イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

蛾ツンと行こう

2010-04-06 15:43:25 | 昼ドラマ

5日(月)から始まった4月期昼帯ドラマ『娼婦と淑女』、初っぱなから安達祐実さんの二役2ショット、鳥羽潤さんへの「抱いて」みずから脱衣求愛など“白いご飯の見えないウニ丼”状態で幕を開けましたが、“東海テレビ得意の、ドロドロエグいネタドラマ路線”にまるっと乗っかっている様に見えて微妙に非なる、独特すぎるワールドが展開しています。

安達さん演ずる2人のうちの1人・凛子の実家で子爵家である清瀬家を実質取り仕切っているのはお祖母さまのミツ(赤座美代子さん)。日よけになるんじゃないかってぐらいたっぷりアンコ入れて突き出させた庇髪に、何て言うのかわかりませんが柄物の半襟、着こなしといい長―――い煙管といい、「~しておくれね」「~じゃないか」の言葉遣いといい、明らかに“粋スジの出”イメージです。

子爵の正妻が花柳界出身。逆風だったろうねえ。正妻におさまるまでの道程もさぞ波乱万丈、山あり谷ありだったことでしょう。いちいち説明はしないけれど、目つき顔つき一挙手一投足で、闘って生きてきた女のたぎるマグマを表現する赤座さん、圧勝の貫禄です。昨年の『夜光の階段』での老いてなおお盛んな大女優みたいな、カリカチュールな役どころが最近多い赤座さんですが、“戯画成分”の混ぜ込み配分がその都度お見事。

ひとり娘の杏子(越智静香さん)に遠縁の書生上がりの婿養子孝太郎(岸博之さん)をあてがったものの、生まれた凛子は生来の病弱。しかも女子では爵位を継げません。おまけに能なしの種馬だったはずの孝太郎が、元・使用人でいまは小料理屋を開いている千鶴(魏涼子さん)に手をつけ、男子が生まれ、あろうことかその子・太一(久保山知洋さん)を認知して屋敷の中に同居させちゃった。怒り心頭のはずの杏子は、病弱な凛子を甘やかすばかりでさっぱりピリッとしない。ミツさん、這い上がって鼻高々のはずの名家の直系の血筋を、自分の目の前で途絶えさせてはなるまじ。だから年中カリカリしているわけです。

そのせいかこの子爵家、表面は一応、名家然とした構えや調度が(昼ドラサイズで)揃っていますが、ミツさんの亡き夫=先代当主清瀬子爵の肖像も、遺影のひとつもないし、「凛子の結婚相手を発表するぱーてぃーを行なう。」の宣言まで、華族セレブにつきものの“社交”の気配がまるで見られません。とにかくトゲトゲ、ギスギスしていて、そのトゲトゲがことごとく“内”に向かっている。内に入ればトゲの突き出てる家に、外から社交に訪れるセレブ仲間なんかいませんわね。

さらには病弱ゆえ引きこもりがちな凛子のお話相手兼お世話役として、同じ子爵である久我山家の次男坊・真彦(鳥羽潤さん)が幼い頃から兄妹同然に育てられているのですが、この子爵次男、華族感ゼロ。下男以上に下男っぽい。凛子のためにストールは持つ、布団は敷いてくれる、お祖母さまが来訪したら平身低頭。メイド喫茶でも執事喫茶でもなく“お兄さま喫茶”とでもいった風情。子爵同士なら同格の家柄のはずですが、先代時代に清瀬家と何か貸借、恩讐、あったのかな。今後登場する予定の真彦父・野村宏伸さんが鍵を握っているかも。

まあ華族と言ったって格ばかりお高くて財政窮乏していた家も多いといいますし、次男以下ともなれば冷や飯食らいでしょうから、下男チックでも一種の趣味だと思えばいいのでしょうが、この真彦、「あたしはオマエを凛子の結婚相手にと思っているんだがねぇ」とお祖母さまに言われても、「そんなこと考えたこともありません」と、もじもじタジタジ、テンションの上がらないこと上がらないこと。

凛子さんのほうは、“お兄サマが好き、妹のような存在はもうイヤ”と肉食入っているのですがね。普通に考えても、他家で養子同様に育てられてコンニチがあるというこの状況なら、令嬢と結婚して家督を譲ってもらう以外、将来の希望はないことぐらいわかりそうなもんなのに、どういう料簡で小間使いまがいのことやってるのか。昼ドラにおける、ヒロインの本命王子さま役は概ねはっきりしない優柔不断うすらコンニャクみたいな男が多いのですが、真彦はそれらぜんぶの“全体集合”級の得体の知れなさです。

ミツお祖母さまが連れ歩いてる執事の藤堂(石川伸一郎さん)のほうが、真彦よりよっぽど堂々として偉そう。姿勢も良く動作もきびきびしているし、顔つきも締まっているので、衣裳取り替えたらこちらのほうが華族子弟、特に軍人系のそれに見えるかも。

また、後継ぎ後継ぎと騒ぐ家に限って、妾腹のほうが出来がいいものと相場が決まっていますが、前述の太一は「凛子さえいなくなれば」と爵位を乗っ取る気満々ながら、ときどきお祖母さまの嫌みと煙管アタックが襲来する以外は冷遇される風もなく家族の一員として一緒に食事をし、人一倍食べたほかに暇さえあれば間食の大バカ野郎ときている。

物語は凛子そっくりの容姿を持つ貧乏娘・紅子の、別荘で毒死した凛子に代わってのお屋敷潜入劇が軸となってこれから転がっていくと思われますが、華族のようでなーんか華族らしくない、入れ替わって令嬢におさまってもさっぱり嬉しくなさそうな、珍妙にゆがんだ家と人々。

ゆがみの多くは、真彦の“王子さまポジションらしくなさ”“パッとしなさ”から来ていると言ってもいいでしょう。こんなヤツに思いを寄せて結ばれても、ひとっつも幸せになれなそう。紅子の成り上がり物語、ハッピーエンドを目指すにしても、コイツがグランドフィナーレになることだけは想像できないなあ。安達さん熟練の、気合い入った貧乏ゼリフの力もあって、紅子のほうが気っぷもツラダマシイも、ずっとオトコっぽく見えるもの。どう転がるのかなあ。

コメント
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