宮崎駿監督「この世は生きるに値する」 引退会見の全文(日経新聞) <登録会員限定>
「引退」といっても何かの契約を更新しないとかそういうはっきりした区切りがあるわけではなく、自分自身が「もう作らない」と決めたというだけのことで、ご本人にしてみれば本来他人様に宣言するような話でもないが皆が聞きたがるので面倒くさいから発表した、というくらいのものなのだろう。
会見の言葉の中で個人的に最も印象的だったのは、以下の一節。
監督になってよかったと思ったことは一度もないが、アニメーターになってよかったと思ったことは何度かある。アニメーターは、なんでもないカットが描けたとか、うまく風が描けたとか、うまく水の処理ができたとか、そういうことで2、3日は幸せになれる。アニメーターは自分に合っているいい職業だったと思っている。
自分は、小学生のときにナウシカを、中学生のときにトトロを観て心底衝撃を受けた(ラピュタはリアルタイムではなくだいぶ後になってから観た)。
ナウシカではその世界観の壮大さと神秘性に打たれたのだけれど、トトロではアニメーションの表現の繊細さに吃驚した。
特に「風」の表現だ。
風が森の木々や水田に張られた水をなでていく様の表現。
それまで、アニメ(に限らず映画やドラマ)というものを「お話」としてしか捉えていなかった自分に、それらを「表現」として観る視点を与えてくれたのが『となりのトトロ』だった。
大人になって映画好きになって今に至るまで、その視点は自分の観賞スタンスの基礎になっている。
そして、宮崎氏のおそらく最後になる商業映画が『風立ちぬ』。
近々二度目の観賞を予定している。
スクリーンに定着した「風」をじっくり堪能してこよう。