そもそも論者の放言

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『会社のなかの「仕事」 社会のなかの「仕事」~資本主義経済下の職業の考え方 』 阿部真大

2023-11-27 10:40:00 | Books
「やりがい搾取」
資本が求める「仕事」と労働者の「やりがい」が一致することによって、不当な搾取状態が見えにくくなり、労働者自ら搾取率を高めている状態。

著者は、2000年代初頭にバイク便ライダーの勤務実態をもとに「自己実現系ワーカホリック」という状況を指摘し、これを教育社会学者の本田由紀が一歩押し進めたのが上記の「やりがい搾取」という概念。
そんなやりがい搾取が蔓延する世の中の課題を解決するために、仕事を「会社」ではなく「社会」の中で位置づけ直そうというのが本著のテーマ。

著者の主張は第1章に集約されている。
仕事は、客に喜んでもらうためにするものではない。社会の中で自らの役割を果たすためにするものである、と。
社会の中での役割、即ち仕事を「職業」として捉え直す。
職業の社会的役割を明確化し、仕事内容を社会的に規定することで、仕事の無限定性に歯止めをかけようという考え方。
労働組合を職業別の組合として再活性化させることや、「ユーモア」を職場の中に採り入れることが提唱される。
(後者については、職場を相対化して没入度合いを軽減する意図だと解釈した。)

この文脈で池井戸潤作品への一部批判的な論評なども語られるのだが、この考え方自体は明確で現代日本社会の病理を建設的に指摘いて好感を持った。

一方で、会社という組織に身を置きながら「職業人」としてあり続けることは簡単なことではない。
承認欲求や組織内競争のゲーム性などが「組織人」たることへの強力な誘惑を生じさせる。

また、職業ベースで仕事を捉える考え方は、グローバルスタンダードに日本社会を近づけようとする意味合いも持っており、それに対する反発心はグローバル化に対するバックラッシュの側面も持っていることも指摘されている。
グローバル化の流れに反発するローカル層に、グローバル・エリートが直接影響を与えることは容易ではなく、ローカルで働いている人の仕事観を少しずつ変えていく働きをするローカル・オルト・エリートの存在が重要であると、著者は主張する。

この点が、本著に好感を持ったポイントのもう一つの点。
仕事を「職業」として捉え直すためには、当然のことながら各人の「職業」が何であるかが明確になっていることが前提となる。
その意味では、いわゆる「ジョブ型」労働と極めて親和的なもの。

「あなたの職業は何ですか?」と問われて、「会社員です」と答える人が大半という世の中を少しずつ変えていく。
ぜひそんな取り組みに自分の力を使ってみたいな、とクリアに思わせてくれた点で、自分にとっては良著であった。

#ブクログ




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