時空を越えた運命の赤い糸を描いたラブストーリー。過去と現在の時間が交錯し、よじれて絡まり、切れて、そして繋がる。劇中登場する「組紐」を、目に見えない運命のメタファーにした脚本が秀逸だ。男女入れ替わりの軽快なコメディタッチから、予想だにしないシリアスな展開になだれ込む。壮大なテーマを広げながら、身近で普遍的なメッセージに落とし込む。こんなストーリーをオリジナルで生み出した新海誠の作家力に唸る。但し、映像作品としては、あと10分で良いのでもう少し説明描写が欲しい。想像力に乏しい自分には、必然的な流れとして受け止めにくいことも多かった。主人公演じた神木隆之介と上白石萌音が声優にして渾身の演技を見せる。ドラマに密着した音楽と、その使い方も非常に効果的で巧い。
公開初日で劇場満席。エンドロールでも席を立つ人がほとんどおらず、満足度はかなり高そうだ。大変なヒットになりそうな予感。。。。
見ず知らずの高校生の男女が朝目覚めると体が入れ替わるという話。男子の「瀧」は東京のど真ん中に住み、女子の「三葉」は飛騨地方の山奥に暮らす。それぞれの体と生活環境はそのままに、意識だけが入れ替わる格好だ。その現象が起こるのは不定期で、そのタイミングも全く予測できない。2人はお互いの体を行き交うだけだ。実際に交わることのない2人がその状況を理解し、ルールを作り、メモを残しておくことでコミュニケーションをとっていく。このあたりが本作の個性だろう。男女入れ替わりによる思春期の高校生ならではのリアクションも面白く、自分が実際に同じ状況になったらどうするかと想像を巡らす。
お互いがすれ違う生活を送るなかで、その本人に会ってみたいと欲するのは当然の流れだ。先に動いたのは瀧で、山奥に住む三葉に会いに行こうとする。ここから予想外の展開を含め、SF的な要素が一層強まっていく。
瀧は三葉の住所を知らない。「記憶を留めておくツールをいろいろ使っているのにどうして知らないんだろ?」と一旦思うが、後から考えると入れ替わった先に記憶を残しておくことはできても、その記憶を持ち帰ることができず、夢と同じように不鮮明な情報として残るだけと理解する。ただ、そのロジックを持ってしても説明するには不十分な描写がちょいちょい頭を出す。とりあえずスルーだ。
微かな記憶を頼りに瀧が三葉を見つけだそうとする道中、知られざる事実が明らかになる。ここからが本作の本領である。壮大で美しい情景描写をバックに、奇跡を追い続ける2人の姿に目が離せなくなる。黄昏時の美しさが胸に迫る。「忘れてはいけない人」「出会うべきだった人」と、一見キレイゴト過ぎて気恥かしい「運命」というメッセージだが、多くの伏線を回収する勢いが助走となり、2人が紡ぐロマンスがドラマチックに昇華した。奇跡の存在を肯定させる力を持った映画だ。ラストのカットが本作の全てという見せ方も素晴らしく、あの結末のためにこれだけの物語があったと思うと感動が一層深まる。
しかしながら、SFをベースにした複雑な構成と、新海監督らしいキャラ描写によって、劇中多くの違和感が残った。週が明けて、原作と映画を両方知っている会社の同僚に「答え合わせ」をしてもらい、ある程度、疑問点は解消されたが、それでも視覚で表現する映像作品としては描写不足だったように思う。
瀧と三葉の恋愛感情の芽生えのタイミングが良くわからず、実感として素直に感じさせる伏線や経緯が欲しい(黄昏時「そこは名前じゃないのか!!」とツッコミ)。「口噛み酒」の力はわかったが、それを飲用することの理由づけが弱い(衛生的嫌悪が上回る)。本作の世界観で、高校生によるダイナマイト爆破シーンはエッジが効き過ぎていてバランスが悪い(他のやり方がいくらでもあったと思う)。クライマックスからラストに繋がる「奇跡」の経緯が不明確で、「結果的にそうなった」で済まされた感が強い。。。。などなど、こちらも物語のツジツマをいちいちチェックして観ているわけではないが、時間と精神の交錯という複雑な構成にした以上、必然的な流れとして受け止めるためにはもっと描くべきことがあったはずだ。
同監督映画を知っているのは「秒速~」以降なので、すべてを知るわけではないが、ジブリや細田映画などが「シンクロ」型のキャラ描写に対して、新海映画は「思いやり」型のキャラ描写であると感じる。観る側と劇中のキャラクターの感覚が、近接しながら展開する前者に対して、キャラクターの反応を目撃してから、観る側がキャラクターの心情を思いやる流れだ。とりわけ新海映画はキャラクターの「泣き」シーンが多く、「なんでそこで泣くの!?」と想像しながら見ていくことが多い。本作においては、キャラ描写に留まらず「描きたいこと」が先にあって、そのパーツをパーツを後から繋げた印象を強く感じる。自分は細田映画のほうが好みだ。(「バケモノ~」は別にして)
アニメーション作品としては文句のつけようがない完成度だ。もともと背景描写が素晴らしい監督だが、作画監督に安藤雅司を迎えたことが功を奏したようで、繊細な映像にダイナミズムが加わった。また、キャラデザインを田中将賀が担当したことで、誰もが好印象を持つクセのないビジュアルに仕上がり、一気にメジャー感が出たように思う。主人公を演じた神木隆之介と上白石萌音は、1人2役という難役をクリアし、本業と見まごうばかりの素晴らしいパフォーマンスで引きつける。ホント良かったな~。
東宝製作による本作だが、完成した本作を見た首脳陣(?)は「コレはイケるぞ!!」と色めき立ったに違いない。テレビメディアを中心としたケタ外れの大量プロモーションは、本作への自信も大きく影響したと察する。テレビドラマの劇場版が映画ファンたちに見限られつつある昨今で、脱「テレビ」によって東宝が「シン・ゴジラ」に続き、映画を優れたクリエーターの手に戻したことが、作品の完成度に結実した。
あくまで初見の感想。リピートすれば、読み取れなかった余白が見えてくるかもしれない。原作を知る同僚の解説を聞いたらいろいろと確かめたくなってきたしたな。。。
【70点】