「時間」は誰しもに平等に与えられるものだ。
積み重ねられる時間によってもたらされる肉体的、精神的な変化を、
子どもは「成長」と言い、大人は「老い」と言う。
1人の少年が青年に成長する過程を、
12年というリアルな歳月をかけて追った本作。
その撮影方法は前代未聞の試みだったが、3時間弱という時間で、
現実の時間の流れを観客に疑似体験させることに、
見事に成功していると思う。凄い映画だ。
人の個性を形成していく過程で大きな比重を占めるのは、
まさに本作の「少年時代」(原題)だと思う。
家族、親戚、友人、恋人、社会、文化・・・・
その時代で出会ったものに影響を受けながら自身の世界が確立されていく。
本作では、特に主人公と家族の関わりを中心に描く。
生真面目で口うるさいが、いつも家族を守ってくれる母がいて、
身勝手だがカッコいい大好きな父がいて、
誰よりも冷静で自分を見失わない姉がいる。
人生は思うようにはいかず、家族の形はいろいろと変化していく。
但し、本作では家族に変化をもたらす要因を劇的に魅せることを極力避ける。
むしろ、そのきっかけすら、バッサリ省略してたりする。
その代わり、平凡でとりとめのない日常のやりとりに多くの時間を割く。
ここが本作の感慨深い点だ。
「あー、こんなこと話したっけなー」などと、
案外、人の記憶に残るのは何気ない日常の中にあったりするものだと思う。
その記憶は人によって曖昧であり、同じ家族の中であってもまちまちだ。
過ぎ去った記憶は次第に薄れ、人は今を生きながら、
新しい記憶を生み出すことに人生を費やしていく。
監督はリンクレーター。本作は、現時点までの彼の最高傑作だ。
誰しもが成し得ないプロジェクトに挑戦し、映画の完成度に結実させた。
リンクレーターならではの脚本と演出も素晴らしい冴えを見せる。
魅力たっぷりな登場人物の個性を引き立たせ、その会話を1つとっても
観るものを飽きさせることがない。劇場で幾度も笑いが起きる。
そして何より、描かれるどの日常も輝きに満ちているのだ。
両親を演じたパトリシア・アークウェッドと、
監督の盟友イーサン・ホークがキャリアベストのパフォーマンス。
加齢とともに増える、ぜい肉とシワ。肉体の変化も隠さない。素敵だ。
それぞれ本作により、次のオスカー助演候補は間違いないようだが、とても嬉しい。
素晴らしい映画に出会えた。
【85点】