弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事】「ゆっくり茶番劇」続報

2022年05月17日 07時55分00秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
曇り空の@湘南地方です。

さて、掲題の件。

こちら(=今回の騒動の渦中の人物のツイート)によれば、
・結局ライセンス契約は不要、という建付けに変更
・権利は継続して保有

との声明があった模様。

まあ、そりゃそーなるだろうな、という感覚。

それよりもふと目に映って気になったのが
"5/16 名義人を依頼している方の賃貸物件に実害(犯罪行為)が及びました。"
との一節。

「犯罪行為」の方は当然許されないことなわけだが、
"名義人を依頼している方" ということは、出願人には商標を使用する意思が無かったと言っているわけで。
この言い回しは、3条1項柱書との関係で結構問題なのでは…?
「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」にあたらないことになる。
まあ、仮に無効審判するとしても立証が容易ではないけど…。

ーーーー
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
 (以下略)


(商標登録の無効の審判)
第四十六条 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。

ーーーー

逐条解説において3条柱の「使用をする」とは、
「現在使用をしているもの及び使用をする意思があり,かつ,近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。」
とあり、出願時に出願人が現実に使用をしているものだけに限られないわけだけど、今回のケースは「近い将来」においても現商標権者による使用が予定されていたわけではなさそう。
そして3条柱の判断時点は「査定/審決時」なので、商標権の移転登録(=譲渡)をしたとしても、瑕疵は治癒しない(=後から傷をなくすことはできない、の意味)。

まあ、それを言い出すとライセンス「ビジネス」(個人的にはそんなものビジネスとは認めたくないが)目的の出願は殆ど該当することになるわけだし、
厳密にはいわゆるアサインバック(=他人の類似商標を引用されて拒絶理由を受けたときにその類似商標権者と交渉して出願人を一時的に名義変更する手続のこと)なんかも該当しちゃうわけだけども。
ただ少なくとも初めから「名義人を依頼」という態様での権利取得を商標法は予定していない、と考えられる。この辺りはもうちょっと審決例とかみてみないと。
<追記>例えば無効2018-890071では、移転登録のあったケースについて、現商標権者と前商標権者との間に一定の関係があって現商標権者の業務が前商標権者の業務と同視することができるとして、「自己の業務」の要件に欠けるということはできない、という判断をしている。

以上、“燃料”を投下する気はさらさら無く、法律的な観点から気になったところを取り上げてみた。
実務的な観点からは、「3条柱で無効理由主張するときってどうすればよいんだろうね?」と思いちょっと検索してみたら、色々面白そうな事案がでてきたので、
それらについてはまた回を改めて紹介してみる。


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