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ナルコス シーズン2 【感想】

2016-09-17 09:00:00 | 海外ドラマ


Netflixがまた新たな傑作ドラマを生み出した。海外ドラマを観て久々に身震いした。
脚本、演出、スケール、撮影、キャストのパフォーマンス、すべてがシーズン1を上回る完成度。
長い長い闘争を経て、最終話で初めて主人公の2人が対峙する。なんてドラマだ!
エスコバル演じたワグネル・モウラにGGで主演男優賞をあげたい。

今月からNetflixにて配信がスタートした「ナルコス」のシーズン2を観終った。全10話。

本シーズンでは、麻薬王エスコバルが前シーズンで収監された刑務所(といっても豪邸暮らし)から脱獄し、その後、壮絶な戦争を経て、彼が殺害されるまでを描く。史実をベースにしているので、主人公(エスコバル)の死はネタバレにはならない(結末は織り込み済み)。

シーズン1がエスコバルが自身の帝国を築き、人生の頂点に至るまでの「上り坂」を描いたのに対して、第2シーズンである本シーズンでは、彼の帝国が崩れ去り、転落していく「下り坂」を描いている。「上り坂」よりも「下り坂」のほうが見応えがあるのは、神ドラ「ブレイキング・バッド」と同じだ。弱く崩れゆく生き様の中に人間の真価が見えてくる。恐怖と温情でコロンビアを支配した男の「人間」像に迫っていく。

本作の引力としてまず先に立つのが、途切れることのない緊張感とスリルだ。この点も前シーズンよりも大幅に増量されている。それはエスコバルの麻薬戦争に関わる勢力が増え、その関係が複雑化したことによる。シーズン1では、エスコバル率いている「メデジン・カルテル」の圧倒的な強さが目立ったが、シーズン2では、エスコバルにとって様々な脅威が台頭してくる。引き続き、エスコバル逮捕に向け協力関係にあるコロンビア政府とアメリカ麻薬取締局(DEA)の連合軍が最大勢力として彼を追いかけるが、コロンビア政府はエスコバルが唯一恐れる男「カリージョ大佐」を国外から呼び戻し、もう一方のアメリカ政府は国内での麻薬問題の深刻化に伴い、新たな人材と最先端のテクノロジーを提供する。前シーズンから再登場となるカリージョ大佐が相変わらずカッコいい。彼を突き動かすのは正義感ではなく復讐心だ。恐怖は恐怖をもって返す、ルール無用な戦いをエスコバルに仕掛け、その迫力に圧倒される。また、シーズン1でエスコバルによって身内や仲間を殺された別カルテルの一派が彼の暗殺を目論み、「メデジン・カルテル」と共存関係にあった、もう1つの最大勢力「カリ・カルテル」と手を組むことになる(この辺の関係は複雑)。そして、極めつけは、共産主義ゲリラをジャングルで一掃していた残虐武闘派組織が、自警団「ロス・ペペス」として発展し、ターゲットをエスコバルに変え、彼の息がかかった組織の人間たちを次々と抹殺していく。

それでもエスコバルは怯まない。「誰が(自分が)ボスであることをわからせる」と徹底抗戦に出る。エスコバル率いるメデジン・カルテル、コロンビア軍&DEA、カリ・カルテル、ロス・ペペス、そしてそこに裏で暗躍するCIAも加わり、血で血を洗う壮絶な戦争が繰り広げられる。やったらやり返すの復讐の連鎖により戦争は激化、町はついに無政府状態と化す。その最大の熱源はやはりエスコバルである。「俺が見たいのは血の海だ」と、自身の要求を飲まない政府への見せしめとして、何の罪もない一般人を標的とした爆破テロを起こす。完全な禁じ手だ。女性や幼い子どもを含み多くの犠牲者を出したその事件以降、それまで彼を支持していた一般人たちも打倒エスコバルになびき、コロンビア中の敵意を一身に背負うことになった。いよいよ、エスコバルの死は確実なものになる。

時系列の違いや、架空の人物の配置とその人間模様など、多くの脚色がなされているが、史実ベースでいうと起きた事件は本作でほぼ網羅されている。途中、挿入される当時の実際の映像とのシンクロも素晴らしく、本作の骨格をより強固なものにしている。

信頼、裏切り、陰謀といった人間関係がスリリングに交錯しながら、麻薬戦争の全容がスケール感たっぷりに描かれる。多用されるカメラの長回しが臨場感と緊張感を生み出す。その戦争にヒロイズムなどはなく、復讐に駆られ、あるいは欲望に憑かれた人間たちの仁義なき戦いに焦点が当てられる。目的のためには手段を選ばないのはDEAも同じであり、善悪の境界はどんどん薄れていく。悪は悪のままであり、悪は善を飲み込む。「誰を生かすか誰を殺すか選べない、それが戦争だ」の言葉が突き刺さる。作品の完成度もさることながら、TVドラマの領域でこれほど強烈なテーマをもった映像作品を製作してしまうNetflixの懐の深さに感心する。製作のスタンスが違うのか、資金力の問題は別としてもhuluやAmazonなどの他の配信事業者と比べると格が違いすぎる。

また、本シーズンで印象的だったのは、エスコバルの家庭人としてのもう1つの姿だ。家族や親類を何よりも大切していたのは、実際のエスコバルの特徴といわれており、前シーズンでもエスコバルの人間性は強く描かれていた。本シーズンでは、脅威の魔の手がついにエスコバルの家族にまで及んだことで、家族を守る父親としての姿が色濃く描かれる。妻をいつまでも愛し、子どもたちには惜しみない愛情を注ぐ。穏やかで温かい家族団欒のシーンと、悪魔の形相で邪魔者を殲滅する命令を下すシーンのギャップが凄い。「本人だけでなく、その家族も皆殺し」な凶行を続けてきたエスコバルだ、復讐の矛先が自身の家族にまで及ぶのは必至。裕福で平和な世界しか知らない子どもたちはその危機的状況を自覚できないものの、妻の「タタ」はいち早く察知し、子どもたちを守るために初めてエスコバルから離れることになる。それでもエスコバルへの愛は絶対的なもので、エスコバルの悪行に対して抗うことは一切ない。人として完全に歪んでいるが、これも愛の1つの姿だと感じる。

エスコバルを中心としたシークエンスだけでなく、彼を追うコロンビア政府やDEAのドラマパートも熱量十分だ。彼らは自身の私生活を捨て、エスコバル逮捕、あるいはエスコバル暗殺に取り憑かれる。エスコバル捜索を巡る政府内の駆け引き、味方同士であるはずのDEAとCIAの摩擦、両国の垣根を超えた捜索チームの絆、麻薬戦争を裏で操るアメリカの陰謀。。。などなど、史実にフィクションを混ぜ込み、見応え十分な内容に仕上げている。本作のもう1つの主人公であるDEAアメリカ人であるマーフィとペーニャのコンビは多くの犠牲を払いながら懸命に捜査しながらも、前シーズンでは最後までエスコバルに辿り着くことができなかった。そして本シーズンのラストでようやくエスコバルと対峙することになる。マーフィたちにとっては、ある意味神格化されたエスコバルの存在を目の前にした光景は実に感慨深いものがあった。

多くの無名の南米系俳優たちを含め、キャストたちの熱演が光るドラマでもあった。その中でも何といってもエスコバルを演じたワグネル・モウラのパフォーマンスが忘れがたい。体重を増量する役作りに始まり、ブラジル人俳優ながらスペイン語を体得し(似てるけど)、狂気に駆られた伝説的麻薬王の強さと、知られざる人間性を見事に演じきった。彼はまだ40歳なのに、あの迫力。。。凄いの一言。来週に開催されるエミー賞の候補には漏れたようだが、もう1つのドラマの受賞祭典であるゴールデングローブ賞では主演男優賞をぜひ獲得してほしい。

エスコバルの死という結末を迎え、シーズン2で完全に区切りがついたようだが、既にシーズン3の製作が決定しているらしい。多くの事件を残したエスコバルの実話から離れるため、フィクションが中心になると予想するが、果たしてどんなドラマになるのか気になる。「ホームランド」みたいに、主役級のキャラが不在になっても面白いドラマになるのだろうか。

【85点】

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