から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

紙の月 【感想】

2014-11-18 12:00:00 | 映画


映画「紙の月」を観た。傑作。
ドラマ版(原作)にはないアレンジが、ツボに入った。

劇中のセリフ同様、ストーリー自体は「ありがち」だ。
人生に渇きを覚える女性が、金銭横領という甘い蜜の味を覚え、
どこまでも堕ちていく話。。。。

しかし、その背景にあるものは「ありがち」なものではない。
その入り口は、「ふとしたきっかけ」ではなく、
主人公の学生時代に培われた特異な人格形成に紐づく。
「受けるより与えるが幸い」と、他者へ施しをすることに
無償の悦びを感じるようになる。その手段が主人公にとっては「お金」だったということ。
それは紙きれのようなもので、手を伸ばせば容易に得ることができる場所にあった。
主人公の目に「お金」は人の幸福を生み出すことができる魔法のように映った。
但し、魔法は魔法。その実態は本物なのか、それともニセモノなのか。

映画版の本作では、この主人公の「必然性」がきちんと描かれている。
原作は未読だが、原田知世が主人公を演じたドラマ版は視聴済み。
おそらくドラマ版が原作に近いものだったと思う。なので、
計5話に渡る物語を、本質を壊さず巧く2時間にまとめられたなーと感心した。
「桐島~」で自信を付けた吉田監督の編集力が冴えている。
観客の想像力に委ねてよい部分を見極められている印象だ。
こういう優れた編集は日本映画には滅法少ない。

主人公が他者に与え、見返りを得ることに快感を覚えたのか、
それとも、無償の愛に快感を覚えたのか、人によって見方は分かれそうだが 、
自分は後者のように感じた。
若い大学生との情事においても彼女が欲したことが口火ではない。
求められたことで、秘めたアイデンティティーが呼び覚まされたのだ。
高い洋服を買って着飾ることも彼女自身の物欲を満たすものではない。
なので、欲望を前面に打ち出す描写が少ないのは当然のように思えた。
主人公と大学生が惹かれあう地下鉄のシーンが幻想的で美しく、目に焼きつく。

映画版のアレンジで素晴らしかったのは、
オリジナルのキャラとして、銀行のお局様こと「より子」を置いたことだ。
冷徹でモラルを貫くより子を、主人公と対立させるのではなく、
共鳴する立場として描いてみせる。より子が発した答えの迫力が凄い。
正当化することが許されない罪を背負いながらも、自由を勝ち得た主人公と、
自由を知る術を知らないより子、2人の優位性が揺らぐ。。。
そのせめぎ合いを余すところなく描いたクライマックスに鳥肌が立ち、引き込まれた。

「美しき横領犯」という安い宣伝文句は不適当。
主人公演じた宮沢りえは千載一遇という役を得て、見事に輝いた。
彼女の声色がとても綺麗で魅了されると共に、惑わす魔力になる。
実生活で母になった彼女の母性は隠されず、
肉体的な盛りを過ぎた佇まいが強い説得力を出す。
その一方で宮沢りえは宮沢りえ。劇中で磨かれると一気に絶世の美女になる。
やはり女優はこうあって欲しい。

そして助演として大きな賛辞を送りたいのは、より子を演じた小林聡美だ。
彼女の存在感なくして本作は成功はなかったと思う。

池松壮亮の若さの利点を理解し、それを十分に発揮したパフォーマンスはさすが。
懸念していた大島優子も名だたる俳優たちを前に一歩も引けをとらない好演だった。

前作ではキャリアの浅い役者陣を相手に見事なタクトを振るった吉田監督だが、
本作ではガチな実力派俳優たちを前に堂々のオーケストラを奏でる。
音楽も前作と対照的で、ほぼBGMのなかった前作から、一転、
登場人物たちの心理描写、展開の波に多くの音楽を多用する。
起伏の少ない展開の中、とても効果的に使われていると感じた。
役者陣の名演を引き出した演出手腕は勿論のことだ。

惜しむらくは、場面が変わったラストシーン。
お金が持つ力を再認識させる、重要な意味を持つシーンだと思うが、
少し芸が無さすぎだ。

ただ、それを含めても、今年見逃さなくて良かったと思える日本映画だった。

【75点】
コメント
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