と飛騨高山に強引に引っ張ってきて、渋る桜子に比呂人に会うよう強要。めでたく記憶回復した比呂人が案の定桜子と再燃したら、吼えるわめく手あげる足あげる。食べ物投げる踏みつける、ついでに中にいろいろ仕込む。比呂人がかつての心中相手桜子を認識したら、「あのときは酷い女にたぶらかされてえらい目にあった、オマエと出会ってラッキーやった」と自分のほうに戻ってきてくれるものとでも思っていたのかしらん。戻ってきたらきたで「比呂人はアンタじゃなくワタシを選んだのよん」「ワタシが比呂人をホラこんなに幸せにしたのよん」とばかり、わざと桜子の目にとまる界隈で比呂人といちゃついて見せびらかし、結局好きこのんで毎日危ない橋を渡って暮らすようになったんじゃないかと思いますがね。

女が男に惚れる、執着するという心理の中の、いちばんダークでグロでエゴい面を集約してカッタマリにしたようなキャラ。43話で明美自身の台詞で“タネ明かし”があったように、比呂人と深い仲になってすぐ、避妊していたにもかかわらず望まぬ(望まれぬ?)妊娠をして中絶手術がこじれ、子宮全摘のやむなきに至ったことが人格崩壊の主因だった模様。もったいなや、こういうタイプの女性は、どんな形であれ子供を授かって産むことができていれば、溢れる情熱とパワーの捌け口が得られたはずなのに。子供を持てない、身ごもることもできない体になってしまったとあっては、そりゃ暴発も、決壊もしますわなぁ。比呂人も罪なことを。いちばん手を出しちゃいけないタイプに手をつけて、いちばん失敗しちゃならないトコロでしくじってしまった。日本製のアレ用品は優秀なはずなのに。明美が確信犯で切れ目を入れておいたのかも。自傷して「アンタのせいでこんなんなったワタシ」と恩に着せるのも、この手の女性がよくやる技のひとつ。

モーニング娘。のオリジナルメンバーで今日のガールズアイドルグループ全盛の口火を切ったひとりでもある中澤さんが、昼帯、それもテンションの極端なことでは追随を許さない中島丈博さん脚本作でこれだけはじけられるとは予想外でした。中島作品でのここまでぶっちぎれた極北情念女性キャラは、『牡丹と薔薇』での小沢真珠さん、『真珠夫人』での森下涼子さんに匹敵する。

結構な大人女性の年齢になってからガールズグループでデビューしたりなんかすると、やっぱりオンナ同士の楽屋裏での暗闘劇みたいのもリアルでご存知で、嫉妬ジェラシー、女のダークサイド演技に直球で利いて来るのかな。思いがけないナイスキャスティングだったかもしれません。

上記2キャラに比べるといささか一本調子とは言え、桜子たち自己主張と我利我欲にかけてはひけをとらない主要人物たちを囲む外野席の、たとえばいさみ酒造の比呂人以外の従業員たちや、タチバナ美容院の美容師と客たち、桜子の生母秀ふじ(いしのようこさん)の小料理屋や沙也香(須藤温子さん)実家のカラオケスナックの客たちなど、“背景”の人物たちが文字通りの、掛け値無しの背景におさまっているのもこのドラマのすごいところ。飛騨高山って、行ったことはありませんが、山国の古都、昭和も平成も大都会だったことはないはずだし、元・庄屋の旧家での度重なる心中沙汰に不倫、痴話喧嘩の末に古女房は階段転落死、息子の嫁を離婚させて後妻にする金貸し、心中の片割れを連れて乗り込んできた派手派手身なりのよそ者女が美容院でトンカチ片手に大暴れ、しかも片割れはかつての心中相手の実家に住み込み就職…と、あり得ないスキャンダルの無限ブラックホール化して、一般市民も心おだやかにカラオケしたり一杯飲んだり髪セットしたりしてる場合じゃないと思うんですがね。

ドラマメインストーリーの当事者たち以外の、TVのこちら側の平坦なリアル世界とフィクション世界との橋渡し役になる、リアル一般常識を兼ね備えた人物がひとりも、鐚一文も登場しない、隅から隅までずずいと常識無視ぶっ飛ばしワールド。中島丈博さんの毎度の十八番ながら、ここまで来るといっそ潔い。もう、誰が生き残ってほしいとか幸せになってほしいとか考えるのも野暮。中島さんもリアルに、櫛山社長の晩年と同じ年代に入られており、失礼を承知で言えば、こういう極北的なお話はもうあと何本書いていただけるかわかりません。行くところまで行っていただきましょう。いただくしかないでしょう。

コメント
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