から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

「君の名は。」が超絶ヒットしている件。

2016-09-21 22:00:00 | 映画


予感が的中した。公開4週目を回った「君の名は。」がトンデモなくヒットしている。
あぁ東宝の株を買っておくんだった。。。

昨日発表された最新の興行収入にて90億を超えたことが判明。
驚くべきはその推移だ。下記は週末の興行収入結果。

1週目 9.3億円
2週目 11.6億円
3週目 11.3億円
4週目 10.7億円

公開1週目の興収を4週目まで上回る傾向は「アナ雪」以来のこと。しかも、「アナ雪」の場合、4週目まで8.5億前後で推移していたので、「君の名は。」はそれを超える水準だ。「アナ雪」の場合、8週目の段階で1週目の1.5倍に跳ね上がる異常事態が発生したため、さすがに「アナ雪」の興行収入(254億円)を超えることはないだろうが、年末の「ローグ・ワン~」まで目立った競合タイトルが公開されないため独占状態はつづき、おそらく200億近くまで行くと予想する。今年の1位確実とされていた「スターウォーズ フォースの覚醒」の110億円は通過点に過ぎず、今週末段階でクリアされるだろう。

映画の中身に関しては過大評価され過ぎと思うが、日本人の「泣ける」嗜好にマッチした映画だったんだろう。日本人が大好きなアニメタイトルであったことも大きいと思う。公開初日で客席を眺めた印象は10代っぽい若者が多かったが、最近の入場前の「君の名は。」行列を見ると、より若者率が増えている気がする。共有したがりな若者たちのクチコミ効果は絶大なのだろう。10代20代の鑑賞率、ハンパなさそう。

この特大ヒットを受け、ニュース番組を中心にテレビメディアも「社会現象」として連日取り上げている。こうなるとこれまでアニメ映画に関心のなかった年代層も動き出す。作品の性質から熱狂的なファンを生んでいるようなのでリピーターだけでも十分に稼げる。東宝は何もしなくても良い無双状態だ。雪山の頂上から雪玉を転がすようなもので、頂上まで登るまでの準備は大変だが、一回転がしてしまえば、あとは勝手に大きくなっていく。

あくまで稼げる映画人としてだが、ジブリ&宮崎駿の後継者は、本作1本で間違いなく新海誠になった。「君の名は。」と「新海誠」のワードを出せば、次回作も大ヒットするだろう。同後継と評価されていた細田守とはすっかり水をあけられてしまったようだ。個人的には新海映画よりも細田映画のほうが好きなのだが、この勢いは止められそうにない。

映画界にとっては明るいニュースだ。そのブームにノれないのが残念。

怒り 【感想】

2016-09-21 09:00:00 | 映画


意外な展開だった。ある殺人者の逃走劇と思いきや、殺人を犯した真犯人を見つけ出すミステリーだった。但し、本作は犯人探しに重点を置かない。犯人と疑わしき人間と出会ってしまった人たちのドラマから、人を信じることの難しさを語る。タイトルの「怒り」は物語の引き金に過ぎず、本作のテーマとは言い切れないのが難解。李相日の役者のアップでキメる演出があまり好きではないが、その演出に応える実力派俳優たちの名演に引き込まれる。演者たちがもれなく素晴らしい。

閑静な住宅地で凄惨な殺人事件が起きる。殺されたのは若い夫婦2人で、犯人は被害者の血を使って「怒り」という文字を殺害現場に残した。犯人に繋がる手掛かりはなく捜査が難航するなか、犯人が整形によって顔を変えている可能性が浮上。テレビメディアを駆使し、逃走犯の存在が知れ渡り、顔が似ていて犯人と疑わしき「隣人」を気にかける空気が全国に広がる。本作では、その疑惑に捕らわれた3つの舞台での人間模様が描かれる。

本作のベースは2007年に起きた英会話教師殺害事件の犯人、市橋達也の逃走劇だ。顔を整形で変え、全国を転々としながら別人として社会に溶け込んでいたことがこの事件の特異性といえる。逃走初期は自らの手で顔をいじっていたというから驚きだ(痛い!)。逃げることへの執念は相当なものだったようだ。その逃走劇のプロットを活かした本作だが、彼が逃走中に実際に目撃されていたという「新宿のハッテン場」「西成の住み込み肉体労働」「沖縄の離島」といった舞台がそのまま用いられている(「漁村」の舞台はフィクションっぽい)。

本作の絵でまず印象に残るのは、人の肌のテカリだ。真夏のサウナ状態になった殺害現場で捜査する刑事たちの汗。風俗で客に乱暴にされた女子の湿った顔面。ゲイパーティで乱舞するムキムキな男たちの光沢な肉体。狭い箱のハッテン場で隆起した肉体を激しくぶつけ合う様子。。。否応なく体臭が漂ってくるようだ。生々しい肉体描写から、生々しい人間描写へのアプローチが垣間見れる。

3つの舞台で素性の知らない男が1人ずつ登場する。当初、登場するその3人は実は同一人物であり、顔を変えた逃走犯であると予想していたが、3つの舞台の時系列が同時であることに気付き、本作の見方を早々に改めることになる。では、誰が犯人で、誰が犯人ではないかと疑いの目を凝らすが、本作の意図はそこにないようで、物語は終始、彼らと出会う人たちの視点から描かれている。素性の知らない男と、その男を受け入れる人たち。その関係が、ただの隣人関係ではなく「愛情」や「信頼」といった深い絆で結ばれようとする。膨らむ疑念と信じる心がせめぎ合う。

悲劇か救済か。本作の結果を見送ってもあまり響くものはなかった。「怒り」という言葉と本作で描かれる内容があまりリンクしておらず、犯人の短絡的な性質によるものと受け止められたからだ。しかし、2時間を超える上映時間はとても濃密に感じられた。

主役級を配した豪勢なキャスティングと、彼らがそれぞれの持ち味を活かし最上級のパフォーマンスを見せたことが大きい。演者たちの迫力の演技合戦に見入ってしまった。森山未來の底の見えない怪しさと狂気、綾野剛の女性らしい柔らかな存在感(今年は綾野剛イヤーか)、松山ケンイチの端正で影のある横顔、 渡辺謙の不器用で力強い父性。キャスト陣の中で最もキャリアが浅い広瀬すずは、精神的肉体的試練に挑んだ熱演を見せる。そのなかでも最も印象的だったのは宮崎あおいで、彼女の長いキャリアの中でも新境地と思われる難役を見事に演じていた。彼女の「お父ちゃん」に泣きそうになる。

【65点】